残業代請求で付加金を請求しても支払われる可能性はほぼない!?
未払い残業代が発生した時は、その未払金や遅延損害金・遅延利息のほかに付加金を会社に請求することができます。付加金を獲得するためには確定判決を得ることが条件ですが、確定判決に至るケース自体が少ないため、付加金が支払われるケースはあまりないのが現状です。付加金を請求したい場合はまず弁護士に相談することをおすすめします。
- 残業代を請求することができるのはどんな人?
- 1日8時間以上、週40時間以上働いている人
- 次の項目に当てはまる人は、すぐに弁護士に相談
- サービス残業・休日出勤が多い
- 年俸制・歩合制だから、残業代がない
- 管理職だから残業代が出ない
- 前職で残業していたが、残業代が出なかった
未払い残業代を請求するときは付加金の請求も忘れずに
労働者が所定労働時間では終わらない仕事を上司から命じられ、やむなく残業をすることになっても、会社側がさまざまな理由をつけて残業代を100%支払わないことがあります。その場合は、残業時間を明らかにする証拠を提示した上で、未払いの残業代を会社に請求することができます。そのときに、未払い残業代とともに請求できるのが「付加金」です。
付加金とは残業代未払いに対するペナルティ
付加金とは、賃金や残業代が未払いになったときに、未払い分の賃金・残業代やそれに対する遅延損害金・遅延利息とともに請求することができるものです。付加金は、会社が賃金や残業代を支払わなかったことに対する制裁金としての意味合いを持ちます。
付加金として請求できる金額
付加金として請求できるのは、未払い残業代の額と同等の金額であると法律で定められています。つまり、会社側に未払い残業代の2倍の金額を請求できることになります。未払い残業代の額が多い場合、未払い残業代の金額と遅延損害金・遅延利息、付加金を合計すると1000万円を超えることも決して珍しくありません。
付加金が命じられる場合
付加金の支払いが命じられるのは、会社から以下のものが支払われていない場合です。会社側の対応が悪質な場合に、裁判所から支払い命令が下ることが多いと言えます。
- 解雇予告手当
- 使用者の責に帰すべき休業の場合の休業手当
- 時間外労働に対する割増賃金
- 法定休日労働に対する割増賃金
- 深夜労働に対する割増賃金
- 有給休暇中の賃金
未払い残業代の付加金は支払われないことも多い
ただし、未払い残業代とともに付加金を請求しても、実際に会社側から付加金が支払われるケースはあまりありません。その理由とは一体何なのかについて、次に説明します。
付加金が支払われないことが多い理由
会社側から付加金を支払ってもらうには、労働審判でなく裁判所での訴訟で争わなければなりません。その上、確定判決も得なければならず、従業員にとって付加金を獲得するのは非常にハードルが高いことと言えます。
労働事件は労働調停や労働審判で解決することが多い
従業員の解雇やパワハラ、残業代未払いなどに代表される労働事件は、早期解決が望ましいことから、訴訟ではなく労働調停や労働審判を利用して解決を図るケースが増えています。
労働審判の申立件数は毎年3,000件以上
近年、労働者の権利意識が高まっていることから、会社に不条理な扱いを受けた労働者が会社に対して労働審判を申立てるケースが増加しています。その申立件数は、平成21年度以降、毎年3,000件を超えるほどにもなっています。
労働審判を申立てると、まず調停で当事者双方による協議が行われます。調停の段階で約70%が解決します。残りの30%は労働審判に移行しますが、そのうち約40%が審判の決定で解決しています。そのため、労働調停・審判でおよそ80%の案件が終了しており、残りの約20%しか訴訟まで発展していないのが現状です。
付加金を得るためには訴訟での確定判決が必要
付加金を獲得するためには、労働審判の決定ではなく、訴訟を起こして確定判決を得る必要があります。しかし、和解になるケースも多いため、確定判決に至ることは決して多くはありません。
訴訟を起こしても判決まで至るのはおよそ30%
司法統計を調べると、金銭にまつわる労働事件の訴訟件数と判決が出た件数を調べると、統計が発表されている平成27年から過去5年間では以下のようになっています。訴訟件数に対し、判決に至ったケースは約30%程度であることがわかります。
