残業代が請求できる単位は?~1分、30分、1時間どれが正しい?

2020年6月19日230,090 view

残業代

近年「働き方改革」や「長時間労働の見直し」等のフレーズと同時に、労働環境のネガティブな問題がクローズアップされています。その一つが残業代についてです。残業代がもらえることは知っていても、何分単位までもらえるのかを知っている人は少ないでしょう。そこで今回は、残業代を請求できる時間の単位について解説していきます。

弁護士に相談したら、未払い残業代が請求できた
残業代を請求することができるのはどんな人?
1日8時間以上、週40時間以上働いている人
次の項目に当てはまる人は、すぐに弁護士に相談
  • サービス残業・休日出勤が多い
  • 年俸制・歩合制だから、残業代がない
  • 管理職だから残業代が出ない
  • 前職で残業していたが、残業代が出なかった
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残業代は1分単位で請求可能

1分

アルバイトに正社員、契約社員や派遣社員…雇用形態はさまざまですが、いずれも働くことの大きな目的はお金を得ることでしょう。しかし近年、賃金にまつわるトラブルが雇用形態問わず頻発しています。例えば今回解説する残業代を計算する際の時間の単位についてです。では残業代が請求できる単位は1分、30分、1時間、どれが正しいのでしょうか?

残業代は1分単位で請求できる

会社によっては「30分未満は切り捨て」等としてカウントしない独自のルールを設けているところもありますが、これは違法です。勤め人は働いた時間の代償として賃金を得ているわけですから、働いた残業時間分の給料は例え1分でも請求できます。

労働基準法によって労働者は保護されている

アルバイトや契約社員、派遣社員等の場合ほとんどが時給で支払われます。正社員でも特殊な業界は除いてほとんどの場合残業代に関しては時給で算出されるでしょう。労働者は皆貴重な時間を労働に充てて給料を対価として得ているのですから、残業代も1分からでも請求できる決まりになっているのです。この辺りのことは労働基準法にきちんと規定されています。

労働者はあくまでも“雇われている側”なので中には不当な支払いを受けていても会社に意見することになかなか踏み切れない人も多いはずです。1分単位の残業代を請求する際は、実際の法律について熟知しておいた方がよいでしょう。

労働基準法に規定がある

労働基準法は「労働関係調整法」、「労働組合法」と併せて“労働三法”として労働者を保護するために制定された法律です。規定されている事項は労働者の労働条件の最低限度の内容となっていて、労働基準法を下回る労働条件等は労使、すなわち雇う側と雇われる側双方の合意があっても無効となり、労働基準法の条件がいかなる場合でも適用されます。

残業代は全額支払わなければならない

その労働基準法第37条に「使用者が、労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない」と、第24条に「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と規定されています。これらを踏まえると、“労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合(残業した場合)”にも“全額を支払わなければならない、つまり残業代も全額支払わなければならないことになります。

違反した場合雇用主が罪に問われることも

労働基準法に違反した場合、労働基準監督署から「是正勧告」を受けることになります。是正勧告に従って是正しない場合には、書類送検となり“使用者”が罰せられることがあります。使用者の定義については労働基準法第10条に「この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行ためをするすべての者をいう。」と規定されています。つまり経営者等個人だけでなく、法人そのものが罰せられることもあるわけです。

罪量は「6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金」と「30万円以下の罰金」に分かれます。前者は残業代を支払わなかった場合や法定の労働時間を守らなかった場合、年少者を深夜勤務させた場合等で、後者は労使協定の提出等がされなかった場合や一週間単位の変則シフト制勤務において前週末までに翌週の各日の労働時間を書面で通知しなかった場合等です。

1か月単位での30分単位や1円単位の四捨五入は適法

計算

しかし全ての労働者に対して1分単位の残業代を隈なく計算するとなると煩雑になり、雇い主側としても不便な事態が発生します。そのため、例外規定が定められているのです。この辺りを労働基準法の考え方と共に見ていきましょう。

1か月単位での四捨五入は適法

労働基準法では次のような例外規定を定めています。

  1. 時間外労働および休日労働、深夜労働の1ヵ月単位の合計について、1時間未満の端数がある場合は、30分未満の端数を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げること。
  2. 1時間当たりの賃金額および割増賃金額に1円未満の端数がある場合は、50銭未満の端数を切り捨て、50銭以上を1円に切り上げること。
  3. 時間外労働および休日労働、深夜労働の1ヵ月単位の割増賃金の総額に1円未満の端数がある場合は、50銭未満の端数を切り捨て、50銭以上を1円に切り上げること。

