残業代請求は労働組合(ユニオン)と弁護士、どちらに相談すべき?
労働者の立場が弱いことは、企業への残業代請求を難しくします。そこで労働者は自分と一緒に戦ってくれる弁護士や労働組合に加勢してもらいます。企業労働組合がない場合も合同労働組合であるユニオンに頼ることができます。残業代請求は労働組合と弁護士のどちらに頼んだ方が良いのでしょうか?
- 残業代を請求することができるのはどんな人?
- 1日8時間以上、週40時間以上働いている人
- 次の項目に当てはまる人は、すぐに弁護士に相談
- サービス残業・休日出勤が多い
- 年俸制・歩合制だから、残業代がない
- 管理職だから残業代が出ない
- 前職で残業していたが、残業代が出なかった
この記事で分かること
労働組合(ユニオン)を通じた残業代請求
労働組合を通じた残業代請求は個人対個人でなくユニオン対企業という構図で行われます。労働組合は労働環境をよくするために活動しているため弁護士とはまた違った形での交渉ノウハウや経験を持っています。
もし、労働組合(ユニオン)を通じた残業代請求がうまくいけば残業代を払ってもらえるだけでなく労働環境そのものの改善が期待できます。しかし、できるのはあくまで交渉(団体交渉)にとどまりますからお互いに合意できなければ裁判に持ち込まれます。労働組合を通じた交渉によって妥結された書類を労働協約と言います。
労働協約は就業規則よりも強い効力を持ちます。制度変更のない和解をした場合も労働協約という書類が成果物になります。
労働組合(ユニオン)とは
労働組合をわかりやすく説明すれば、企業と対等な関係を築くために結成された労働者の団体です。会社は労働者に比べて立場も経済力も高いため対等な交渉は難しく、一人では労働者が根負けするケースが良くあります。
そこで、労働組合は労働者が団結して会社が無視できない勢力を作ります。個人で戦うよりも現実的で、労働組合からのサポートを受けられる点もメリットです。
労働組合と言えば企業内にあるイメージですが、最近は労働組合を作っていない企業もたくさんあります。労働組合のない企業に勤めている場合は企業の垣根を超えた合同労働組合に加入して団体交渉ができます。
労働組合を指してユニオンという時は合同労働組合を指すことが多いです。
団体交渉~立場の弱い個人ではなく団体で会社と交渉
労働組合を利用した交渉は団体交渉と呼ばれ、実は日本国憲法の団結権が根拠になっています。(具体的な決まりは労働組合法に定められています。)
よく、企業と労働組合が賃上げの交渉をする春闘も団体交渉の一つです。
団体交渉でできることは労働条件や労働者の待遇などの義務的交渉事項、労働者に直接かかわらないが使用者が権限を持っている任意的交渉事項についてです。
労働組合の主目的は「組合員の雇用維持・改善」
労働組合の主な目的は組合員の雇用を維持すること、待遇を改善することにあります。そのためにいろいろとサポートしてくれますが、弁護士に依頼した時のように代理人を務めるわけではありません。
例えば公的機関からの書類を取り寄せることは自分で行います。団体交渉への同席も求められます。労働組合に協力を求める場合は自分のすべきことと労働組合が協力してくれることをしっかり確認しましょう。
組合員でない人の問題も扱ってくれるけど…
労働組合が行う団体交渉は会社全体の待遇改善や制度変更に関わってきます。そのため、労働組合に加入していない人の問題を扱ってくれる場合がありますが、あくまで「組合員の問題と一緒に扱うかもしれない」程度です。
労働組合に加入していない場合は改めて加入するか弁護士に依頼するのが現実的です。
労働組合(ユニオン)へ相談するメリット・注意点
残業代請求を労働組合(ユニオン)に相談する場合はこのようなメリットと注意点があります。特に労働組合への加入が必要である点や労働組合の性格によって成果が大きく変わる点は理解しましょう。
団体交渉で会社に圧力をかけることができる
労働組合に相談すると、団体交渉で会社に圧力をかけることができます。個人であれば落ち着いて対応できる場合でも団体が相手というだけで脅威に感じるものです。特に団体交渉に慣れていない会社は労働組合の圧力を感じやすいです。
団体行動権も圧力になる
労働組合は団体交渉権の他に団体行動権を持ちます。団体行動権とは企業に要求をのませるために行動をとれる権利です。例えば残業代の支払いに応じない企業に対してストライキをすることや、街宣を行うこと、取引先に労働環境の実態を言いふらすことなどが行われます。
ストライキはもちろん、会社の評判を落とされる行為は使用者側にとって痛手になります。団体交渉は団体行動というオプションを示しながら行われます。
労働組合にとって、団体交渉は実績を示す場になります。だからこそ一労働者の問題に協力してくれます。
会社に対して「労働環境の改善」を求めることができる
労働組合を利用した場合と弁護士を利用した場合で最も異なるポイントです。労働組合は組合員の雇用関係の維持と待遇改善を目指す団体ですから残業代請求以外にも企業に認めさせるべきポイントがあれば一緒に解決を図ります。
よって労働者個人の問題が解決できれば良いなら弁護士に、残業代請求を通して労働環境そのものを変えたいと考えているなら労働組合に相談すると良いでしょう。
団体交渉は基本的に受け入れられる
労働組合による団体交渉は、企業に応じる義務があります。正当な理由であることと雇用されていることは条件ですが労働局が行うあっせんのように企業が拒否できるケースは少ないです。
ちなみに、解雇された場合でも不当解雇の可能性があるため労働組合を利用できます。何らかの問題が起きてから労働組合やユニオンに加入することも可能です。
