残業代が請求できるのは2年分だけ!?時効の中断を利用しよう
残業代の請求権は、支給日から2年経過すると消滅してしまいます。そのため、未払い残業代があることに気づいたら、速やかに時効を中断させることが大切です。時効の中断には労働審判や裁判で請求することが必要ですが、会社側に内容証明郵便を送付して「催告」すれば、仮に時効を中断させることができます。
- 残業代を請求することができるのはどんな人?
- 1日8時間以上、週40時間以上働いている人
- 次の項目に当てはまる人は、すぐに弁護士に相談
- サービス残業・休日出勤が多い
- 年俸制・歩合制だから、残業代がない
- 管理職だから残業代が出ない
- 前職で残業していたが、残業代が出なかった
この記事で分かること
残業代の請求権は2年で消滅時効を迎える!
「未払い残業代を取り戻したい!」そう思っても、本来の支給日から2年経つと時効によって請求する権利がなくなってしまいます。時効にかからないうちに、会社側に内容証明郵便を使って請求し、時効を中断することが非常に大切です。
消滅時効とは一定期間が経過したのちに権利を消滅させるもの
「時効」という言葉を聞いたことがない人はいないと思いますが、時効になるまでの期間はケースによって異なります。
時効には2種類ある
時効には「消滅時効」と「取得時効」の2種類ありますが、残業代の請求に関係する時効は「消滅時効」です。
消滅時効とは、権利を一定期間行使しない場合に、その権利を消滅させる制度のことです。法律の世界では「権利の上に眠る者は救われず(権利があるのにその権利を行使しない者は救われない)」という考え方があるため、行使できる何らかの権利を持っていても、一定期間を過ぎるとその権利は失われることになっています。
金銭にまつわる請求権を「金銭債権」と言いますが、一般的な金銭債権の消滅時効は、法律上当事者がビジネスでお金を貸し借りする場合は5年、ビジネスでのお金の貸し借りではない場合は10年と定められています。
たとえば、Aが自分の友達Bに個人的にお金を貸した場合、AはBに対して返済を要求しなければ、お金を貸した日から10年経った時点で返してもらえる権利がなくなります。つまり、BはAから10年間借りていたお金を返さなくてもよいことになるわけです。
未払い残業代の請求権も、支払日から2年で時効に
未払いの給与や残業代なども金銭債権のひとつですが、特に、それらの金銭債権のことを「賃金請求権」と呼びます。賃金請求権に関しては、消滅時効がたった2年と非常に短く設定されています。つまり、未払い残業代を請求しようと思っても、請求する時点から過去2年分しか遡って請求することができなくなっているのです。
たとえば、毎月の給料日が25日の場合、2017年5月26日の時点で請求できるのは、2015年5月26日以降の給料日に支払われるべきだった残業代のみです。逆に言えば、2015年5月25日以前に発生していた残業代は、どんなに額が多くとも請求できなくなることになります。
未払い残業代は少しでも早く行動する必要がある
「忙しいから手続きをする時間がない」「退職後少しのんびりしてから請求しよう」などと思っていては、未払い残業代に関する時効がどんどん到来し、会社側に請求できる金額が減ってしまいます。そのため、未払い残業代を1円でも多く取り戻すには、いち早く行動を起こすことがカギとなるわけです。
2年分以上未払い残業代が請求できる場合もある
未払い残業代が請求できるのは、原則として過去2年分のみですが、例外的に2年以上さかのぼって請求できる場合もあります。それはどのような場合なのかについて見ていきましょう。
会社側が時効期間を過ぎた後に未払い残業代を支払う意向を示した場合
たとえば、会社の社長が時効の期間を過ぎた後に「未払いになっている残業代を、分割でなら支払う」と言ってきた場合は、会社側が申し出た時点で時効の成立を主張することができなくなります。
もし、会社の社長が時効の完成を知らずにこのような申し出をした場合でも、相手方である従業員は未払い残業代を支払ってもらえるとの期待を抱くことから、信義則(信義誠実の法則)上、会社側は請求された未払い残業代を全額支払う義務が生じるものと考えられています。
