残業代未払いの解決に労働基準監督署の斡旋(あっせん)は有効?
残業代未払いやセクハラ、パワハラなどが起きた時労働者が頼れる場所といえば労働基準監督署です。労働基準監督署は公的機関であるため非常に安価かつ幅広い業務改善を指示してくれますが、労働基準監督署によるあっせんは残業代請求において有効と言えません。こちらでは労働基準監督署の限界と、弁護士に依頼する重要性をお話しします。
- 残業代を請求することができるのはどんな人?
- 1日8時間以上、週40時間以上働いている人
- 次の項目に当てはまる人は、すぐに弁護士に相談
- サービス残業・休日出勤が多い
- 年俸制・歩合制だから、残業代がない
- 管理職だから残業代が出ない
- 前職で残業していたが、残業代が出なかった
この記事で分かること
残業代未払いの解決に労働基準監督署のあっせんは有効でない
労働基準監督署は残業代未払いの問題を解決してくれません。なぜなら、労働基準監督署のあっせんには法的拘束力がないからです。
労働基準監督署は労働者から労働問題について相談を受けて助言をしてくれる機関ですが、トラブルが解決しない時にあっせんを行ってくれます。あっせんとは裁判によらず紛争を解決するよう働きかけることで、紛争調整委員会が労働者と会社の間を取りなします。
労働基準監督署の行うあっせんについてもう少し詳しく説明します。
労働基準監督署のあっせんを詳しく解説
繰り返しますが労働基準監督署のあっせんは裁判に発展する前に問題を解決する手段です。具体的にはこのような流れで行います。
- あっせん申請書の提出
- 紛争調整委員会の受任
- あっせん期日の決定と通知(郵送)
- あっせん
- 和解または打ち切り
まず、あっせん申請書の提出を労働基準監督署で行った後はあっせん期日が郵送で通知されるまで待ちます。労働局による事前調査はありません。
あっせんは1日で終わります。しかもあっせんにかかる料金は無料です。双方が話し合うのでは言いづらいこともあるため、労働者と会社側の参考人をそれぞれ個別に事情聴取を行います。その結果をもとにあっせん案の提示と労使の話し合いが行われます。
最後に和解ができればそれで紛争が解決できますし、合意しなければあっせんが打ち切りとなります。
あっせんは安価だが紛争解決しづらい
あっせんは労働者として安価かつ短期間なので、申請が手軽です。しかし、今までの問題がわずか数時間で解決することは多くありません。特に残業代については具体的な金額の問題ですからそう簡単に折れるわけにはいかないでしょう。
そのため、あっせんは労働者の納得いくような結論に導きづらいです。他にメリットを上げるとすればプライバシーが守られていることくらいです。
あっせんは企業が応じないことができる
あっせん案は強制的に従わせる力を持っていないため、あっせん案が不服で他の合意もできなければあっせんが打ち切られます。しかも、あっせんは「応じるか、どうか」という段階さえ強制力を持っていません。
つまり、あっせんの申請をしたところで会社があっせんに応じなければ何も進まないのです。労働基準監督署はあっせんに出席させることもあっせんに出ないからと何らかのペナルティを加えることもできません。よって、会社が徹底的に無視する場合は時間の無駄となってしまいます。
あっせんが効果を発揮する場合
あっせんは効力が薄いもののプライバシーが守られている点や短時間で終わるメリットがあります。もし、企業が労働審判や裁判への発展とその事実が知られる事を恐れているならあっせんでの解決が期待できます。
また、社労士が間に入ってくれることで水掛け論になりがちなハラスメント問題解決が前進するメリットもありますが、証拠が第一の残業代請求においては重要と言えません。
労働基準監督署のあっせん以外にどのような手段があるか
労働基準監督署のあっせんだけで残業代を満額取り戻すことはほぼ不可能です。残業代は明確な支払額が労働基準法によって決められているため安易な妥協は避けたいです。
よって労働基準監督署のあっせん以外の方法を用いたほうが効果的です。残業代を請求する手段にはこのようなものがあります。
労働審判
労働審判は裁判所で行う手続きですが裁判とは違います。労働審判は労働問題について裁判官と労働審判員の協力を得ながら調停するというものです。
裁判に比べて手続きの費用が安価である点や、多くても3回の出廷で結論が出る点が利用しやすいです。ただ、結論が出るまで早いということは十分な事前準備をしなければ逆に労働者が不利な結論を受け入れることになります。
労働審判をするときは短い時間でもしっかり交渉できる弁護士を立てることがおすすめです。
会社との直接交渉
和解によって残業代を取り戻したいなら会社との直接交渉が可能です。和解で決着することは労働基準監督署のあっせんと同じく裁判沙汰になる前に終わらせられることが企業にとってのメリットとなります。また、労働基準監督署が関わる場合は全員の残業代を支払う命令につながるため、個別に請求するより残業代をもらいづらくなります。
