仕事中の新型コロナウィルス感染、労災は認められる?

2020年6月19日13,731 view

covid19

新型コロナウィルスの感染拡大が止まりません。このような状況の中、通勤中や仕事中に感染してしまうリスクがあります。

もし仕事中に新型コロナ感染が判明したら、労災は下りるのでしょうか?

そこで今回は、感染した場合に労災が下りるのか、どのような保障が受けられるのか、シチュエーション別労災補償の可否など新型コロナ感染と労災に関する疑問にお答えします。

仕事で新型コロナに感染したら、労災はおりるのか?

仕事中に新型コロナウィルスに感染したことが発覚したら、労災はおりるのでしょうか。また、労災が認定される基準についてもご説明します。

仕事で感染した場合は、労災を申請できる

新型コロナウィルスの感染力は強く、少し外に出かけるだけでも不安を伴います。しかしこのような状況でも、働かなければいけない方が大半です。仮に、仕事中に新型コロナに感染してしまった場合には、労災は下りるのでしょうか?

結論からいうと、今回の新型コロナウィルス感染の事例でも、業務や通勤に起因して発症したことが認められれば、労災保険給付の対象となります。

これまでの労災補償の事例とは異なるため、「そうはいっても認められないのでは?」と不安があるかと思いますが、厚生労働省のホームページでも、「業務又は通勤に起因して発症したものであると認められる場合には、労災保険給付の対象となる」と明記されているので、対象になると考えて大丈夫です。

そもそも労災で何が補償される?

労災の基本について整理しておきましょう。労災とは労働災害のことを指します。また労災保険は、仕事に関連して病気や怪我をした場合に労働災害として認め、労働者の給与などを補償しようというのが制度目的です

仕事を原因として発生した病気や怪我が補償の対象であるため、業務時間中だけでなく、通勤中に起きた事故に対しても補償を行うのが原則です。つまり、業務関連性があれば補償は可能ということになります。

業務中の新型コロナ感染は業務災害にあたる可能性

仮に業務中に新型コロナに感染した場合には、業務災害として認定されるため、休業補償給付と休業特別支給金を受け取れます。休業補償給付は賃金の6割を補償し、休業特別支給金は賃金の2割を補償することができるため、給与の8割は受け取れることになるでしょう。

支給額の計算方法としては、給付基礎日額を割り出してその8割が補償される形となります。

計算式は「(直近3ヶ月の賃金総額÷総日数)×80%」であり、休業1日の支給額を割り出せます。もっとも、総給与額にボーナスは含まれないため、これを含めて計算することはできません。

また休業最初の3日間は労災は認められず、労働基準法が規定する休業補償がその6割を補償します。

労災認定の基準

では労働災害はどのような場合に認定されるのでしょうか。一般的な基準を理解しておきましょう。

労災として認定されるためには、業務関連性の基準をクリアしなければいけません。具体的には、仕事によって生じた病気・怪我であることを証明することになります。また。業務関連性があると認められるためには、以下2つの基準を満たす必要があります。

業務遂行性

まず1つ目が「業務遂行性」です。業務遂行性とは、仕事をしている状態だったかと言えるかどうかということです。これは必ずしも仕事の最中であることを指すのではなく、業務中にトイレに行ったりした時間も含まれます。

会社で強制参加の歓迎会などもこれに含まれるでしょう。

業務起因性

もう1つは、「業務起因性」です。その怪我や病気が仕事を原因として生じたといえる場合には、業務関連性があると判断できます。具体的には、営業で得意先の会社に行く途中に転んで怪我をした場合は、仕事が原因といえます。

工場などで機械作業中に怪我をした場合も当てはまります。もっとも、休憩中に個人的な事情で同僚と喧嘩して暴行により怪我をしたというケースの場合は、原因が仕事ではないため難しいでしょう。

新型コロナウィルス感染の労災認定のカギ

以上のように、労災として認定されるためには業務遂行性と業務起因性が必要です。

新型コロナウィルス感染で労災を申請する上でも、業務中、業務を行う中で新型コロナに感染したという、業務遂行性・業務起因性の立証が労災認定のカギになります。

新型コロナ感染による労災申請・シチュエーション別補償の可否

新型コロナウィルスに感染した場合に労災が認められるのかは、先にご紹介した業務関連性が補償の可否のポイントです。そこで、通勤中、仕事中、海外勤務中のシチュエーション別に補償されるのかをご説明します。

通勤中に新型コロナに感染した場合

通勤中の事故や怪我に関しては通勤災害として労災の補償を受けられるのが原則です。「通勤中」といえるかどうかについては、通勤ルートを離れたかどうかが問題となります。例えば、朝の通勤途中、歩いているときに事故にあった場合は通勤災害として認定されます。

しかし、仕事帰りに友達に会う約束をしていて、その行く途中に怪我をした場合は通勤災害とは認められません。

もっとも、家に帰る途中にコンビニによるなどの行為は、通勤中に含まれるため、会社に行く途中・家に帰る途中のちょっとした寄り道程度なら、問題ないでしょう。

通勤電車での新型コロナ感染は、電車で感染した事実の証明が難しい

では、通勤中に電車で新型コロナに感染した場合はどうでしょうか?