年度 | 訴訟件数 | 判決 | 割合 |
---|---|---|---|
平成23年度 | 1975 | 609 | 31% |
平成24年度 | 2129 | 626 | 29% |
平成25年度 | 2053 | 668 | 33% |
平成26年度 | 2132 | 655 | 31% |
平成27年度 | 2298 | 664 | 29% |
裁判所に付加金の支払いを命じる義務はない
また、判決に至ったとしても、裁判所には会社に対して付加金の支払を命じる義務はありません。法律上では、付加金の支払を「命じることができる」との表現にとどまっています。そのため、労働審判では命じられることはまずありません。
第2審終了までに未払金が清算されれば付加金の請求はできなくなる
さらに、第1審で確定判決がでても、当事者のどちらかが控訴した場合、第2審の口頭弁論終結までに会社が未払いの賃金・残業代を清算すれば、付加金の支払いを免れると解釈されています。
平成26年3月6日の「株式会社ホッタ晴信堂薬局事件」の判決でも、最高裁は「原審の口頭弁論が終わる前の時点で会社が」未払い残業代を完了して、支払い義務違反の状態を解消したのだから、裁判所はその未払い残業代にかかる付加金の支払いを命じることはできない」と述べています。(※2)
それでも未払い残業代にかかる付加金は請求すべき
確定判決を得られることがあまりなく、仮に確定判決を得ても実際に付加金が支払われるケースは少ない現状を診てきました。しかし、それでもなお付加金は未払い残業代とともに最初に請求しておくべきだと言われています。それはなぜでしょうか。
付加金を請求することで得られる効果とは
支払われる見込みがほとんどないのに付加金を請求したほうがよいとされる理由とは、付加金を請求することで得られる効果があるからです。その効果について説明します。
未払い残業代の早期支払いを促せる
付加金を請求することは、未払い残業代の2倍の金額を請求することになるので、会社側にプレッシャーを与えることが可能です。会社としては余計なお金は払いたくないので、会社に未払い残業代や遅延損害金・遅延利息の早期支払いを促せることにつながります。
一部が支払われる可能性も
事件を担当する裁判官の考え方次第ではありますが、裁判官の裁量で、請求した付加金全額の支払いは認められなくとも、請求金額の一部のみ支払いを命じられることもあります。付加金を得られない可能性は必ずしもゼロとは言えないのです。
付加金を請求できるのは2年以内
未払い残業代や遅延損害金・遅延利息と同様、付加金が請求できる期間は、本来未払い残業代が支払われるはずだった日から2年間となります。しかし、その「2年間」の意味合いは未払い残業代や遅延損害金・遅延利息と付加金とで異なります。
未払い残業代や遅延損害金・遅延利息の場合
未払い残業代や遅延損害金・遅延利息の場合、請求できる「2年間」とは「消滅時効」のことを指します。消滅時効であれば、何らかの形で相手方に請求をすれば、時効を中断させることが可能です。
付加金の場合
付加金の場合の「2年」とは、消滅時効ではなく「除斥期間」のことを指すと一般的に解釈されています。つまり、時効のように中断をすることができなくなっているのです。そのため、付加金を請求できる権利は、請求の有無にかかわらず未払い残業代が発生してから2年で消滅してしまうことに留意しておく必要があると言えるでしょう。
労働審判申立てのときに請求すればOK
訴訟で争う前に労働審判を申し立てていた場合は、示談交渉や労働審判の手続き中に2年が経過してしまうことも考えられます。しかし、労働審判を申立てる際に付加金を請求しておけば、その請求内容がそのまま訴訟でも請求されたことになるので、付加金を請求する権利は無効にならずに済むのです。
付加金を請求したい場合はまず弁護士に相談を
未払い残業代に対する遅延損害金・遅延利息だけでなく、付加金まで請求したい場合は、労働問題に詳しい弁護士に協力を求めることが必要不可欠です。労働問題に詳しい弁護士であれば、付加金が獲得できるケースについて熟知しているため、少しでも付加金が得られるよう尽力してくれます。まずは弁護士に相談してみましょう。
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