未払い給料を請求する方法|未払い給料の請求は2年が時効
労働環境の改善が叫ばれる現代でも、給料の遅延や不払いの実態はあり、泣き寝入りしている労働者も多いのが現実です。しかし労働者は労働の対価として給料を得ているわけで、給料の未払いは違法行為です。未払いの給料が発生した場合、どのように会社に請求したらよいのでしょうか?今回は未払い給料を請求する上で有効なポイントをお伝えします。
- 残業代を請求することができるのはどんな人?
- 1日8時間以上、週40時間以上働いている人
- 次の項目に当てはまる人は、すぐに弁護士に相談
- サービス残業・休日出勤が多い
- 年俸制・歩合制だから、残業代がない
- 管理職だから残業代が出ない
- 前職で残業していたが、残業代が出なかった
給料の未払いは違法
近年ただ働きやサービス残業等が横行し、賃金の支払いが滞ったり、未払いになるケースが増えています。しかし、労働者は法によって保護されており、給料の未払は違法行ためです。まずは賃金に関する法律上の定めや給料未払の背景等を解説していきます。
労働基準法に賃金に関する規定がある
労働者にとって賃金は、生活を維持していく上で欠かせない重要なものです。そこで労働基準法第24条は賃金の支払いについて5つの原則を定め、労働者の生活を保障しています。
①通貨支払いの原則
貨幣経済の現代日本において、最も確実な交換手段である通貨による支払いを義務付けることで、価格が不明瞭な商品等の現物での支払いを禁止するものです。
②直接払いの原則
賃金が、実際に働いた労働者の手に渡るまでの間、親権者や職業仲介人に等によって中間搾取が行われることがないように定められた原則です。ただし、本人の支配下にある配偶者や子供が本人の印鑑を持参し、本人名義で受領することは認められます。
③全額払いの原則
賃金の一部について支払いをせず、使用者が預かることで労働者を足止めすることを禁止いたものです。法令に定められた税金や社会保険料は賃金から控除することが許されます。
④毎月一回以上支払いの原則 ⑤一定期日支払いの原則
支払日の間隔が開き過ぎたり、支払日が定まっていなければ労働者にとっては計画的な生活が困難になる上、不安定な生活を余儀なくされます。このような状況を避けるために、最低限毎月一回の支払いと期日を定めた支払いを原則としているのです。この場合も、臨時に支払われる賃金、賞与その他傷病手当や傷病見舞金、退職金等、法令で定められた賃金は例外となります。なお、現在は「年俸制」をとっている企業もありますがこの場合も年棒額の12分の1を毎月定められた日に受け取ることになります。
給料の未払いが発生する背景は
つまり給料の未払いや不払いは労働基準法に抵触する、列記とした違法行ためなのです。給料は言わば債権であり、給料の未払は即ち債務不履行です。従って未払給料は会社に請求することができます。ではそもそも、給料が支払われない事態がなぜ発生するのでしょうか。
経営不振
一つには会社の経営不振があげられます。業績や資金繰りの悪化等により、従業員に給料を支払う余裕がない状態に陥ってしまうのです。
零細企業のワンマン経営・どんぶり勘定の放漫経営
零細企業等でよくみられるケースで、収支計算等の経理をなおざりにする余り、従業員への給料に充てるお金がなくなってしまうパターンです。しかし言うまでもなく労働者は労働の対価として給料を得ており、働いた分は全額支払いを受けなければなりません。
意図的に支払わないケースも
いわゆるブラック企業等、主に悪徳会社が行う手口です。支払わなければならない法律の定めをしっていながら故意に給与を支払わない、最も質の悪いケースです。この場合、即座に弁護士等に相談した方が良いでしょう。
未払い給料を請求する際のポイントは?
