会社が倒産したら残業代は請求できない?未払い賃金はどうなるの?

2020年6月19日17,413 view

お金

未払い賃金・残業代があるのに会社が経営難に陥った場合には、それらの未払金を支払ってもらえるのかが気になるところです。会社が倒産しそうになっている場合と実際に倒産してしまった場合とで、未払い賃金や残業代を請求する方法が異なります。実際に未払い賃金や残業代を請求するときには、労働問題に詳しい弁護士に相談するとよいでしょう。

弁護士に相談したら、未払い残業代が請求できた
残業代を請求することができるのはどんな人?
1日8時間以上、週40時間以上働いている人
次の項目に当てはまる人は、すぐに弁護士に相談
  • サービス残業・休日出勤が多い
  • 年俸制・歩合制だから、残業代がない
  • 管理職だから残業代が出ない
  • 前職で残業していたが、残業代が出なかった
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倒産しそうなときに未払い残業代を払ってもらう方法

倒産

近年は、会社のために毎日夜遅くまでがんばって働いていても、勤め先がいつ経営難に陥るかわからない世の中になっています。「未払いの残業代がかなりあるのに、会社が倒産しそうだ」といった場面に直面したとき、一体どうすればよいのでしょうか。

会社側と未払いの残業代について任意交渉を行なう

会社の経営が傾きそうな雰囲気を察知したときには、会社に対して任意で未払いの残業代を支払ってもらえるように交渉します。交渉の方法としては、自分で直接上司や社長に交渉する方法と、労働組合を通して交渉する方法があります。

いずれにせよ、まずは残業したことを示す証拠の収集を行ないます。出勤時刻・退勤時刻が記録されているタイムカードやIDカードの履歴があればベストですが、それらがない場合は所定労働時間外にやり取りをしたメールの送受信履歴や携帯電話の通話履歴を残しておきましょう。また、手帳に日々出勤時刻と退勤時刻をメモしておくと、裁判所での調停や審判になったときに証拠として認定してもらえます。

会社の債権を譲渡してもらう

未払いの残業代の支払を担保するために、会社側から売掛金などの債権について譲渡を受けるのもひとつの方法です。その際、会社側から売掛債権の債務者に対して債権譲渡通知書を配達証明付内容証明郵便で郵送してもらうことが必要ですが、会社側から委任を受けて従業員が会社の代理人として債務者に通知をすればさらに万全を期すことができます。

資産の差押えなどの法的措置

会社側が交渉にも債権譲渡にも応じなければ、最終的には何らかの法的措置をとることになります。法的手段としては、会社資産の仮差押えや仮処分、先取特権に基づく差押え・配当要求、労働審判などがあります。賃金債権には、会社側の総財産から優先的に弁済を受けることができる一般先取特権が与えられているため、他の債権者よりも先に会社の財産の中から未払い分の残業代を受け取れることになっています。

この一般先取特権は、裁判所の確定判決などを受けることなく行使できるものなので、従業員は長期間待つことなく会社の財産の差押えや配当要求を多なうことが可能です。

倒産したときに未払い残業代を払ってもらう方法

残業代

会社が倒産してしまったら、「未払いになっている賃金や残業代を払ってもらえないのではないか」と心配になるかもしれません。しかし、会社が倒産してしまっても、一定の条件を満たせば未払いの賃金や残業代が受け取れる可能性が残されています。

会社が倒産しても未払いの残業代をもらえる方法がある

会社が倒産すれば、会社に直接請求することは難しくなります。その代わりに、公的機関に請求すれば、一定の制限はあるものの会社に代わって未払い賃金や残業代を支払ってもらえる制度があります。

未払賃金立替払制度

会社が倒産したときに、会社から直接未払いの賃金や残業代を受け取ることができなくても、国がそれらのお金を立替払いする形で国から支払ってもらえる場合があります。これが、独立行政法人労働者健康安全機構の行なっている「未払賃金立替払制度」と言われる制度です。

独立行政法人労働者健康安全機構が実施

独立行政法人労働者健康安全機構とは、過労死やメンタルヘルスといった労働者の心身に関わる疾病や労働災害について調査研究を行なったり、それらについて悩む労働者の職場復帰支援などを行なっている公的機関のことです。倒産した会社を賃金未払いのまま退職した従業員のために、この機関が未払いとなっている賃金の立替払いに関する事業も行なっています。

未払賃金立替払請求の手続き方法

では労働者健康安全機構に未払賃金立替払請求を行なうためには、どのような手続きを踏めばよいのでしょうか。請求手続きはかなり煩雑なため、概略について見ていきましょう。実際に手続きをする際には、労働問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

