ブラック企業に立ち向う!ブラック企業に残業代を請求するには
2017年9月、ある大手企業が従業員に対して未払いだった残業代230億円を一斉に支給したというニュースがありました。従業員に過度な残業を求め、さらに残業代すら支払わないブラック企業の実態が浮き彫りとなったわけです。今回は、万が一自分が残業代未払いという不当な扱いを受けた際にブラック企業にどう立ち向かうべきかを説明します。
- 残業代を請求することができるのはどんな人?
- 1日8時間以上、週40時間以上働いている人
- 次の項目に当てはまる人は、すぐに弁護士に相談
- サービス残業・休日出勤が多い
- 年俸制・歩合制だから、残業代がない
- 管理職だから残業代が出ない
- 前職で残業していたが、残業代が出なかった
ブラック企業を見極める!労働時間の基準とは
「ブラック企業」と聞くと、残業が多い過酷な労働を強いられるイメージがありますが、実際、社員にどれ位の残業を強いるとブラック企業となるのでしょうか。
まずは、ブラック企業を判断するために、労働時間および残業代の基準について説明します。
労働時間の種類
まずは、労働時間および残業についての基本事項を確認しましょう。
法定労働時間
労使間における労働条件を定めた労働基準法において、使用者は、原則、休憩時間を除いて、原則1週間につき40時間、1日につき8時間を超えて労働させてはならないことになっています。この上限として定められた労働時間を「法定労働時間」といいます。例外として、商業、映画・会陰劇業(映画製作事業は除く)、保健衛生業、接客娯楽業で常時使用する労働者が10人未満の場合、1日8時間は変わりませんが、1週間で44時間までとなっています。
所定労働時間
法定労働時間を上限とした上で、それぞれの企業や事業所の就業規則等で定められた労働時間を「所定労働時間」といいます。所定労働時間は上限になります。
変形労働時間
一定期間内の1週間の平均労働時間が40時間以内であれば、1日、8時間、1週間40時間
を超える日があっても割増賃金を支払わなくてもよいされています。忙しくない期間は労働時間を減らし、忙しいときは増やせるメリットがあります。
時間外労働
法定労働時間を超えて行う労働を「時間外労働」といいます。つまり、残業です。なぜ上限であるはずの法定労働時間を超えて働くことができるのかについては、後述します。
法内残業
法定労働時間の上限内であるものの、所定労働時間を超える場合を「法内残業」といいます。これも残業に該当します。
残業代の算出方法
残業には、時間外労働と法内残業があると説明しましたが、この2つは残業代の算出方法が異なります。具体的には以下のとおりです。
時間外労働
時間外労働の時間数(時間)×1時間あたりの賃金(円)×1.25以上
(時間外労働が深夜※原則午後10時~午前5時までに及んだ場合は×1.5以上)
法内残業
法内残業の時間数(時間)×1時間あたりの賃金(円)
使用者は、労働者が時間外労働をした場合には上記算出方法によって出された割増賃金を支払わなくてはなりません。
ブラック企業でも残業が認められる
労働時間には上限があることがわかりましたが、実際にはこの上限をこえる労働時間で働く人々が多く存在します。なぜ、このようなことが可能になるのか。それは、誰しもが一度は耳にしたことがある36(サブロク)協定の存在があるからです。
36(サブロク)協定とは
36協定とは、労働基準法違反になる事項を適法とするために労使間で締結される労使協定の一種で、労働基準法第36条に規定されていることからそう呼ばれます。
使用者は労働者との間でサブロク協定を締結し、これを行政官庁(所轄労働基準監督署長)に届出た場合に、労働者に時間外労働をさせることが可能となるのです。
なお、法内残業は法的には問題がないため36協定の締結・届出は必要ありません。
36(サブロク)協定の限界
ここで注意すべきは、36協定が万能ではないということです。
36協定は、無制限に時間外労働を認めているわけではなく、労働の延長時間の上限を、1週間で15時間、1ヶ月で45時間と定めています。
つまり、36協定の存在があったとしても、時外労働は必要最小限にとどめるべきものであるということに変わりはなく、それを超える労働については違法な残業となるのです。
ブラック企業の実態とは
36協定にも労働時間の上限があることがわかりましたが、その上限を遥かに超える違法残業を強いるブラック企業も数多く存在し、残業時間が月100時間を超えるといった事例も耳にします。さらに、違法残業にのみならず労働者の弱い立場に漬け込んで、残業代の支払いを逃れようとするブラック企業も後を絶ちません。
残業代を争ったケース
では、「働いた分だけ給与をもらう」という労働者として当然の権利はどうすれば守られるのでしょうか。続いては、労働者の主張が裁判で認められた実際のケースを見てみましょう。
ケース1 ~残業指示と年俸制~
まずは、企業が残業を黙認していたのか、毎月支払われていた手当が残業代に該当するのかが争点となったケースです。
概要
企業Xに勤める契約社員Yが、企業Xに対して未払いであった残業代の支払いを求めましたが、企業Xは、残業自体は契約社員Yが自らの裁量で行ったもので、企業Xからの残業の指示はなかったとし、さらに、年俸制の給与の中に含まれる「現場手当」(毎月一律25,000円)が残業代に該当する旨主張しました。
争点
①上司から口頭や文書での明確な指示がなければ、残業として認められないのか
本件において、残業時間については企業Xと従業員Yとの間に争いがありませんでしたが、企業Xは、具体的な残業の指示はしておらず、従業員Yの勝手な判断で行っていたと主張しました。
