過労死から身を守る!残業が80時間以上の「過労死ライン」なら要注意
長時間労働により、心身ともに疲れ果てたことによって起きる「過労死」は、いつ起こってもおかしくない深刻な問題です。労働基準法が改正されてもなお、長時間労働が常態化している企業も多いと言えます。万が一身近な人が過労死したり、過労により発症した疾患が原因で障害が残った場合、労災申請をして補償してもらうことが必要です。
- 残業代を請求することができるのはどんな人?
- 1日8時間以上、週40時間以上働いている人
- 次の項目に当てはまる人は、すぐに弁護士に相談
- サービス残業・休日出勤が多い
- 年俸制・歩合制だから、残業代がない
- 管理職だから残業代が出ない
- 前職で残業していたが、残業代が出なかった
「過労死」は世界共通語
「過労死」とは、長時間労働による疲労やストレスなどが原因となり、脳疾患や心臓疾患、精神疾患を発症して死亡、または重度の障害が残ることです。過労死事件は以前から起こっており、問題視されていましたが、近年再び長時間労働による過労死に注目が集まっています。
世界共通語「karoshi」を生んだ日本の労働問題
2015年12月25日、大手広告代理店の新卒女性社員が長時間労働を強いられたあげくに過労自殺する痛ましい事件が起こり、過労死問題が一気にクローズアップされました。
しかし、この問題は今に始まったことではありません。実は1991年にも、同じように大学卒の新入社員が過労自殺する事件が起こっています。それから24年が経つというのに、何も変わっていないというのが、まさにこの国の労働問題の現状といえるでしょう。
恥ずかしいことに、日本の「過労死」という言葉は、いまや「karoshi」という世界共通語となり、国際的に通用するという不名誉な結果となっています。
政府が打ち出した「働き方改革」の内容
厚生労働省は今年の6月、2016年度の「過労死等の労災補償状況」を公表しました。この発表によると、うつ病などの「精神疾患」を発症して労災を請求した人は1586人であり、4年連続で過去最多を更新したとのことです。
また、精神疾患で労災認定されたのは498人で、これも過去最多となりました。年代別では、20代で精神疾患の増加が目立っているのが特徴です。脳や心疾患などの「身体の病」よりも、精神疾患などが原因である「心の病」による労災補償が多くなっているのがわかります。
この深刻な問題を受けて、日本政府は今年3月に「働き方改革実行計画(働き方改革)」を政策の目玉として掲げました。そして「時間外労働(残業)」は原則として、月45時間、年360時間とすることを目標にしたのです。しかし、経団連などからの強い反発もあり、特別な事情がある場合には年720時間(月平均60時間)、月あたりの上限は100時間未満との特例が設けられました。
これは、いわゆる「過労死ライン」である「時間外労働が月平均80時間」を優に上回る時間です。そのため、2017年3月には、過労死した従業員の遺族や、労働問題に取り組む弁護士団が集会を開き、残業時間の上限を「1か月100時間」とすることに反対する姿勢をアピールしていました。
「過労死ライン」は80時間以上の時間外労働
「過労死ライン」とは、過労死や健康障害のリスクが高まるとされる「時間外労働(残業)」の時間を示す言葉です。時間外労働が過労死ラインに達すると、それだけ過労死や健康障害などが労災と認定される可能性が高くなるので、しっかり覚えておきましょう。
過労死ラインとは
一般的に、過労死ラインとは厚生労働省の基準で「2~6ヶ月間にわたる月平均の時間外労働が80時間以上」と定義されています。また、1ヶ月の時間外労働が100時間を超える場合も過労による健康障害が認められやすいとされています。
たとえば、ひと月の労働日数が20日とすると、1日8時間勤務に加え、1日4時間残業をする場合、時間外労働が80時間となります。また、1日8時間勤務で1日5時間の時間外労働をする場合、ひと月の時間外労働が100時間となります。
また、時間外労働が月平均45時間を超えれば超えるほど、過労死や健康障害との関連性が強いと判断され、労災認定が下りやすくなります。
ただし、過労死ラインに達したからといって、必ず労働災害として認められるわけではないということに留意しておきましょう。
長時間労働の改善と残業代を請求するための基礎知識
過労死ラインは労災が認められる大きな要因になるだけでなく、労働環境を改善する手段となる可能性もあります。現在の時間外労働が上記の①②に当てはまる場合、企業側に過労死ラインにあたることを指摘すれば、長時間労働の改善につながるかもしれません。