ただし、労働者の立場が弱く正しい主張をしても会社は取り合ってくれないことが多々あります。そのため、会社に法律違反を認めさせるだけでなく「残業代を支払うという合意を引き出せる」弁護士の力が必要です。
通常訴訟
和解で解決できなかった時は訴訟を起こします。訴訟は証拠があれば勝てますし、証拠がなければ負けます。最も公平な解決手段と言えます。
しかし、裁判は裁判を起こした事実が公になりますし時間とお金もかかります。思ったより残業代を取り戻せないこともあるでしょう。企業にとっても裁判が長続きすることは都合が悪いため水面下で和解交渉が継続するのが一般的です。
判決に持ち込まれる案件はむしろ少ないようです。
労働基準監督署に頼らず残業代を取り戻すために必要なもの
労働基準監督署に頼らず残業代を取り戻すなら、法的に労働者側が有利でなければいけません。残業代請求の場合は何よりも残業代を支払うべき根拠を固めます。残業代は労働時間に応じて支払うものですから、労働時間の分かる証拠を集めましょう。
残業代の証拠は勤怠記録が基本
残業代請求の証拠として最も有効なのが勤怠記録です。働いた時間が記録されている以上会社は言い逃れできません。タイムカードや業務日報などは確実に抑えましょう。電磁記録で残っているときはパソコン画面を印刷すればOKです。
会社が勤務記録を公開しない時は裁判所に申請して証拠保全手続きを行うことが可能です。
勤怠記録がない場合は何が使えるのか?
勤怠記録がない、タイムカードを終業時間前に切らされていたということもよくあります。この場合は「会社にいたこと」が証明できれば残業代請求の可能性が生まれます。具体的にはこのようなものが会社にいたことの証拠となります。
- パソコンのログイン記録
- メールの送信及び開封履歴
- 防犯カメラの映像
- スマホの画面撮影
ただし、会社にいたことの証明は働いたことの証明としては不十分なので「仕事のメール」あるいは「上司が残業を指示したという記録」を確保するのがベストです。
このほかにはSNSの投稿や同僚や家族の証言も証拠になるかもしれません。
雇用契約書や就業規則も重大な根拠です
残業代とは所定労働時間より多く働いたときに支払うお金です。当然、労働時間の定められた雇用契約書や就業規則が根拠となります。残業代が振り込まれていないことを証明するうえでは給与明細も有力な証拠となります。
雇用されていれば誰もが残業代をもらう権利を持っています
残業代をもらう前提は「雇用契約」にあります。雇用契約によって働いている人は誰もが労働基準法の定める労働者です。正社員やアルバイトの違い、月給制と年俸制の違いなどは全く関係ありません。
「もしかしたら自分も…」と思ったら迷わず法律のプロに確認してください。
残業代支払請求をするうえでの注意点
残業代支払請求をするにあたってはいくつかの注意点もあります。中でも割り増し手当と消滅時効については極めて大切なので、ここで詳しく解説します。
割り増し手当の請求を忘れないこと
残業代は労働時間に応じたお金です。実は、残業代を払っていない会社は残業代以外に持未払いのお金がある場合が多いです。それが手当です。
労働基準法には時間外手当、休日手当、深夜・早朝手当という3つの割増賃金が定められています。
時間外労働手当は法定労働時間を越えた部分に25%の上乗せがされるものです。
休日手当は休日出勤で働いた時間すべてに35%の上乗せがされるものです。
深夜・早朝手当は22時から5時までに働いた時間に対して25%の上乗せがされるものです。
しかも、これらは一部の重複があるため計算の漏れを防ぎたいです。
遅延損害金の請求も可能
未払いの賃金があるときは、それに対して遅延損害金を請求できます。遅延損害金は年利6%に相当する額です。すでに退職した労働者は退職時から年利14.6%の遅延利息を請求する権利を持ちます。
残業代の消滅時効は2年です
残業代には2年で請求権を失うという消滅時効が定められています。よって、今から請求できる残業代も2年前までに限られます。この消滅時効をストップさせるためには相手に残業代を払うよう請求することが条件です。
しかし、残業代請求したという事実と正確な期日を残さなければいけないため残業代請求には内容証明郵便を使ってください。内容証明郵便は民事紛争で幅広く活用されています。
残業代を請求するなら、実行力のある弁護士と協力しよう
繰り返しますが、労働者は立場が弱く労働基準監督署のあっせんも何ら強制力を持っていません。正しい権利を手にするためには相応の実行力が求められます。労働者に力が足りないのなら、実行力と交渉力に優れた弁護士の協力が欠かせません。豊富な実務経験に裏付けされた問題解決力で迅速かつ満足のいく残業代請求をしましょう。
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