派遣法の改正が引き起こす「2018年問題」の問題点
派遣労働者にとって派遣切りが危ぶまれる2018年問題。本来は派遣法改正によって派遣社員が正社員になれる可能性が広がるはずなのに、正社員にしたくない派遣先や無期雇用にしたくない派遣元が派遣社員を雇い止めにする恐れが出ています。2018年問題を正しく理解して理不尽な派遣切りに遭わないよう注意してください。
この記事で分かること
派遣法改正にまつわる2018年問題とは?
2018年問題とは2013年に施行された改正労働契約法と2015年9月に施行された改正労働者派遣法の影響が同時に現れるものです。それぞれの内容を簡単に説明いたします。
改正労働契約法で注目したいところ
2013年に行われた労働契約法の改正は、有期雇用されていた労働者を5年を超えて雇い続けた場合に無期雇用に転換するようにしました。この法改正は2013年4月1日より施行されたので2018年4月1日から無期雇用に転換されるべき労働者が現れます。ちなみに、派遣労働者の場合は派遣元との契約でこちらの法改正が関わります。
改正労働者派遣法で注目したいところ
2015年に行われた労働者派遣法の改正はどの業務も組織単位で3年間までしか同じ人を派遣できなくしました。こちらの法改正は2015年9月30日に施行されたため2018年9月30日よりこの影響が出てくる派遣労働者があらわれます。
3年を超えて同じ部署に派遣されている人やそのようになる見込みのある人に対して派遣会社は直接雇用の依頼や派遣先の紹介、派遣元による無期転換などを義務付けられた点も注目されます。(雇用安定措置の一部です)
2018年問題で大量の失業者が出るかもしれない
いずれも非正規労働者が安定した雇用を得られるようにした問題で、文章だけ読めば正社員になれるだけ労働環境が改善したように見えますね。しかし、有期雇用だからこそ気軽に採用できた社員をずっと雇用し続けるのは会社にとってデメリットになることから2018年に大量の雇い止め、いわゆる派遣切りが起きることが予想されています。
2018年問題と派遣法改正のデメリット
2018年問題や改正労働者派遣法(以下派遣法)によってどのように派遣労働者が不利になるのか、何が起きるのかを具体的に解説します。
今まで通りで良かった人まで派遣切りに遭う恐れ
2018年問題のせいで派遣労働を続けたかった人まで派遣切りに遭う恐れがあります。派遣法や労働契約法の改正はより雇用期間のない無期契約労働者や待遇の良い正社員になりやすくするためのものでしたが、現実は「派遣で雇えないならそこで打ち切る」ケースが多発しています。
正社員を希望する人がこの制度によって雇い止めされるのは仕方ないかもしれません。しかし、派遣社員のままで良かった人まで派遣切りされてしまうのはとても残念なことです。
派遣は労働に自由さがある
派遣社員は有期雇用である点で雇用が不安定になりますが、会社の移り変わりをしやすいため正社員に比べて自由な働き方ができました。そのためあえて派遣という働き方を好む人もいます。(もちろん給与が安い点など正社員との待遇格差は直していくことが望ましいと思います)
派遣先での能力向上がしづらくなる
派遣先で継続して働けないということは仕事をしながら能力を向上させることが難しくなります。これも派遣労働についての3年ルールがもたらした弊害です。仕事ができるようにならなければ正社員の可能性が広がらないからです。
キャリアアップを助けてもらうことはできる
同じ組織単位で派遣労働ができる期間が厳しく制限されたことによる不利益を抑えるために、改正派遣法は派遣元によるキャリアアップ措置を義務付けました。望ましい働き方を実現するための教育訓練やキャリアカウンセリングを受けることができます。
この制度をうまく活用して次の道を探しましょう。
派遣元から雇い止めされる可能性も
派遣先に契約されなくなる問題の他に派遣元に雇い止めされてしまう問題も派遣労働者にとっての2018年問題です。派遣労働者の場合、同じ組織単位で3年以上働けないため、その時点で雇い止めされる可能性があります。さらに派遣元の会社と有期契約(登録型派遣など)が5年より長く続きそうになった場合も、無期転換を避けるために雇い止めされる可能性が出てきます。
不合理な雇い止めには適切な対処を
雇い止めを認めるためには正当な理由が必要です。派遣元は他の会社と同じく正当な理由なく雇い止めすることができません。とくに明確な判断基準が無いものや派遣会社が新たな派遣先を探す努力をしていない場合は雇い止めを無効にできる可能性が高いです。
2018年問題をチャンスに変えられる人もいます
2018年問題は「雇いたくない労働者を切り捨てる」ことが危険視されていますが、逆に言えば非正規労働者を雇いたいと思ったら無期契約社員や正社員にして積極的に受け入れることが考えられます。とくに人員の流動が多い業界では無期雇用の可能性が広がるでしょう。
派遣期間の制限は直接雇用の促進をするため
そもそも派遣期間が制限されたのは派遣労働者を追い出すためではなく、より安定した待遇で受け入れてもらうためです。もし本当に「この人にずっといてほしい」と思ったなら派遣先も派遣元も無期雇用のリスクを払ってでも手放さないはずです。
