ベーシックインカムが日本で導入されたらどうなるかを考えてみよう

2020年6月19日468,141 view

ベーシックインカム

貧困や経済格差の拡大を背景に、ベーシックインカム制度導入についての議論が世界中で沸き起こっています。実際に制度の試験的導入が進められている国や地域もあり、一定の効果を上げています。ベーシックインカムは年齢や所得に関係なく誰でも受け取れる点がメリットではありますが、財源も必要となるため、実際の導入が難しい点もあります。

ベーシックインカムに関する議論が各地で沸き起こっている

現在の日本の社会保障制度では、失業したとき・働けなくなったとき・離婚したときなど、「何かあったとき」に初めて公的扶助が受けられるようになっています。しかし、「何かあったとき」に限らず、誰でもいつでも受けられる公的扶助制度「ベーシックインカム」を導入しようとする動きが今、世界中で起こりつつあります。

ベーシックインカムとは

ベーシックインカム(Basic Income)とは、年齢・性別・所得の有無を問わず、すべての人に所得保障として一定額の現金を支給する制度のことです。日本語では「最低所得保障」とも呼ばれます。

日本では、定年を迎えた人には老齢年金、何らかの事情で働くことができない人には生活保護、失業した人には失業保険といった社会保障制度によって、所得がないもしくは少ない人を支える仕組みが用意されています。しかし、これらの給付は所得や仕事の有無についての審査などもあり、満足いく額を受給できなかったり、全く支給されなかったりするために、憲法で保障されている「最低限度の生活」を送れない人も多くいます。

そこで、誰でも最低限の生活保障が受けられるベーシックインカム制度に近年注目が集まっているのです。現に、世界の国々の中では支給対象やエリアを絞っての試験的導入がすでに始まっています。

なぜ今、ベーシックインカムなのか?

ベーシックインカム制度の導入が検討されるようになった時代背景のひとつに、貧困や経済格差が拡大しつつあることがあげられます。

厚生労働省の調査によると、日本では生活保護を受給している人は2017年5月の時点で約164万世帯、約213万人います。また、可処分所得を世帯人数の平方根で和手って算出する等価可処分所得の中央値の半分のラインを「貧困ライン」と言いますが、2015年時点で「貧困ライン」以下の生活を送っている人の「貧困率」も15.6%となっています。総務省の統計によると、2015年10月時点での人口は1億2709万人なので、つまり、日本ではおよそ2000万人弱の人が貧困ライン以下の生活を送っていることになります。このことは今、大きな社会問題として連日ニュースや新聞などで取り上げられています。

また、ここ数年はAI(人工知能)の普及により人間の仕事がどんどん奪われてゆく可能性が示唆されていることも、ベーシックインカム導入が検討される理由の一つとなっています。今後発生するであろう多数の失業者を一括して迅速に救済するためにも、個別の所得審査などが必要ないベーシックインカムを導入したほうがよいのではないかと考えられているのです。

世界でベーシックインカムの導入実験が行われている

ベーシックインカム

アメリカ、カナダ、オランダ、イタリア、インド、ウガンダなど、世界各地で実際にベーシックインカムの導入実験が行われています。ここでは、フィンランド・ナミビア・カナダの事例について見ていきましょう。

フィンランドでは生活の質の向上が見られた

フィンランドでは、2017年1月1日より、無作為に選ばれた失業者2000人に対してひと月およそ600ドルを2年間支給する、ベーシックインカムの試験導入が行われています。

フィンランドでは失業率が8.8%と深刻な状況が続いていました。そのため、政府系経済機関が新たな社会保障の仕組みを提供できる可能性を見出すために、また、ベーシックインカムを導入することで人々の生産性がどう変化するかを見極めるためにベーシックインカムを試験的に導入することを決めたのです。

ベーシックインカムを導入後、数か月でシングルマザーが所得の増加により貧困から抜け出せた、失業者が思い切って起業できたなど、さまざまな効果がすでに報告されています。他にも、「自由な時間が増えた」「QOL(生活の質)が向上した」などの声も見受けられます。

