中小企業でも残業代は請求できる?
残業代が払われていない、でもうちの会社は中小企業だから本当に払ってもらえるのだろうか…そう不安になる気持ちはよくわかります。残業代の支払いは会社の規模に問わず義務付けられている以上、中小企業でも経営が傾いていても労働者は残業代の請求が可能です。残業代請求までの詳しい方法は弁護士と相談してください。
- 残業代を請求することができるのはどんな人?
- 1日8時間以上、週40時間以上働いている人
- 次の項目に当てはまる人は、すぐに弁護士に相談
- サービス残業・休日出勤が多い
- 年俸制・歩合制だから、残業代がない
- 管理職だから残業代が出ない
- 前職で残業していたが、残業代が出なかった
この記事で分かること
中小企業とは
中小企業とは、いわゆる大企業より規模の小さい会社のことを言います。さらに、中小企業の中でも常時使用する従業員の数が少ないものを小規模事業者と言います。中小企業の定義は中小企業基本法第2条によって定められています。中小企業庁のページではその内容がこちらの表にまとめられています。
(中小企業庁より引用):FAQ「中小企業の定義について」
ちなみに、中小企業の定義は制度によって変わります。例えば法人税の特例や助成金にかかわる法律では中小企業基本法の範囲に入っていない法人が中小企業として認められています。法律問題を解決するためにはそれぞれの法律で使われている言葉の意味と定義をしっかり理解しなければいけません。残業代請求についても分かりづらい用語が見られるので自己流の解釈でなくきちんと弁護士に確認してください。
世の中の会社は殆ど中小企業
自分の会社が中小企業かどうかわからない、という人は間違いなく中小企業という理解で大丈夫です。なぜなら、大企業は我が国に0.3%しかないからです。つまり日本にある会社の99.7%は中小企業です。
中小企業は殆どが小規模事業者
中小企業についての内訳をみるとほとんどが小規模事業者であることが分かります。全体の比率においては85.1%が小規模事業者となっています。
【2017年中小企業白書より】
中小企業ならではの残業代問題
中小企業は大企業に比べて、法務や総務の関係がしっかりしていないことが多いです。特に小規模事業者であれば給与計算を担当する人さえいないことが良くあります。給与は単に契約書通りに払って終わりだという勘違いが残業代問題を引き起こします。
労働基準法に理解のない経営者であれば割り増し手当の計算方法についてもよく知らないはずで、最悪の場合は勤怠記録さえできていないことがあります。
また、2017年中小企業白書によると中小企業は大企業に比べて売上高と労働生産性が悪くほぼ横ばいです。これも残業代を払いづらくしている理由かもしれませんね。
中小企業も大企業も、残業に残業代を支払うのはすべての会社の義務
中小企業が大企業より小さいとしても残業代を支払う義務は免れません。労働基準法では企業が残業代を支払う義務が書かれていて、かつ中小企業が払わなくて良いような特例が書かれていません。
もし、勤めている企業や勤めていた企業がずさんな給与計算を行っている場合は労働基準監督署に申し立てることをお勧めします。
労働基準監督署は労働法を守っていない企業に対して業務改善命令を出すことができるからです。善良な企業であれば業務改善命令を通して残業代の支払いを含めた労働環境の改善が行われます。
労働基準監督署への申し立ては残業代請求に不向き
ただし、労働基準監督署への申し立ては強制力を持たないため残業代請求の方法としては望ましくありません。残業代の未払いを知っていて支払いを拒んでいる場合はまず役に立たないでしょう。
残業代における大企業と中小企業の違い
中小企業は「月60時間を超える残業の残業代50%割増」が猶予される
残業代について大企業と中小企業で異なる点は、月60時間を超える時間外労働(法外残業)についてです。
労働基準法第37条1項をよく見ると、時間外手当の支払いは月給を時間に直し手計算したものの25%以上50%以下、月60時間を超える時間外労働はその50%以上にあたる時間外手当を払うように書かれています。
2022年4月からは中小企業も残業代割増の対象に
ただ、中小企業についてはこれまで月60時間を超える残業代の割り増し手当を月60時間以下の法外残業と同じくできました。
この措置がついに廃止され2022年4月1日からは大企業と同じように月60時間を超える法外残業の時間外手当が50%になります。
アルバイトの賃金が上がるかもしれない
