変形労働時間制を採用している会社で起こりうる問題点とは
変形労働時間制は、時期ごとに発生する繁忙期や閑散期に合わせて、法定労働時間の範囲内で柔軟に労働時間を設定できる制度です。しかし、所定労働時間や給与の計算が複雑になるため、所定労働時間をあいまいにされたり、残業代を減らされるなどの問題が起こることあります。労働時間や給与に疑問を感じたら、弁護士に相談するようにしましょう。
変形労働時間制は対象期間別に3種類ある
変形労働時間制は、対象期間別に「1年単位の変形労働時間制」「1ヵ月単位の変形労働時間制」「1週間単位の変形労働時間」の3つがあります。いずれも、繁忙期に労働力を集約させ、閑散期に労働力を分散させることで、対象期間内での労働時間削減を目的としています。
1年単位の変形労働時間制
1年単位の変形労働時間制とは、1ヵ月以上1年未満の期間を対象期間と定めて、年間の平均労働時間を1日8時間・週40時間にするための制度です。会社側による制度の乱用を防ぐため、年間の休日が最低85日以上、労働時間も1日10時間以内・週52時間以内と厳しく制限されています。
1年単位の変形労働時間制を採用するには、以下の要件を満たすことが必要です。
- 会社側と労働組合または労働者の過半数を代表する者との間で労使協定を締結する
- 対象となる労働者や対象期間、労働時間などの必要事項を労使協定で定める
- 所轄の労働基準監督署に労使協定を届け出る
1ヵ月単位の変形労働時間制
1ヵ月単位の変形労働時間制とは、1ヵ月単位で平均労働時間を1日8時間・週40時間にするための制度です。この制度は休日や労働時間の制限がないため、休日の少ない会社や長時間労働になりがちな業種(警備員、高速バスやトラックの運転手など)に適用されることが多くなっています。
1ヵ月単位の変形労働時間制を採用するためには、以下の要件を満たすことが必要です。
- 対象期間の1週間の平均労働時間が法定労働時間(原則40時間)を超えない範囲で各日および各週の労働時間を具体的に定める
- 変形期間の起算日を定める
- 上記に則り労使協定もしくは就業規則を作成する
- 就業規則の変更を行った場合には所轄の労働基準監督署に届け出る
1週間単位の変形労働時間制
対象期間を1週間と、短いスパンで変形労働時間制を採用しているのが、1週間単位の変形労働時間制です。特定の曜日に働く時間を長くする代わりに、ほかの曜日の働く時間を短くして、全体として労働時間の短縮を目指す制度です。繁閑に合わせて従業員の人数を増減させることが難しい小規模の企業で採用されることが多いと言えます。
1週間単位の変形労働時間制を採用する場合には、以下の要件を満たすことが必要です。
- 小売業、旅館、料理店および飲食店の事業であって規模が30人未満のもの
- 労使協定において1週間の所定労働時間として40時間以内の時間を定める
- 労使協定を所轄の労働基準監督署に届け出る
変形労働時間制をめぐる問題点とは
変形労働時間制を採用している会社の場合、従業員と会社側で生じるのが残業代に関する問題です。変形労働時間制では労働時間や残業時間の計算が非常に複雑になるために、労使間でトラブルが生じやすくなっています。
所定労働時間があいまい
特定の日ごとや週ごとに細かく所定労働時間を変則的に設定している会社では、従業員にはわざと所定労働時間を知らせないであいまいにしてしまうことがあります。例えば、所定労働時間をその月の1週目には9時間、2週目には6時間と設定している場合、会社側が1週目・2週目とも労働者に9時間労働を強いて、残業代を支払わないケースも散見されます。
もし、所定労働時間を会社側から知らされず、あやふやなままになっている場合は総務部などの担当者に、日ごと・週ごとの所定労働時間を確認してみるとよいでしょう。
所定労働時間が法定労働時間をオーバーしている
変形労働時間制は、従業員を何時間でも働かせてよい制度ではありません。それにも関わらず、就業規則で定められている所定労働時間が法定労働時間をオーバーしている場合があります。所定労働時間は法定労働時間内に収めなくてはならないものなので、所定労働時間が法定労働時間を上回っている場合は法律違反となります。そして、法定労働時間を超過している時間については、会社側が割増賃金を支払わなければならないことになっています。
もし、長時間労働が常態化している場合は就業規則を調べてみて、法定労働時間をオーバーしているようであれば、労働基準監督署などの専門機関や弁護士に相談し、対応してもらうようにしましょう。
残業代を減らされる
変形労働時間制では、労働時間が変則的になっている分、給与計算が複雑になりがちです。それにつけ込んで、本来もらえるべき残業代を減らされる可能性があります。長時間働いているにもかかわらず、それに見合った給与を支払ってもらえていない場合は、働いた証拠を残しておきましょう。タイムカードのコピーを入手する、出勤時間・退勤時間を手帳にメモする、深夜・早朝に会社のPCから送ったメールをプリントアウトしたものを保存しておくなどの対策を日頃からしておくと会社と残業代の交渉をするときに役に立ちます。
変形労働時間制では残業代はどうやって計算する?