この場合は、通勤中の電車内で感染したのですから、「通勤中」といえ通勤災害が認められそうです。しかし、電車で感染したことを証明するのは極めて難しいといえるでしょう。

「○時○分○○駅発の電車○両目に新型コロナウィルス感染者がいた」
と証明できれば別ですが、これは現在の状況から考えると厳しいと言わざるを得ません。

つまり、通勤中の新型コロナウィルスの感染の場合は、感染経路が特定でき、通勤以外の感染が否定される場合には、業務災害として認定される可能性があります。

通勤中に新型コロナウィルスに感染した可能性がある場合は、勤務先と相談すること、そして会社を管轄する労働基準監督署に相談することが必要でしょう。

仕事中に新型コロナに感染した場合

仕事中に新型コロナに感染する可能性もあります。この場合は労災が下りるのでしょうか?

仕事中の事故や怪我の場合は、先にご説明した業務関連性が必要不可欠です。業務遂行性、業務起因性が認められれば基本的には労災がおります。

新型コロナ感染の場合は、通勤中のケースと同じく、感染経路を特定でき、仕事以外で感染した可能性がない場合には、労災が認められることになります。

感染経路が明らかであれば労災はおりやすい

例えば、営業で仕事の得意先が新型コロナに感染したことが発覚した場合、自分が濃厚接触者だった場合は感染経路が明らかであるため、労災がおります。

しかし、プライベートでも商業施設などに行っており、いつ感染したかわからないという場合は労災として認定されません。もっとも、普段から気をつけており、仕事以外に感染機会が考えられないケースでは業務起因性が認められるでしょう。

また職業によっては、認定されやすいケースもあります。
医師や看護師の場合は、常に感染のリスクがあるため、業務遂行中かつ業務に起因して感染したと認められやすいと言えます。

また、営業職や接客業など不特定多数の人と接触する仕事の場合は、仕事に起因して感染したと考えることが容易であるケースもあります。この場合は感染経路が不明の場合でも、その他に感染源が考えられない場合は、労災が下りる可能性があるでしょう。

仕事中の労災が認定されるのは、感染経路を特定できる場合が原則ですが、その他の感染可能性が極めて低い場合や職業上仕事中に感染した可能性が極めて高いといえる場合には労災が下りる可能性があります。

海外勤務中に新型コロナに感染した場合

では、海外勤務中に新型コロナに感染した場合は、労災の補償を受け取れるのでしょうか?

海外勤務や海外出張で現地で感染してしまった場合には、仕事中に感染したということができそうです。海外勤務の場合は、感染リスクも高い状況が考えられるため、労災の補償を認めて欲しいところではあります。実際に労災が認められるか否かは、やはりこの場合も業務関連性があるのかどうかがポイントになります。

例えば、海外の病院勤務で医師や看護師が新型コロナウィルスに感染した患者を診ていた場合には、感染経路も明らかで業務遂行性・業務起因性が認められるため、補償の対象となります。しかし、海外出張中でプライベートな時間に感染した可能性がある場合には、認められない可能性もあります。

海外での感染に対する労災は微妙な判断が必要に

もっとも、通勤途中や仕事中といえる場合には、感染経路が特定できずとも、仕事中の感染が極めて高いといえる場合には認定の可能性はあるでしょう。

仕事終わりに海外のレストランで感染した場合などについては、労災が認められるのかというのは微妙な判断が必要になるため、弁護士などの専門家や労働基準監督局などに相談することが大切です。

このように、シチュエーションは異なっても、感染経路が確認できるかどうか、確認できない場合でも仕事の時間以外に感染機会があったと考えることが極めて難しい場合には、労災認定が認められる可能性があります。

新型コロナ感染の場合、労災ではなく傷病手当金が使える

新型コロナウィルスの場合は、労災を申請しても感染経路を特定しなければならず、認定までに時間がかかることが予想されます。この場合に活用すべきなのが、傷病手当金です。
そこで、傷病手当金の概要、支給の要件、ケース別の傷病手当金補償の可否についてご説明します。