そのため、会社の社長があとから時効の完成に気づき、「やっぱり時効が過ぎているから支払わない」などと言っても、支払いを拒否することはできません。
不法行為に基づく損害賠償として残業代を請求する場合
また、会社側の不法行為に基づく損害賠償責任を追及する場合、2年分より多い金額を支払ってもらえます。なぜなら、賃金請求権の消滅時効は2年であるのに対し、損害賠償金の消滅時効は3年となっているため、1年分多く未払い残業代を請求できる可能性があるわけです。
3年分の未払い残業代の支払いを命じた判例も
過去の判例で、社員が残業していることに会社側が気づきながら、会社の会議や棚卸のとき以外残業代を支払わず、労働時間の管理も怠っていたとして裁判所が会社の不法行為責任を認定し、損害賠償金として未払い残業代3年分の支払いを会社に命じた、という事例があります。
会社側は、「残業に関して事前申請制度があったが、この従業員からは事前申請がなかった」と主張しました。しかし、残業の事前申請ができるのは会議や棚卸のときなどに限られていたことや、事前申請は経理担当者が代理で行なうことが多かったことから、裁判所は事実上この制度は形骸化していると判断しました。
会社側がタイムカードを導入していないなどで従業員の労働時間の把握を怠ったり、いろいろと理由をつけて残業代の支払いを行わない場合、損害賠償金としての未払い残業代の支払いが命じられるケースは今後も出てくると考えられるでしょう。
未払い残業代請求にかかる時効を中断する方法
未払い残業代を少しでも目減りさせないようにするためには、まず時効を中断させる必要がありますが、時効を中断させるにはどうすればよいのでしょうか。その方法について見ていきましょう。
時効を中断するためには、まず「催告」を行う
未払い残業代が請求できる時効が迫っていても、何らかの手段を使って時効を中断すればそこまで経過していた時間はいったんゼロに戻り、また時効が再開したところから再度カウントが始まることになります。そのため、一刻も早く時効を中断させることがまず必要です。
法律上、時効を中断させる方法としては、
- 請求
- 差押・仮差押又は仮処分
- 承認
の3つが用意されています。
会社側が時効を承認してくれるケースもありますが、可能性はあまりないと言えるでしょう。この中で従業員側が最初に取るべき方法は、①の請求です。請求とは、未払い残業代の支払いを求めて裁判所で労働審判の申立てをしたり訴訟を起こしたりすることを指します。
しかし、実際に裁判所で審判や訴訟を提起するとなると、準備に手間暇も時間もかなりかかります。そこで、仮に時効を中断させる方法として、従業員が会社側に未払い残業代を請求する旨の内容証明郵便を送付して「催告」を行うのが一般的です。この内容証明郵便は弁護士の名前で送るようにすると、より効果的でしょう。
時効の中断に関する注意点
相手方に内容証明郵便を送れば一時的に時効を中断させることができますが、これはあくまで時効を中断するための仮の手段でしかありません。催告してから6か月以内に本格的に審判や訴訟手続きに移行しなければ、また時効が再開してしまうことになります。
そのため、内容証明郵便を送ってからしばらくは会社側と直接交渉を試みます。必要に応じて労働基準監督署に仲介してもらったり、書面をやりとりしながら裁判外で交渉を進めていきます。
内容証明郵便を送付してから5か月ほど経っても相手方が未払い残業代の請求に応じなければ、労働審判や訴訟に踏み切ったほうがよいでしょう。早めに労働問題に詳しい弁護士に相談の上、5か月めに入る頃には労働審判や訴訟の準備を進めていき、6か月目に実際に裁判所での労働審判や訴訟に移行できるのがベストです。
未払い残業代請求に関する消滅時効を止めるには、弁護士に相談を
働いた分の残業代を請求できるのは、従業員にとって当然の権利です。そのため、未払い残業代があることに気づいたら、その時点で会社側に支払ってもらえるよう働きかけましょう。その際は、労働問題に詳しい弁護士に協力してもらいながら請求を行うとスムーズです。時効で請求できなくなる前に、いち早く行動を起こしましょう。
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