労働問題への対応に豊富なノウハウを持っている
労働組合は労働問題への対応に豊富なノウハウを持っています。この点は弁護士と一緒ですが、労働組合だからこそできる作戦もあります。ただ、労働組合によっては弁護士より労働法に詳しくない場合もあります。
労働組合への加入が必要
労働組合は組合員のために動く団体です。労働組合を利用したければ労働組合に加入しなければいけません。会社の労働組合が信用できない、会社に労働組合がない場合はユニオンへの加入が必要です。
会費や解決金がかかる
労働組合は組合を維持するための会費や問題を解決した後の解決金が求められます。よく、ユニオンは福祉団体のように見られがちですがあくまで問題解決のための連帯です。労働組合に加入するときは会費を含めた料金や退会の方法をしっかり確認してください。
労働組合への相談料は無料に設定されていることが多いです。
組合内の雰囲気、活動やサポート体制もまちまち
労働組合は加入した団体によって中身にばらつきがあります。実行力やサポート体制でギャップを感じないよう事前確認が肝心です。
労働組合は思想にも差があります。会社に法外な要求を押し付けて過激な団体行動で脅す労働組合もあれば、企業との癒着が強く労働者本位の団体交渉をしてくれない労働組合もあります。特に後者を御用組合と言います。
企業に労働組合が複数存在する場合やユニオンへの加入を検討している場合は自分のスタンスに合った団体を選びましょう。
退職した場合は団体交渉ができない
企業が団体交渉に応じるべきは労使関係にある人が加入している組合です。会社を退職した場合は労使関係がないのでユニオンに駆け込んでも団体交渉が原則できません。
残業代請求を退職後に行うなら弁護士に相談したほうが無難です。
弁護士へ相談するメリット・注意点
弁護士へ相談する場合は、労働組合と違い個人対会社のやり取りになります。弁護士に依頼するメリットと注意点はこちらです。
弁護士に対応を任せることができる/h3>
弁護士のメリットは対応を任せることができる点です。残業代の計算や内容証明郵便の作成をしてもらえるうえ会社との和解交渉を代理してもらえます。弁護士は士業のなかで唯一依頼者の代理が可能な職業です。会社の人と向き合いたくない場合や、交渉に弱い人も安心して残業代請求ができます。
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2017年5月30日10,354 view
穏便な解決ができる点も大きなメリット
弁護士による残業代請求は穏便な解決を図りやすいです。労働組合を利用すると会社全体の問題に発展して大事になりかねないからです。少なくとも本人が望まない規模の争いになることは望ましくありません。残業代請求だけ早く取り戻せばよいという場合は弁護士を利用して残業代を請求したほうが良さそうです。
裁判にも対応可能
弁護士は裁判に対応可能です。裁判も他の職種では労働者の代理ができません。労働法への理解や裁判でのノウハウはやはり弁護士が優れています。
裁判に発展する例は少ないですが、いざという時に弁護士がいると心強いです、社労士や司法書士に残業代請求の相談をした場合も状況に応じて提携の弁護士を紹介されます。
労働組合も裁判になれば弁護士と協力する
労働組合に相談したからと言って、団体交渉がうまくいくとは限りません。法的な解決のために裁判が必要です。労働組合によっては信頼できる弁護士を紹介してくれるので弁護士と労働組合はむしろお互いを補う関係にあると言えます。
初回無料相談の法律事務所も多い
弁護士に頼むデメリットとして大きいのは相談料だと思います。弁護士の相談料は30分で5000円もかかるためお金の余裕がないと利用しづらいです。
弁護士事務所もその点を理解しており、最近は初回相談を無料にしている弁護士事務所も少なくありません。ただ、初回無料といっても時間制限はあります。大体は30分から1時間までが無料でそれ以降は通常料金となります。
残業代請求や労働問題に強い弁護士を選ぶ必要がある
弁護士はあらゆる法律に対応できる権限を持っていますが、すべての法律に詳しい弁護士はいません。法律は複雑で数が多く、しかも判例も詳しく理解しなければいけないからです。むしろ、数ある法律の中から対応分野を絞っている弁護士事務所が基本です。
残業代請求についても労働問題を専門として扱っている弁護士を選ばなければ満足のいく解決はできません。残業代請求に詳しい弁護士は、正確な残業代計算、実行力を持つ証拠選び、企業の利害を抑えたスマートな交渉が可能です。
残業代請求に強い弁護士を選ぶなら、事務所の専門性・残業代請求の実績・口コミ・対応の誠実さが重要です。
労働組合(ユニオン)と弁護士、相談しやすい方に問い合わせよう
残業代請求は労働者の正当な権利ですが、会社に比べて立場の低い労働者が対等に争うことは困難を極めます。労働組合(ユニオン)でも弁護士でも良いので、力強くサポートしてくれる味方を探しましょう。残業代請求についてよく考えていない段階でも問い合わせはできるはず。
まずは声を上げることが重要
権利は訴えなければ得ることができません。相手が間違っているならしっかりと声を上げてください。頑張って働いたお金はあなたの努力そのものです。
残業代は2年の消滅時効を持っているので黙っていると取り戻せる残業代はどんどん減っていきます。残業代の未払いが分かったらできる限り早く会社へ請求しましょう。
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