ナミビアでは貧困率や犯罪率が低下

2009年にアフリカのナミビアで「UBI(Universal Basic Income)パイロットプロジェクト」が行われました。すると、1年後には犯罪率が36.5%、貧困率が18%、失業率が15%下がり、所得の水準も29%上がったとの結果が得られたと言います。また、学校の授業へ出席する子供も増えたことが報告されています。

このような結果があらわれた背景には、ナミビアの貧困層にいた人たちが仕事を見つけたり起業したりすることで収入が上がり、貧困レベルが改善したことがあげられると言えるでしょう。

カナダでも犯罪率や子供の死亡率、家庭内暴力が減少

カナダでは、1970年代にすでにベーシックインカムの導入実験が行われていました。実験の結果は、労働時間は少し減ったものの、犯罪率、子供の死亡率、家庭内暴力の件数が減少。他にも、メンタルヘルスの悩みも減り、入院期間も8.5%短縮したとの結果が出ています。

2017年4月からは、新たにオンタリオ州で、貧困ライン以下で生活する4000人を対象にベーシックインカム制度を試験的に導入し、受給者や公共財政への影響を図る取り組みが行われています。こちらの実験結果報告も待たれます。

ベーシックインカムのメリット・デメリット

ベーシックインカム制度には、メリットもあればデメリットもあります。それぞれどのようなメリット・デメリットがあるのかについて、詳しく見ていきましょう。

ベーシックインカムを導入するメリット

ベーシックインカム制度の最大のメリットは、最低限の所得保障が誰でも受け取れることでしょう。最低限の所得があれば、ライスワークとして行っている仕事の量を減らし、本来やりたかったことにチャレンジしようという気持ちになることもできます。

本来自分が価値を置く仕事・活動ができる

ベーシックインカムが得られることで、所得が得られるかどうかに関係なく、自分が本当に価値を置いている仕事や活動に力を注げることがメリットのひとつにあげられます。そうすることで、個々人の生活の満足度も上がることが予想されます。

行政コストの大幅削減になる

生活保護には、市区町村役場での相談窓口を設置する、審査制度を設けるといったコストがかかりますが、ベーシックインカムは無条件で支給されるため、審査も相談窓口も不要になります。その分、行政コストダウンにつながることが考えられます。

生活保護も行き届かない貧困層を救う手立てにも

社会保障に詳しい研究者の調査によると、日本には生活保護レベル以下の生活をしながら、生活保護を受給できずにいる「隠れた貧困層」が全国で2000万人以上いると推測されています。そのため、ベーシックインカムを導入することで、そのような最貧困層にいる人たちを救う手立てにもなるのではないかと言われています。

ベーシックインカムの問題点

誰でも受け取ることのできるベーシックインカムならではの問題点もあります。ひとつは日本人のモラルハザードの問題、もうひとつは財源の問題があげられます。

ベーシックインカムがあることで働かなくなる?

ベーシックインカムの導入にあたって懸念されることが、「ベーシックインカムが導入されたら働かなくなる人が増えるのでは」ということです。しかし、ベーシックインカムはあくまで最低限度の給付でしかなく、それだけで生活していくことは難しいため、労働時間は多少減っても働く人の減少にはつながらないのではないかと考えられています。

「働かざる者食うべからず」

日本に昔からある「働かざる者食うべからず」という考え方はいまだに根強く、無条件でベーシックインカムを受け取ることに抵抗感を示す人も少なからずいるかもしれません。

財源の問題

ベーシックインカムの導入には、ある程度の財源の確保が必要です。20歳以上に限定して月7万円を支給しようとしても、2017年7月時点の日本の成人人口はおよそ1億500万人なので、年間でおよそ88兆円が必要となります。そのため、ベーシックインカムの導入にはさらなる増税が避けられないでしょう。

ベーシックインカムが導入されたときの働き方を考えておこう

日本でもしベーシックインカムの導入が実現したら、少なからず今までの働き方へのインパクトもあることが予想されます。ベーシックインカムを手にしたときの生活設計や働き方をどうするかについて、今のうちにシミュレーションをしておくとよいかもしれません。

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