しかし、裁判所は、従業員Y自らが勤務時間を記載した整理簿を作成し、上司に提出していたこと、さらにその整理簿を上司が確認していたにもかかわらず、残業をやめるよう注意しなかったことを踏まえ、企業側の黙示的な残業の指示があったと結論づけました。
つまり、残業の指示は明示的でなく、黙示的なもので足りると判断したのです。
②現場手当は残業代といえるのか
裁判所は、両者間で締結した労働契約には、「住宅手当、家族手当、資格手当、現場手当(残業手当)を含むものとする。」とあったものの、従業員Yに対しては全て基本給の名目で給与が支払われており、現場手当(残業手当)の明確な額が不明であると指摘しました。
また、仮に支払われていた月25,000円という額が現場手当(残業手当)だったとしても、実際の膨大な残業時間で算出した場合に1時間あたりの残業代が不当に低い額となるため認められないとしました。
最近は、本件同様固定給や年俸制の給与の中に残業代が含まれるかどうかで争うケースも多いですが、判例の多くは、通常の賃金と残業手当が明確に分かれているかどうか、さらにその残業時間と併せて考えたときに残業代が不当に低い額ではないかがポイントとなっています。
判決
企業側の黙示的な残業の指示があったこと、基本給と残業手当の線引きが不明確であること、さらに支払われていた現場手当が残業代だったとしても不当に低い額であることを踏まえ、裁判所は企業Xに対し未払いの残業代を支払うよう命じました。
ケース2~名ばかり管理職~
続いて、いわゆる「名ばかり管理職」が問題となったケースです。
概要
某ファーストフードチェーン店Xの店長を務める従業員Yが、自身は、労働基準法の「労働時間、休憩および休日」に関する規定の除外対象である「管理監督者」に該当しないとして、ファーストフードチェーン店Xに対し、それまで未払いであった残業代の支払いを求めました。
争点
従業員Yは、管理職に該当するのか?
事業の種類にかかわらず、監督もしくは管理の地位にある者(いわゆる管理監督者)は、労働基準法における「労働時間、休憩および休日」の規定の適用除外者となります。
給与等で他の従業員と比べて優遇されていることがその理由ですが、平たく言ってしまえば、管理監督者に何時間労働をさせても、休憩や休日を与えなくても違法とはならない、ということです。
一般的に管理監督者とは、経営や労務に関して経営者と一体的な立場にある者をいい、管理監督者か否かは、その者に付与されている責任や権限、職務内容、優遇措置など、様々な実態と照らし合わせて判断されるべきとされています。
では、従業員Yの実態はどうだったのでしょう。
a.管理監督者としての権限の付与
従業員Yには、アルバイトの採用権限や時給額の決定権がありましたが、社員の採用や昇格に関しては決定権がなく、労務管理の一端は担っているものの、経営者と一体的な立場にあるとはいえない、と判断されました。
また、店舗の損益計画の作成や販売促進活動の実施を担当し、店舗の運営に関する決定等の権限を有してはいましたが、実際は本社からの決定事項に逆らうことができない立場で、企業全体の運営には関与していないとされました。
b.勤務時間の裁量決定権
従業員Yは、店長として自身の勤務時間の決定権があったものの、労働時間が長時間に及んでいたことから考えて、自由に勤務時間を決定することは実質的に不可能であったとされました。
c.給与等の優遇
給与は、非管理監督者の従業員と大きな差がなく、さらに他の店舗の管理監督者の中には、非管理監督者の給与を下回る者もいるため、管理監督者としての優遇は十分ではないと判断されました。
<判決>
以上、a.b.c.を踏まえ、従業員Yは管理監督者と認めらないことから、裁判所は、ファーストフードチェーン店Xに未払いの残業代を支払うよう命じています。
ブラック企業に残業代を請求する方法
ここまでに自分自身にあてはまるような事案はあったでしょうか。
それでは、今回登場した判例を踏まえ、ブラック企業に対して残業代を請求する方法を確認しましょう。
証拠を集める
残業時間や、未払いの残業代に関する証拠を集めましょう。
残業代未払い等の問題に関しては、ケース1、ケース2から分かるように、形式的、名目的な事項よりも実態はどうであったかという客観的な判断材料が重要になります。
そのため、使用者の扱いに不信感を抱いた場合は、タイムカード等の勤務時間の詳細な記録や、給与明細など、「客観的証拠」を集めることが重要となります。
また、膨大な残業時間にもかかわらず、タイムカードや勤怠の管理を使用者側が操作することによって残業代の支払いを逃れようとする場合もありますので、その場合は、自分自身で記録をつけておくことも必要です。
残業代を計算
支払われている残業代が不当なものか、本来支払われるべき金額はいくらなのか、集めた証拠を元に残業代の計算をしてみましょう。
なお、労働基準監督署に申請すれば、正しい残業代を計算してもらえますので、労働基準監督署を利用することをお勧めします。
ただし、その際は上記の「客観的証拠」が必要となりますので注意してください。
使用者と交渉する
「客観的証拠」と、計算した残業代を材料に使用者と直接交渉してみましょう。
両者の話し合いで解決できるのであれば、早期の解決が望めます。
残業代を支払わないブラック企業の悩みは弁護士に相談
企業は人と人とで成立しているため、全てを明確に線引きすることは難しく、何かと曖昧になってしまうことが多いものです。
また、労働者と使用者の関係というのは、どうしても使用者が強くなってしまいがちなため、結果的に労働者にとって不利な状況を招きかねません。そこで、ブラック企業での労働環境にお悩みの方は、まず、労働問題に強い弁護士に相談してみるのはいかがでしょうか。よいアドバイスをしてもらえ、スピーディな解決を目指せるかもしれません。
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