傷病手当金とは

仕事中に新型コロナに感染した場合、労災認定を先に考える方が多いですが、労災の場合は申請から認定までに時間がかかります。

新型コロナ感染で休業する場合はすぐに給与補償をしてほしいのに、何ヶ月も待つことはできないでしょう。そこで新型コロナ感染のケースでは、傷病手当金というものを利用するのが賢明です。

傷病手当金とは、仕事とは関係なく傷病で休業しなければいけなくなった労働者の給与を補償する手当てです。傷病手当金は全国健康保険協会、健康保険組合が行っている制度のため、被用者保険に加入している方が受けられる補償です。

しかし、今回の新型コロナ感染拡大を受けて、国民健康保険でも支給されることになったのです。政府も、新型コロナ感染で休業しなければならなくなった労働者に対しては、傷病手当金を利用することを推奨しています。

傷病手当金を使えば、仕事上での感染でなくても、給与の7割が補償される

傷病手当金では、最大で1年6ヶ月の間に給与の7割が補償されます。労災の休業補償給付とは異なり、仕事で感染したことを特定せずに済むため、申請から支給までが早いという特徴があります。

仕事で新型コロナ感染した可能性が高いと考えるものの、感染経路の特定ができない場合は、とりあえず傷病手当金を申請しましょう。

傷病手当金の支給要件

傷病手当金の支給を受け取るためにはどのような条件があるのでしょうか?

傷病手当金の支給に関しては、療養のために就労できなくなったかどうかが基本的な基準となります。詳細な支給要件としては、以下にまとめたのでご覧ください。

  1. 業務外で新型コロナ感染した場合あるいは業務外で感染が疑われる場合
  2. 療養のために仕事に従事できない
  3. 4日以上仕事に従事できない(連続する3日間を含む)
  4. 休業期間に給与の支払いがない

上記要件に関して、原則としてウィルス感染に関する医師の意見書が必要ですが、発熱などの症状があり、感染が疑われる場合は医師の意見書がない場合でも、事業主の証明書を付けることで労務不能として認められる可能性があります。

支給額については、「直近3ヶ月分の給与の合計÷就労日数×2/3×日数」によって計算できます。また支給期間については、休業後3日を経過した日から換算して、労務に服すことができない期間支給されます。

新型コロナ感染に関する傷病手当金の対象期間

新型コロナ感染に関しては、「2020年1月1日~9月30日の間で療養のため労務に服することができない期間」と定められていますが、この期間外でも入院を継続する場合は、通常通り最長1年6ヶ月まで支給が認められます。

支給対象期間については、発熱などの症状がある自宅療養期間も含むため、感染不明だが念のために休業をした場合も支給されるでしょう。

ケース別!傷病手当が下りるのはどんなケース?

傷病手当を申請しようと思っても、実際に自分のケースで受け取れるのか不安という方も多いでしょう。そこで、ケース別の傷病手当金補償の可否についてご説明します。具体的なケースとしては、以下が考えられます

  • 自分が濃厚接触者で自主隔離の場合→支給不可
  • 自主隔離の場合(家族が濃厚接触者になった場合)→支給不可
  • ウィルス検査が受けられない→支給可、条件あり
  • 業務に起因して発症した場合→支給不可

まず、大前提として、傷病手当の対象となるのは、被保険者が就労できない場合です。そのため、休業しなければいけなくなった本人に新型コロナ感染の可能性がある場合のみ、支給されます。

以下、ケース別の詳細を見ていきましょう。

自分が濃厚接触者で自主隔離の場合→支給不可

保険加入者である本人が濃厚接触者として認定されたものの、症状がない状態での自主隔離の場合「労務に服すことができない」とはいえないため支給不可です。

この場合、会社からの要請で休業した場合には、労働基準法に基づく休業手当(給与の6割)を会社が支払うべきケースとなります。ちなみに、濃厚接触者かつ熱が出た場合など症状がある場合の自宅療養期間は、傷病手当ての対象です。

自主隔離の場合(家族が濃厚接触者になった場合)→支給不可

家族が濃厚接触者となり、自主隔離をしなければいけなくなった場合も支給は不可です。傷病手当は被保険者を対象とするものであり、被保険者が労務不能といえるケースではないためです。

自覚症状があるもののウィルス検査が受けられない→支給可、条件あり

新型コロナ感染の自覚症状があるものの、ウィルス検査が受けられない状況で休業している場合は、支給対象です。

ただし、先にご説明したとり事業主から労務不能の証明書が必要です。最終的に新型コロナではないと判明した場合も4日以上休んだ場合は支給対象となります。

業務に起因して発症した場合→支給不可

感染経路が不明だったが、後に仕事中に感染したことが発覚した場合は支給不可となります。これは、業務上の事由による病気となるため、労災の休業補償が対象となるからです。