しかしこうした給料の未払いに遭っても、泣き寝入りする人も少なくありません。では未払い賃金を請求するにはどうすればよいのでしょうか。ここでは具体的な請求手段やその際に準備するもの等について解説していきます。
未払い給料を請求する前に証拠資料を用意しておく
未払給料請求がこじれれば、最終的には訴訟にもつれ込むケースもあります。故にその時のことを見越して、まずは労働者側で「労働契約を締結したこと」と「労働を提供したこと」の2点を証明するものを準備しておきましょう。
労働契約を締結したことを立証する資料
未払い給料を請求するには、使用者との間で一定の所定賃金を支払う旨の労働契約を締結していた事実に加えて、賃金の金額・給料等の締日・支払日等を立証する必要があります。労働契約の内容を立証する資料としては「雇用契約書」や所定賃金等の労働条件を定めた「就業規則」等が挙げられますが、これらが用意できない場合は「給与明細書」でも構いません。
多くの場合所定賃金の金額や内訳等が記載されています。また、銀行振込の記録や領収書等によって、賃金の金額や支払日を証明することも可能です。
労働を提供したことを立証する
請求給料分の労働を提供したことについても証明しなければなりません。この場合の証拠資料となるのは例えば出勤簿やタイムカード、業務報告書等です。これらがない場合、或いは使用者が意図的に隠した場合等は、裁判所に依頼して「証拠保全」の手続きをとることで、情報開示させることが可能です。
具体的な行動に移る
証拠資料の準備ができたら、いよいよ未払い給料請求の具体的なステップに移りましょう。ここではその手順を解説します。
内容証明郵便で請求する
最初にとるべきは社内で話し合いをすることですが、給料が払われない根本の理由は労働者を軽視していることなので、この段階で解決できるケースは稀でしょう。よって労働者側の“本気で請求する”姿勢を示す必要があります。その第一歩が「内容証明郵便」で支払いを請求することです。内容証明郵便は送り主や宛先、差出日時やその内容を郵便局が証明してくれるもので、これを出すことによって、相手方に心理的プレッシャーをかけることができます。
労働基準監督署への相談(申告)
次に労働基準監督署に相談することになります。労働基準監督署は賃金や労働時間、休憩、休日と言った労働条件や労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法等、労働関係法の違反の申告の受理や監督等について相談・指導を行っている国の機関です。賃金の不払いは労働基準法24条に違反し、30万円以下の罰金が科せられる犯罪です。
違反を申告すれば労働基準監督署が勤務先に対して調査を行い、賃金を支払う様勧告をしてくれることがあります。ただし申告は無料でできますが、必ず賃金支払いの勧告をしてくれるわけではありませんし、労働基準監督署には勤務先会社に未払給料を強制的に支払わせる権限もありません。
未払い給料を法的手段で請求する
話し合いや内容証明郵便の送付、労働基準監督署への申告を経てもなお、解決しない場合は支払い督促や訴訟といった法的手段を検討しましょう。
法的手段
ここまでの解決法を試しても一向に支払いに応じない場合は法的手段にでることになりますが、前述の証拠資料が重要になってくるので、できる限り収集しておきましょう。
支払い督促
未払給料を請求するのに最も有効な手段の一つが、「支払い督促」です。支払い督促とは債権者の申し立てに基づいて債務者に金銭等の支払いを命じる債権回収手段ですが、書類審査のみで裁判所に出廷する必要はありません。住所地を管轄する簡易裁判所に備え付けてある支払い督促申立書に必要事項を記入し、申し立てをするだけの簡潔な手続きで済みスピーディーに支払い命令を得られるのがメリットです。
しかし債務者が支払い督促通知を受けとってから2週間以内に異議を申し立てた場合、地方裁判所または簡易裁判所の民事裁判手続きに移行する点に注意しなければなりません。申し立てには根拠が必要なく、ほとんどのケースでは異議申し立てがなされます。その場合二度手間をとることになり、かえって時間も費用もかかってしまいます。
少額訴訟
未払お給料の額が少額の場合、「少額訴訟」を起こす手もあります。少額訴訟は60万円以下の金銭の支払い請求を争う裁判手続きで、通常訴訟に必要な煩雑な手続きも要らず、迅速な解決が見込めます。審理は基本的に1回で終了し、その日の内に判決が出ます。
民事調停の利用
それでも解決に至らない場合、民事調停を利用すると良いでしょう。民事調停は労使トラブルを含む民事に関する紛争を解決するための手段で、まず相手方の住所地を管轄する簡易裁判所に調停申立書に手数料を添えて提出し、申立書が受理されると調停委員と裁判官が双方の主張を聞いてくれます。その上で、証拠の調査が行われ、最後に調停案を当事者双方に提示します。合意すれば調停調書を作成して終了します。