法律上の倒産の場合

破産法に基づく破産手続開始決定や民事再生法に基づく再生手続開始決定を受けるなど、法的手続きをとる倒産を「法律上の倒産」と言います。この場合は裁判所や管財人、清算人に対して立替払請求をする際に必要となる事項に関して証明(承認)してもらえるよう申請しましょう。証明書が交付されたら、請求に必要な書類を作成して労働者健康安全機構に提出します。

事実上の倒産の場合

中小企業で事業活動が停止して再開する見込みがなく、なおかつ賃金支払能力がなくなったことについて労働基準監督署長の認定がある場合の倒産を「事実上の倒産」と言います。まず、従業員が労働基準監督署に対して会社が事実上の倒産状態になったことの認定を申請しましょう。認定通知書が交付されたら、次に労働基準監督署に立替払い請求の必要事項に関する確認を申請します。確認通知書が交付されたら、請求に必要な書類を作成して労働健康安全機構に提出します。

立替払金の支払

労働者健康安全機構で書類審査を受けたのち、支払いが決定したら、「未払賃金立替払決定・支払通知書」が送付され、請求者が指定した普通預金口座にお金が振り込まれて終了となります。

未払賃金の立替払事業に設けられている5つの制限

倒産

労働健康安全機構が行う未払賃金の立替払事業には5つの制限があり、それらをクリアしなければ支払い対象とはなりません。請求するタイミングなども支払い対象となるか否かを左右する重要なポイントになります。

未払賃金の立替払事業に設けられている制限とは

労働健康安全機構の未払賃金の立替払事業を利用するためには次の5つをクリアする必要があります。それぞれどのような制限があるのかについて詳しく見ていきましょう。

制限①:勤務先の会社が「倒産」したこと
制限②:会社と従業員が一定の条件を満たすこと
制限③:請求できる期間は2年以内
制限④:退職日の6ヶ月前から請求日までに支払期日が到来している賃金
制限⑤:立替払いされる金額には限度額がある

制限①:勤務先の会社が「倒産」したこと

会社が破産手続開始決定を受けるなどの「法律上の倒産」をした場合や、事業活動が停止して再開の見込みがなく、賃金支払能力がなくなった「事実上の倒産」をした場合に、立替払事業の対象となります。「事実上の倒産」と認定されるには、会社が閉鎖され従業員全員が解雇となる、清算活動に入る、賃金支払いに充てらてる資産がないなどの認定を受けることが必要です。

制限②:会社と従業員が一定の条件を満たすこと

会社は、以下2つの条件をクリアすることが必要とされます。

  1. 労災保険適用事業として1年以上活動を行なっていた。
  2. 法律上または事実上の「倒産」をした。

一方、従業員は以下3つの条件を満たすことが必要です。

  1. 破産手続申立て日または事実上の倒産の認定日の6ヶ月前の日から2年の間に退職した
  2. 未払賃金について、破産管財人などの証明あるいは労働基準監督署の確認を受けた
  3. 総額2万円以上の未払い賃金がある

制限③:請求できる期間は2年以内

「未払賃金の立替払請求書」を労働者健康安全機構に提出できる期間は以下の場合に限られます。

  • 法律上の倒産の場合:破産手続開始決定日または命令日の翌日から起算して2年以内
  • 事実上の倒産の場合:労働基準監督署長が倒産の認定をした日の翌日から起算して2年以内

制限④:退職日の6ヵ月前から請求日までに支払期日が到来している賃金

立替払事業を利用して支払ってもらえる賃金は、退職日の6ヵ月前の日から立替払請求の日の前日までの間に支払日が到来している「定期賃金」及び「退職手当」のみに限られます。定期賃金には基本給だけでなく、家族手当、通勤手当、残業代も含みます。ただし、賞与や年末調整時の還付金、お祝い金などは立替払いの対象とならないことに注意しましょう。

制限⑤:立替払いされる金額には限度額がある

立替払いをしてもらえる限度額は、原則として未払い賃金総額の80%となっています。ただし、この未払い賃金総額にも年齢に応じて限度額が設けられています。この限度額を超える場合、立替払いを受けられる金額は「限度額の80%」となります。

退職日における年齢 限度額 立替払上限額(限度額の80%)
45歳以上 370万円 296万円
30歳以上45歳未満 220万円 176万円
30歳未満 110万円 88万円

未払い賃金・残業代があるときは倒産する前に弁護士に相談を

社内に不穏な雰囲気が漂っているなど、倒産しそうな状況になったときには、できるだけ早く労働問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。倒産する前であれば、会社に直接請求できる手立てが残されています。もし、会社が倒産してしまったときには、労働健康安全機構の未払い賃金立替払事業を利用することも視野に入れたほうが良いと考えられます。事業を利用する際には、弁護士に手続きを一任するとスムーズでしょう。

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