未払い残業代には「遅延損害金」や「遅延利息」が付く!しっかり請求を
未払いの賃金や残業代を会社側に請求するときには、併せて「遅延損害金」や「遅延利息」も請求することができます。遅延損害金は年率6%、遅延利息は年率14.6%の利率で計算したものを請求することが可能ですが、未払いの賃金や残業代とともにこれらのお金を請求したい場合は労働問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
- 残業代を請求することができるのはどんな人?
- 1日8時間以上、週40時間以上働いている人
- 次の項目に当てはまる人は、すぐに弁護士に相談
- サービス残業・休日出勤が多い
- 年俸制・歩合制だから、残業代がない
- 管理職だから残業代が出ない
- 前職で残業していたが、残業代が出なかった
残業代の未払いは債務不履行になる
労働者は、会社などで働いていれば働いた時間分だけ賃金がもらえるものです。もし、会社側が労働者の働いた分だけの賃金を払わないとなると、会社が「賃金を払う」という債務を履行していないことになり、「債務不履行」の状態になるのです。
債務不履行とは
債務不履行とは、契約上生じた自らの債務を履行しないことを指します。債務不履行には以下の3つのパターンがあるので、見ていきましょう。
①履行遅滞
履行遅滞とは、債務の履行が可能であるにもかかわらず、履行をしないまま履行すべき期日を過ぎてしまったことを指します。
②履行不能
履行不能とは、当事者双方が契約を交わした後で債務を履行することができなくなってしまったことを言います。
③不完全履行
不完全履行とは、一部の債務について履行がなされたが、完全に債務が履行された状態ではないことを指します。
会社は労働者が働いた時間分だけ賃金を支払う「債務」があり、当然、残業をすれば残業した時間分の残業代をも支払う「債務」を持っていることになります。しかし、支払うべき残業代を労働者に支払わなければ、「残業代の支払い」という債務を履行できるのにも関わらず履行していない「履行遅滞」をしていることになるのです。
債務不履行により損害賠償を請求できる
支払われるはずの賃金や残業代が支払われなければ、労働者にとって予想外に収入が減少することになり、生活にたちまち支障が出てしまいます。その労働者が、生活に必要なものを支払うことが思うようにできなくなる可能性もゼロではありません。
そのように、債権者が債務不履行によって損害を受けたときには、一般的に民法上の規定により損害賠償請求ができることになっています。特に、金銭債務の不履行によって生じた損害に対して支払われる賠償金は「遅延損害金」と呼ばれます。
そのため、会社側が労働者に対して働いた分の賃金や残業代を支払わなければ、「金銭債務の不履行」があったとして、労働者側は会社側に未払いの賃金や残業代とともに遅延損害金も請求できるわけなのです。賃金や残業代の未払い問題のほか、パワハラなどに対する慰謝料請求のときにも、慰謝料に加えて遅延損害金をも請求することが一般的となっています。
未払い残業代に加えて遅延損害金や遅延利息も請求できる
賃金や残業代の未払い問題に関しては、遅延損害金のほかに「遅延利息」も会社側に請求することができます。遅延利息は遅延損害金とはどう違っているのでしょうか。両者の違いについて具体的に見ていきましょう。
遅延損害金とは在職中に請求できるもの
遅延損害金と遅延利息はどちらも賃金や残業代の未払いがあったときに請求できる点で共通していますが、根拠となる法律や利率、さらに請求できるタイミングが違っています。
遅延損害金は請求日もしくは退職日までに請求できるもの
遅延損害金は、債務不履行があれば当然に発生するものと考えられています。遅延損害金は、基本的に賃金の支払期日から未払い賃金・残業代の請求日もしくは退職日までに請求できるものとなります。
遅延損害金の利率は相手が営利法人であるかどうかで異なる
雇用主が非営利法人など営利を目的としない組織である場合は民法が根拠法となり、遅延損害金の年利は5%になります。一方、雇用主が会社である場合は商法が根拠法となり、年利は商事法定利率の6%となります。
遅延利息とは会社を退職後に請求できるもの
遅延利息とは、賃金や残業代が未払いとなっている場合に、会社に対して退職後に請求できるものです。「賃金の支払の確保等に関する法律」が根拠法となっており、年利は14.6%と非常に高くなっています。
遅延利息の考え方
遅延利息とは、退職日の翌日から実際に支払われる日(請求日)までの日数に応じて適用となる者です。しかし、退職後に支払期日がやってくるものに関しては、その期日が到来した翌日からこちらの利率が適用されることとなります。