それだけでなく、時間外労働の残業代(割増賃金)も請求することができます。1日8時間・週40時間の法定労働時間を超えているにもかかわらず、割増賃金を支払っていないようであれば違法になります。
法定労働時間を超えた場合の残業代の基準は、次のようになります。
- 時間外労働が60時間までの場合は、25%の割増賃金
- 時間外労働が60時間を超えると、50%の割増賃金
つまり、基礎時給が1000円とすると、時間外労働が60時間までの場合は1250円、60時間を超えると1500円を会社側は従業員に支払わなければならないわけです。
現実的には、従業員に時間外労働を強要し、なおかつ残業代も払わない企業は多くあります。また、2010年4月1日に労働基準法が改正されたものの、時間外労働や残業代の規定に関して中小企業は適用が免除されている部分があり、それが長時間労働の改善の妨げになっています。
実際、厚生労働省が2016年にまとめた「過労死白書」では、いまだに2割を超える企業で、過労死ラインの目安となる月80時間を超える残業が行われているとの結果が出ています。
「労働基準監督署」に報告して企業を指導してもらう
しかし、事態を是正する方法がないわけではありません。長時間労働や残業代の未払いなど、企業に明らかな違法行為がある場合は労働基準監督署に通報して、指導をしてもらうことができます。匿名で報告することも可能なので、企業側からの報復されることなどを心配せずにすむメリットもあります。
とはいえ、昨今は長時間労働やサービス残業に関する相談が増加していることもあり、労働基準監督署にすぐには対応してもらえない場合もあるので注意しましょう。
過労死として労災認定が受けられるケース
過労死などによる損害賠償請求の時効は10年
労災認定の対象となる過労死や健康障害は、脳疾患や心臓疾患、精神疾患などです。そのような疾患を発症したのは業務が主な原因であることが認められた場合には、労災補償の対象案件として認定されます。
たとえば、発症の直前に長時間労働を行っていた場合や、過度のストレスなどに晒されていたことが客観的に認められるような場合は、労災に認定される確率が高くなるのです。
また、発症したときに職場以外の場所にいる、業務時間外や休日などのタイミングだったとしても、労災認定されることもあります。
しかし、脳疾患や心臓疾患、精神疾患が発症したことはあくまで労災認定を受けるための目安です。それらの疾患が発症したからといって、必ずしも労災と認められる保証はありません。
特に企業は自らの非を認めることを避ける傾向があります。サービス残業が横行している昨今では、自分や家族などがもしそのような疾患を発症してしまい、労災認定について会社側と争わなければならなくなる可能性はゼロであるとは言えません。万が一そのような事態になったときには、信頼できる弁護士に一任することが労災認定への一番の近道といえるでしょう。
また、会社側に対して損害賠償請求権を行使することのできるのは、過労死の場合は労働者が死亡したときから、長時間労働により疾患にかかり重い障害が残った場合は症状が固定したときから10年です。長時間労働による疾患の発症もしくは過労死から数年経っていても、企業の責任を追及できる可能性がありますので、あきらめずに弁護士に相談しましょう。
過労死が原因による労災認定を受けるためにしておくべきこと
労災認定されれば、労災保険制度によってさまざまな補償や給付を受けることができる可能性があるので、しっかり申請しましょう。しかし、労災認定されるには、業務によって過労死や健康障害が引き起こされたことが客観的に証明できる状況証拠が必要になります。裁判で有力な証拠となるのは以下のようなものです。
(できれば鉛筆などではなく、消えないボールペンで書くのがのぞましい)
証拠と思えるようなものはとにかく何でもいいので、できるだけ取っておくようにしてください。信頼できる友人などに、今のあなたの勤務状態や労働環境などを話しておくのもよいでしょう。
労災認定や労働環境の改善が難しい場合は弁護士に相談を
長時間労働による疲れから、「体調が良くない」「精神的に追いつめられている」と思ったら、迷わず弁護士に相談することをおすすめします。今の職場の労働環境が劣悪な場合、労働問題に詳しい弁護士に相談すればベストな解決策や改善案を示してくれるでしょう。「労働問題に関する初回相談は無料」と掲げている法律事務所も多いので、自分の身体や生命を守るためにも、ぜひ一度弁護士に相談して指示を仰ぎましょう。
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