つまり30分未満は切り捨て、30分以上は切り上げ

これらを要約すると“1ヵ月単位の残業時間において、1時間未満の端数がある場合には、30分未満は切り捨て、30分以上は切り上げて計算しても良いことになります。

労働者有利の切り上げは適法

このような事務処理は任意であり、してもしなくても構いません。しかし「切り捨てはするが切り上げはしない」といった変則は無効になります。

これは、そもそも労働基準法は労働者を守るために、労働者の労務条件の最低基準を定めたものであり、使用者有利の変則は違法に当たるからです。従って「切り上げはするが切り捨てはしない」といった労働者有利の変則は認められます。

またこの“労務者有利の条件は認められる”とする考え方は残業代や残業時間に限らず、あらゆる点において適用されることを覚えておくと良いでしょう。

会社が1分単位の残業代支払いに応じてくれない場合

労働者は労働基準法によって保護されており、基本的に1分単位の残業代の請求ができることが分かったと思います。では会社が残業代支払いに応じてくれない場合、労働者はどうすればよいのでしょうか。大きく分けて残業代の請求方法には、自分で請求する方法と専門家に依頼する方法の2通りがあります。ここではそれぞれの手続きの進め方とそのメリットやデメリットについて解説していきます。

専門家に依頼する方法

残業代の請求には複雑な手続きが必要ですし、慣れないことを自分だけで進めるのは心許ないもの。ましてやお金のことともなると、慎重にならざるを得ません。そこで専門家に依頼するのが一つの有効な手段です。

弁護士や社労士に相談

専門家に依頼することに決定した場合、依頼先は複数あります。まずは、法律トラブルの専門家の代表格、弁護士です。残業代請求に必要な手続きは勿論のこと、労働審判申立を行う際には会社登記簿謄本の入手や、労働審判手続申立書の作成等も行ってくれるので精神的負担も軽減されます。また労働にまつわるトラブルの強い味方となるのが“社労士(社会保険労務士)”です。社労士は「労働基準法」や「雇用保険法」「健康保険法」「国民年金法・厚生年金法」等の社会保障制度や人事労務の分野を専門に扱う日本で唯一の国会資格で、就労規則や給与規定の相談、作成等をしてくれます。

慎重に選ぶことが大切

また、専門家なら誰でもよいわけではありません。この手の問題は経験値がものを言い、特に近年の世間の労働問題への関心の高まりから、残業代請求の依頼が増加したことで“にわかに”開業した様な法律事務所や社労士事務所では事態をかえって悪化させることもあるので慎重に選ぶべきです。残業代請求に強い弁護士や社労士を紹介するインターネットのサイトも存在し、比較対照も容易にできるので、一度利用するのも良いでしょう。

自分で請求する方法

専門家に依頼する程の費用がない、あるいは自分のことなので自分でやりたい場合は自分で請求することもできます。しかし個人での解決は、なかなかハードルが高いのも事実です。

「労働基準監督署」に相談

まず自分で請求する場合は、初めに雇い主に口頭でその旨を伝えます。多くのケースでは、何かしら理由を付けて請求は却下されるでしょう。その場合はタイムカード等で残業時間と請求金額を明確にした上で、相手方に内容証明郵便を送り書面での示談交渉をします。それでも通らなければ「労働基準監督署」に申告し、調査及び仲介をしてもらい、解決を試みることになります。労働基準監督署とは各都道府県の労働局の中に設置された、労働基準法や関連法等と照らし合わせて事業者に対する監督や労災保険の給付等を行う厚生労働省の出先機関です。公的機関であるため、利用費はかかりません。依然として応じない場合には労働審判手続きの申し立てを起こし、裁判での解決を目指しましょう。

労働基準監督署に調査してもらうには前提条件がある

このとき注意しなければならないのは労働基準監督署に調査や仲介をしてもらうためには、“相手方に内容証明郵便を送り書面での示談交渉をしたものの、無視された、もみ消された等して適切な回答を得られなかった事実”が既存することが前提条件になる点です。これは労働基準監督署が言わば労働問題の警察の様な存在であり、企業が労働基準法に抵触した経営を行っている、あるいはその疑いがあるとの判断ができない内は動くことができないからです。加えて、近年残業代の支払い等の労働問題について世間の関心が高まったことから相談が激増し、労働者1人1人の残業代を回収することに時間を割けないことも背景にあります。

適正な働き方のためにも適正な残業代を

お金の問題は労働者にとってシビアな問題であり、たとえ小さな単位であっても、働いた分はしっかりと残業代をもらう権利があります。メディアでは、劣悪な労働環境を強いる“ブラック企業”や会社でのストレス等から自ら命を絶つ“過労死”等労働にまつわる問題が盛んに報じられています。こんな時代に生きる私達だからこそ、泣き寝入りせず、しっかりと申し立てをすることが重要と言えるのではないのでしょうか。
残業代の請求を個人で行うのは、難しい場合があるので、内容が複雑な場合は、労働問題に強い弁護士などに相談しましょう。

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