法律上仕事をしても良い時間数の上限のことを「法定労働時間の総枠」と言います。この総枠を超えたら時間外労働となり割増賃金が発生しますが、対象期間によってこの総枠の時間数は異なるので、それぞれの変形労働時間制での法定労働時間の総枠について知ることがまず大切です。
法定労働時間の総枠を計算する
法定労働時間の総枠の計算式は以下になります。
(※従業員が10人未満の小規模事業所の場合は44時間)
これをそれぞれの対象期間に当てはめると、法定労働時間の総枠は以下のようになります。
①1年単位の変形労働時間制
うるう年以外の場合 | 40(時間)× 365(日)/ 7(日)≒ 2,085(時間) |
---|---|
うるう年の場合 | 40(時間)× 366(日)/ 7(日)≒ 2,091(時間) |
②1ヵ月単位の変形労働時間制
1ヵ月単位の変形労働時間制の場合、月によって歴日数が異なるため、歴日数ごとの法定労働時間の総枠は以下のような違いがあります。
歴日数 | 法定労働時間の総枠 |
---|---|
28日 | 160.0時間 |
29日 | 165.7時間 |
30日 | 171.4時間 |
31日 | 177.1時間 |
③1週間単位の変形労働時間
労働基準法上の規定と同様、40時間(※)となります。
(※従業員が10人未満の小規模事業所の場合は44時間)
変形労働時間での残業代の計算方法
変形労働時間制で残業代を計算するときは、まず労働した1日について残業代が生じているかどうかを確認し、計算します。その次に、労働した1週間について残業代を計算し、さらに1ヵ月について残業代を計算、というように期間を広げていきます。最終的には、対象期間全体をみたときに計算しきれていない残業代を算出します。
- 1日について計算
- 1週について計算
- 対象期間全体について計算
1日について計算
1日8時間を超えて所定労働時間を定めている日は、その所定労働時間を超えて労働した時間が法定外残業となります。所定労働時間を1日8時間以下に定めている日については、定めた時間から8時間までは法定内残業、8時間を超えて労働した時間が法定外残業となります。
1週について計算
1週40時間を超える所定労働時間を定めている週については、定めた時間を超えて労働した時間が法定外残業となります。1週40時間以下の所定労働時間を定めている週については、定めた時間から40時間までは法定内残業、40時間を超えて労働した時間が法定外残業となります。
対象期間全体について計算
最終的には、対象期間の中の「総枠」を超えて労働した時間について残業代を支給します。このとき、日単位で計算した残業時間と週単位で計算した残業時間を差し引いて計算します。また、対象期間全体での残業代を支給するときは、対象期間直後の給与で清算します。
変形労働時間制で問題が生じたら弁護士に相談しよう
変形労働時間制を導入している会社で働いていて、「日々の所定労働時間が長すぎる」「労働時間に見合った給与をもらえていない」と感じたら、労働問題に詳しい弁護士に相談しましょう。弁護士と委託契約を結んで対応を依頼すれば、問題解決に向けて会社側に働きかけてもらえます。その際は、労働時間を示すタイムカードのコピーなどの証拠を保存することを忘れないようにしましょう。
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