労働審判
民事調停でも合意が成立しない場合労働審判を利用する手もあります。労働審判とは、労働関係の専門家で構成される労働審判委員会と裁判官で紛争を解決する制度です。審判手続きは原則として3回以内の審理で終結する迅速な制度で、通常訴訟と比較してスピーディーにかつ低コスト解決が望めるメリットがあります。
しかし審判に不服があった場合2週間以内に異議申し立てをすることができます。そうなると訴訟へ移行するので、争う金額の差等に関して労使間の認識に大きな開きがある場合は、解決できない可能性があります。
訴訟を起こす
これら全てを試みても未払給料が支払われなければ、訴訟を起こすことです。裁判は最終手段であり、ここで解決できなければ救済の手立てはもうありません。
差し押さえによって未払給料を確保する
裁判では「差押え」や「仮差押え」の申し立てを行います。仮差押えとは訴訟を起こしてから判決がでるまでの間に、会社の財産が他のことに使われたりしないようにしておくための手続きです。差押えとは簡単に言うと裁判所主導のもと、相手方の財産を強制的に取り上げ債権回収する手続きで、「強制執行」と言って国家機関にしか許されていない行為です。
勝訴して債権差押命令が出れば、晴れて未払給料を回収できることになりますが、必ず勝てる保証はないことは覚えておく必要があります。
未払給料の請求で知っておくべきこと
ここまでの解説で、未払給料の違法性や請求の具体的な手順等は把握できたと思います。最後に未払給料請求において注意すべき点や知っておきたいポイントを解説します。
未払い給料の請求には時効がある
未払い給料の請求には時効が設けられています。これは“請求権があるにもかかわらず放置する者までは保護しない”とする「消滅時効」と呼ばれる法律上の制度です。退社する時にまとめて請求しよう」等と思っていては、支払われるはずの給料がどんどん減っていくので気を付けましょう。
未払給料の請求には2年の時効がある
未払い給料請求の時効については労働基準法第115条に「この法律の規定による賃金(退職手当を除く)、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によって消滅する。」との規定があります。つまり賃金の請求権は2年間で消滅するのです。従って2年前まで遡って請求できるわけですが、この2年間とは「給料日から数えて」である点に注意が必要です。なお、日割り計算等はなく月単位で時効は推移していきます。
時効を中断することも可能
しかし在職中は会社と争いたくない等の理由で、請求権の消滅がどんどん進むといったケースが考えられるため、未払い給料の請求の時効が2年であることは労働者にとっては都合が悪く不当と言えます。そのため、時効を停止(中断)する方法がいくつか存在します。
請求
ここで言う請求とは訴訟や労働審判、調停等の裁判所手続きを指します。この“中断”を行えば、時効のカウントはまた0からになります。
催告
裁判所手続きを踏まずに自分でその旨を使用者に申し出る「催告」にも時効を6ヶ月間成立させない効果があります。このとき未払い給料の金額や内訳が明示できなくても、未払い給料を支払う様催促した文書だけでも良いとされています。時効間近になった際は、とりあえず催告しておくことをお勧めします。
承認
使用者に未払い給料があることを認める「承認」でも時効は中断します。承認では“時効成立後でも有効”である点は押さえておきたいポイントです。
会社が倒産した場合はどうなる?
未払給料を残したままで会社が倒産してしまった場合は、泣き寝入りするしかないのでしょうか。実はこの様なケースでも諦める必要はないのです。
未払い賃金立替払制度を利用できることも
倒産した会社が労働者災害補償保険の適用事業に当たる事業を1年以上行っていて破産宣告等を受けた場合には、労働者の請求によって政府が未払い賃金の一定額を立替払いしてくれる制度があるのです。立替払いの対象となる未払い賃金は退職日の6カ月前の日から立替払いを請求した日の前日までの間に支払い期日が到来している定期賃金と退職手当のうち、未払となっているものです。いわゆるボーナスは立替払の対象とはならず、未払賃金の総額が2万円以上であることも条件となります。
未払い給料で泣き寝入りしないために
様々な労働トラブルの中でも、ごまかされることが多く泣き寝入りしがちなのが未払給料問題です。請求手続きでは証拠書類が重要になってくるので、給料の未払いに気づいたら、早い段階から必要な書類や証拠を集めておくことが重要です。また、未払い給料の問題で困った際は、第三者に相談することもおすすめです。弁護士などの法律の専門家に相談した方が、早く解決できる可能性があります。
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