ちなみに、派遣先と派遣元がどちらも無期雇用したいとなった場合は派遣先の権利が優先されます。派遣元は派遣労働者の直接雇用を妨害できません。
無期契約社員=正社員ではない
よく誤解されがちですが無期契約社員は正社員ではありません。あくまでも契約社員のまま無期契約になっただけで正社員に比べて待遇が悪いです。同じ無期契約なのに待遇差が出そうな点も隠れた2018年問題です。
常時型派遣に変えてもらえば3年しばりがなくなる
派遣切りの問題となりやすい3年しばりですが、逆に言えば派遣元が無期雇用してくれれば問題が解決します。派遣元に無期雇用されている派遣労働者はそもそも3年の制限がありません。
常時型派遣と登録型派遣
常時型派遣とは無期雇用で雇われるタイプで登録型派遣は有期契約をその都度重ねていくタイプです。派遣切りで問題になるのは登録型派遣です。現在登録型派遣で働いている人は無期転換してもらうか転職する努力が必要です。
企業は正社員の雇用でキャリアアップ助成金がもらえる
会社が正社員を雇いたくなるよう、国はキャリアアップ助成金を会社に支給しています。これは派遣社員や有期契約社員を正社員にすると60万円ほどの助成金がもらえる制度で、この助成金によって中小企業の採用活動が活発化すると期待されます。
キャリアアップ助成金は正社員採用だけが対象ではない
キャリアアップ助成金は非正規労働者を正社員に転換した場合と正社員を採用した場合の他にこのようなケースでも支給されています。
まずは非正規労働者を限定正社員で採用した場合。そして有期契約社員を無期転換した場合です。正社員で働けない人も無期契約社員や限定正社員 なら正社員より制約が軽くなります。
2018年問題を機に派遣切りされたときは
2018年問題をきっかけに派遣切りされてしまった時は雇い止めを取り消してもらうことや新たな派遣先を探してもらうことが必要です。改正派遣法の3年ルールがあるため派遣先企業の雇い止めに対抗するのは難しいですが派遣元の雇い止めや失業についてはできることがあります。
派遣会社は安定して派遣先を提供する義務がある
まず、派遣会社に新たな派遣先の提供を求めることができます。派遣元は雇用安定措置として新たな派遣先の提供か派遣元事業主による無期雇用などをする義務を持つため3年ルールによって派遣先で働けなくなった場合の対策を派遣会社に聞いておくと良いです。
すでに派遣先の仕事が無くなってしまった場合は派遣元に派遣先探しの状況を逐一確認してください。派遣先が見つからない場合でもキャリアアップに必要な教育やカウンセリングを受けられます。
「合理的なものに限る」とは
派遣労働者に提供する派遣先は合理的なものに限ります。形式的に義務を果たしたことにならないよう合理的でない派遣先の提供は認められません。たとえば、あなたが沖縄に住んでいて東京の派遣先を紹介されても働きようがありません。今までの半分の賃金で働くことも生活するうえで負担になるでしょう。
極端に負担のかかる派遣先を紹介されたときは再び新しい派遣先を探してもらいましょう。
派遣会社は正当な理由なく労働者を雇い止めできない
正当な理由なく派遣会社に雇い止めされたら、雇い止めを撤回してもらいましょう。雇い止めは期間が来れば自由にできるわけではありません。不意打ちのように雇い止めされてしまえば労働者の生活基盤が不安定になってしまいます。
雇い止めに対抗する方法
雇い止めに対抗するときは会社との直接交渉や法的手続きが考えられます。雇い止めの理由を突き詰めるために雇い止め理由証明書を会社から交付してもらいましょう。とくに雇用継続を期待するような言動が見られた場合は解雇と同じくらい厳しく雇い止めが制限されます。
雇い止めに対する同意をしたり退職届を出したりした場合は雇い止めを撤回できなくなるので気を付けてください。
とりあえずは失業保険を活用する
派遣会社から雇い止めされてしまった時や派遣先で働けなくなった場合でも失業保険を受け取ることができます。地位確認で争っている時でも失業保険を受け取れるのですぐにハローワークへ申請してください。
派遣元から雇い止めされた場合
派遣元による雇い止めで争っている時は仮給付という形で失業保険を受け取れます。仮給付なので雇い止めが無効になった時の返還を忘れないでください。
派遣先との契約が終わった場合
派遣先との契約が終わって仕事が無い時も失業保険を受け取れます。ただし、派遣元が新たな派遣先を探す期間は失業とみなされないため前の契約終了から1か月ほど待った方が良いです。具体的な判断基準はお近くのハローワークに問い合わせてください。
2018年問題を前に派遣切りの気配がしたら弁護士へ相談を
2018年に派遣労働者の環境は大きく変わります。もしかしたらすでに派遣切りの準備をしている会社があるかもしれません。これからの継続や直接雇用の可能性をそれとなく伺いながら弁護士と一緒に対策を立てるのがおすすめです。法的問題に発展させる前の対策として派遣切りされる前に転職することも考えておきましょう。
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