天災事変などやむを得ない場合には適用除外
ただし、天災事変や厚生労働省が定める「やむを得ない事由」で賃金や残業代が未払いとなっている場合は、その理由が存在する期間に限り、14.6%の利率は適用されなくなるため注意が必要です。
厚生労働省の定める「やむを得ない事由」
厚生労働省で定められている「やむを得ない事由」とは以下の通りです。
- 地震や津波などの天災
- 会社が破産手続き開始決定や特別清算開始命令・再生手続き開始決定・更生手続き開始決定を受けたこと
- 合理的な理由によって裁判所または労働委員会で争っていること
遅延損害金や遅延利息の請求方法
未払いの賃金や残業代があるのなら、会社側に支払いを求めるときに遅延損害金や遅延利息も併せて請求したほうがよいものの、それらのお金は支払われないことも多いのが現状です。それはなぜなのでしょうか。
未払い賃金と一緒に請求する
遅延損害金や遅延利息は、未払いとなっている賃金や残業代と一緒に請求するのが一般的です。遅延損害金や遅延利息の請求方法とは、大きく分けて、任意で会社に請求して交渉を進める場合と法的手続きに委ねる場合の2つに分かれます。
任意交渉
まずは会社側に未払いの賃金や残業代がある旨について内容証明郵便を送付するなど、任意で交渉することを試みます。できれば、この段階から労働問題に詳しい弁護士に相談して手続きを一任すれば、スムーズでしょう。交渉がうまくいって双方の合意が得られれば、後日「言った・言わない」の問題を生じさせないようにするためにも、合意書や和解書を作成します。
その他の裁判外での解決方法
任意交渉以外に問題を解決する方法として、労働局による紛争調整委員会や労働基準監督署を利用する方法、第三者機関に間に入ってもらって話し合いを行うADR(裁判外紛争処理手続)と呼ばれる方法もあります。しかし、いずれの場合も強制力はないため、当事者双方の折り合いがつかなければ法的手続きを踏むことになります。
労働調停・労働審判
裁判所を利用する手続きとしては、まず労働調停や労働審判を利用する方法があります。労働調停も労働審判も話し合いで柔軟な解決を図る点では共通していますが、労働調停の場合は協議が整わなければ不成立に終わる一方、労働審判の場合は協議が整わなくても何らかの決定が下されるため、問題が解決されずにそのまま終了することがありません。ただし、労働審判での決定に異議があれば、そのまま訴訟へ移行します。
訴訟の提起
事実認定が複雑な場合や、証拠が不十分で立証に時間がかかるなどの場合は訴訟を提起して争ったほうが良いと言えます。訴訟では、当事者双方の立証や主張をもとに、裁判官が判決を下します。確定判決は強制力を持つので、会社側が未払いの賃金や残業代を支払わない場合は、相手方の財産に対していつでも強制執行をすることが可能です。
ただし遅延損害金や遅延利息を実際にもらえることは少ない
遅延損害金や遅延利息は請求したほうが良いのですが、実際には請求してもこれらの損害金・利息は受け取れないケースのほうが多いと言えます。それはなぜなのでしょうか。
理由①労働事件は裁判までいかないことが多い
まず、裁判所での手続きを踏むとしても、訴訟までいかないケースが多いことがあげられます。ある調査によれば、労働審判の申立てがあった場合、約70%の割合で調停が成立し、不成立となった約30%の案件でも、その後審判で約40%が解決しています。そのため、労働調停・労働審判で約80%の案件が解決しており、訴訟まで発展するケースは少ないことがわかります。
理由②遅延損害金や遅延利息は確定判決が出たときのみ
未払いの賃金や残業代と併せて遅延損害金や遅延利息を請求しても、任意交渉や労働調停・労働審判の場合には話し合いの中でこれらはカットされることが多くなっています。訴訟にまで発展しても、和解になった場合には同様にカットされるのが一般的です。
賃金や残業代の未払い問題では確定判決に至るケースは少ないため、遅延損害金や遅延利息をもらえる可能性も少ないのが現状です。しかし、これらのお金をもらえる可能性はゼロではありません。未払い賃金や残業代を早期に支払ってもらうためにも、初期の段階でこれらのお金も請求しておいたほうがよいでしょう。
遅延損害金や遅延利息を請求したい場合は弁護士に相談を
未払いの賃金や残業代を請求するときに、遅延損害金や遅延利息も併せて請求したい場合は、労働問題に詳しい弁護士に協力を仰ぐことをおすすめします。弁護士であれば、解決の手段に関わらず、少しでも依頼者が有利になるように相手方との話し合いを進めてくれるでしょう。泣き寝入りせず、まずは弁護士に相談してみましょう。
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