感染が疑われるケースで、仕事中の感染かどうかがわからない場合は、傷病手当金を活用できます。もしもの時のために申請書を加入している保険団体からダウンロードしておくと良いでしょう。

新型コロナ感染の労災認定で知っておくべきポイント

新型コロナ感染が疑われる場合、労災や傷病手当てなどの申請を検討すべきです。そこで、申請前に知っておくべきポイント3つをご説明します。

仕事中の感染の場合、保険証の利用に注意

通勤中の新型コロナ感染が疑われる場合、病院に受診する際にやってはいけないことがあります。

それは、保険証を利用することです。仕事中の感染、通勤中の感染、どちらにもいえることですが、これは仕事を原因する病気にあたる可能性があるため、労災補償の対象となります。

労災負担の可能性があるため場合、健康保険は利用できない

この場合、治療費に関しては労災が負担する可能性があるため、健康保険は適用できないのです。もっとも、新型コロナ感染の場合は感染経路不明の場合もあるため、一旦は健康保険を利用して、後で労災に切り替える方法もあります。

新型コロナ感染に対する対応については、新しい事情を含むため自己判断をせず、会社や労働基準監督局と相談して決めていきましょう。そのため、感染が疑われたらまずは医療機関、会社に報告し、その後保障について労働基準監督局に相談すべきです。

労災と傷病手当金を並行して申請する

新型コロナ感染に関し、利用できる保障についてご説明してきましたが、結局のところ労災と傷病手当金のどちらを申請すべきなの?と思われた方もいらっしゃるでしょう。

最初に知っておくべきことは、労災と傷病手当の二重取りは不可ということです。どちらかが適用される場合には、他方は不可となります。

労災では給与の8割が補償されるため、こちらを優先したいところですが、すぐに給付されない可能性が高いという問題があります。すぐに支給される可能性が高い傷病手当金の場合は、給与の7割しか補償されません。

労災・傷病手当金、両方を申請することで、速やかで確実な保証金受け取りが可能に

この問題を解決するためには、両方を並行申請するという方法が考えられます。傷病手当金と労災の両方を申請して、傷病手当が先に認定されたら一旦それを受け取ります。

受給後に労災認定がおりた場合は、労災の補償金ですでに受けとった傷病手当金を返還すれば大丈夫です。労災が認定されれば、8割が補償されるのですから、7割の手当金は返還可能となります。

傷病手当申請→労災申請→労災が認定されたら傷病手当金返還」という段階を踏めば、早く補償金を受け取ることができ、かつ給与もできる限り高い割合が補償されるでしょう。

休業保障給付・傷病手当金以外に労災で補償されるもの

最後に、休業保障給付と傷病手当金以外に受けられる手当てについてご説明します。

新型コロナ感染に関わる労災の補償では、以下3つの受給を考えることができます。

  • 療養給付
  • 遺族補償給付
  • 葬祭料

それぞれ以下で詳しく説明いたします。

療養給付

労災として認定される場合には、健康保険が利用できないと先に言いましたが、これは労災にも健康保険と同様の機能がある療養給付が認められるからです。療養給付は、労災の補償対象となる怪我や病気にかかった治療費を全額国が負担するものです。

期間も怪我や病気が治癒するまでの期間(症状固定まで)なので、3割負担の健康保険よりも受給額が大きいことになります。仕事中の新型コロナ感染で休業し治療が必要な場合の費用は、労災が負担することになります。

遺族補償給付

仕事中に新型コロナに感染し、本人が亡くなってしまった場合には、遺族にも補償があります。これを遺族補償給付と呼びます。

遺族補償給付では、遺族特別支給金として300万円、労災認定前に受け取っていた給与の額に応じて定められる遺族補償年金が受け取れます。これは遺族が亡くなるまで受け取ることができる補償です。

葬祭料

仕事中の新型コロナ感染で本人が亡くなってしまった場合は、葬祭料も受け取ることができます。葬祭料とは、労働者が死亡した場合のお葬式費用です。遺族に対して支払われます。

以上が、新型コロナ感染で補償される可能性のある労災の補償です。不必要に不安にならないようにするためにも、事前に労災補償について調べておくと良いでしょう。

労災申請でお悩みの場合は、弁護士に相談を

感染経路が明らかである場合は、仕事中の新型コロナ感染で労災がおります。しかし、感染経路不明のケースも増えているため、個別事情によって補償を受けられるかどうかは変わってくるでしょう。

労災だけではなく、傷病手当金など他の精度も活用することによって給与の減少などをカバーすることをおすすめします。もし新型コロナ感染での労災申請でお困りの方は、専門家である弁護士にご相談ください。

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