また、この法律改正に基づいて有休が時期を定めて与える義務が付くことやアルバイトの待遇が改善されることも予定されています。例えば、アルバイトと正社員、あるいは自社と他社での賃金に格差が出ないような流れになります。
この制度における残業代はあくまで法外残業についてですが、法定労働時間内で働く労働者も知っておくべき情報が書かれています。
法改正そのものは2019年、パートタイマーについての待遇改善にまつわる規定は2020年4月1日から適用される予定です。
中小企業も大企業も関係なし!労働者には残業代を請求する権利がある
労働者は労働基準法の定めに応じて未払いの残業代を請求する権利を持ちます。中小企業も大企業も関係ありません。それどころか労働基準法を破っている雇用契約や就業規則も労働基準法の力で覆せます。このような強い力を持つ法律のことを強行規定と呼びます。
残業代の計算が合わない、サービス残業を強制されている、残業代が他の手当てに含まれている…このような場合はすぐに信頼できる弁護士へ相談してください。
強いて残業代を請求できない場合があるとしたら、それは農業や漁業など労働基準法第41条に定められた職業に従事している労働者です。たとえば、農家や漁師がこれに当たります。ちなみに、林業に従事する人は残業代を請求できます。
残業代請求の基本的な流れ
残業代の請求はこのような手順で行います。いきなり訴訟になるわけではありませんし。会社とのやり取りを弁護士に任せることも可能です。
残業代請求の証拠を集めて未払いの残業代を計算する
まず、残業代を請求するために働いた時間をはっきりとさせます。働いた時間が分かれば、支払われた給与と本来支払われるはずだった給与の差額を導けます。あくまで労働時間に基づく給与ですから基本給だけを比べてください。
さらに、時間外労働があった場合は時間外手当を、22時から翌5時までの労働があった場合は深夜早朝手当を、休日出勤をしたときは休日手当を上乗せします。
中小企業であれば残業代の証拠が思うように集まらないことが考えられるので、残業した事実を認められる間接的な証拠も視野に入ります。具体的な証拠集めについては弁護士に相談しましょう。
残業代の請求をする
残業代の請求をします。残業代を請求した記録を残せば、そのタイミングで残業代についての時効が止まるので内容証明郵便を活用してください。内容証明郵便は郵便局に行けば自分で出すことができます。
会社と話し合い
法律問題=訴訟となるケースはむしろ少数。お互いに時間とお金を消耗しないよう話し合いで終わらせることが一般的です。会社と話し合うときは訴訟で相手が不利になることをしっかり証明できると早く解決します。
ただ、残業代を正しく請求するためには正しい法律の理解が欠かせません。最悪なのは労働者、事業者がお互いに法律を知らないまま話し合う場合です。
訴訟をする
場合によっては訴訟になります。たとえ中小企業どころか小規模事業者が相手でも裁判にもつれ込む場合はあります。裁判になると数か月から半年はかかります。
中小企業が倒産したら…労働健康安全機構に請求を
中小企業に残業代を請求しても経営が傾いていて残業代を支払えないことがあります。
もし、このような状況にすべて当てはまるなら労働基準監督署に「事実上の倒産」を認定してもらいましょう。
事実上の倒産を認めてもらえればその事実をもとに、「労働健康安全機構」という独立行政法人が一部の賃金や残業代を立て替えてくれます。
- 事業活動停止
- 再開の見込みなし
- 賃金支払い能力なし
事実上の倒産は、中小企業にのみ認められた概念です。
事業活動停止
事業場が閉鎖され、労働者が解雇されてしまうような状態です。決して仕事が減る程度ではありません。わかりやすい例でいえば工場がすべて潰れた場合は事業活動停止と言えます。
再開の見込みなし
清算活動に入っている状態、事業主が再開する意図がない場合のことを言います。
賃金支払い能力なし
会社が借り入れをしても賃金支払いができない状態です。つまり事実上の倒産に陥っている会社は残業代どころか給与さえ支払われていません。
中小企業で残業代を払ってもらえるか不安な場合も、弁護士に相談を
中小企業で残業代を払ってもらえるか不安な場合は弁護士に相談しましょう。具体的な残業代の計算や企業が残業代を支払ってくれるための交渉をしてくれます。交渉や訴訟は弁護士が代理をしてくれるので会社の人と向き合いたくない労働者は特に弁護士を利用したいです。
会社の規模や業績によっては残業代の支払いが追い付かないことも考えられます。会社が倒産すると請求できる残業代が大きく減るので早めに行動してください。
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