特例措置対象事業場とは?残業代が発生するのはどんなとき?

2020年6月19日107,497 view

特例措置対象事業場

特例措置対象事業場とは、ある一定の条件かで法定労働時間を44時間にすることができる制度です。一般的には1週間あたりの労働時間が40時間を超えると割増賃金が発生しますが、特例措置対象事業場の場合は、44時間を超えたところから割増賃金が発生します。しかし、「1日8時間以上働くと割増賃金が発生する」点は両者とも共通しています。

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特例措置対象事業場とは

特例措置対象事業場

一般的に、法定労働時間は1週間40時間以内、1日8時間以内が原則です。しかし、事業場がある一定の条件を満たした場合、1週間あたりの法定労働時間を40時間ではなく44時間とすることが可能となります。これが特例措置対象事業場と呼ばれる制度です。

特例措置対象事業場の適用条件

法定労働時間を特例的に延長できる制度のためか、特例措置対象事業場の制度を適用できる事業場は、規模や業種により制限されています。どのような条件があるのかについて見ていきましょう。

①常時使用する労働者が10人未満の事業場

この字面だけを読めば、「うちの会社は従業員がたくさんいるからこの条件には当てはまらない」と思う人もいるでしょう。しかし、10人未満の制限がかかるのは、あくまでも事業場単位であり、会社の単位ではありません。そのため、会社全体で従業員が100人いたとしても、一つの事業所や支店の従業員数が10人未満であればこの条件を満たすこととなります。

「常時使用する」の意味

「常時使用する」の意味については、労働基準法では明確に定義されていません。そのため、正社員はもちろん、週3日・月1日のシフトで勤務しているアルバイト・パートでも、定期的に勤務をしていれば、「常時使用する」従業員に含まれると一般的には考えられています。

②適用業種

特例措置対象事業場となりうるのは、以下の業種に限られます。

  • 商業(卸売業、小売業、理美容業、倉庫業、駐車場業、不動産管理業、出版業(印刷部門を除く)、その他の商業)。
  • 映画・演劇業(映画の映写(映画の製作の事業を除く)、演劇、その他興業の事業)。
  • 保健衛生業(病院、診療所、保育園、老人ホームなどの社会福祉施設、浴場業(個室付き浴場業を除く)、その他の保健衛生業)。
  • 接客娯楽業(旅館業、飲食店、ゴルフ場、娯楽場、公園・遊園地、その他の接客娯楽業)。

1つの会社で複数の事業を営んでいる場合

例えば、不動産会社であれば、不動産管理業も不動産仲介業も営んでいることが多いと思われます。その場合は、過去1年間を振り返ったときに、その会社が不動産管理業・不動産仲介業のどちらが主たる業務だったのかを、実態に即して判断します。具体的には、売上の比率、従事する従業員の数によって個別具体的に判断することになっています。
(H21.5.29基発05290015)

特例措置対象事業場での所定労働時間の設定方法

所定労働時間

特例措置対象事業場の条件を満たす事業場では、法定労働時間が1週間あたり4時間長くなります。所定労働時間の設定の仕方としては、単純に1週間あたりの労働時間を44時間以内に収める方法と、変形労働時間制を用いて、その月の1週間あたりの労働時間の平均が44時間以内になるようにする方法があります。

「1週間あたり44時間以内」のみを採用する場合

特例措置対象事業場の法定労働時間「1週間あたり44時間以内」のみを採用する場合、所定労働時間の具体例としては、以下の2つのパターンがあげられます。もちろん、この2つ以外にも、労働時間が44時間を超えない範囲でさまざまなパターンを設定することが可能です。

例1:土曜日を4時間にする

まず、週6日勤務として、月曜日から金曜日までの所定労働時間を8時間、土曜日を4時間にする方法があります。

月曜日 火曜日 水曜日 木曜日 金曜日 土曜日 日曜日
8時間 8時間 8時間 8時間 8時間 4時間 休み

②1日当たりの所定労働時間を7時間20分にする

次に、①と同様に週6日勤務として、1日の所定労働時間を月曜日から土曜日まで毎日7時間20分とする方法もあります。こちらの場合も、労働時間を1週間あたり44時間に収めることが可能です。

月曜日 火曜日 水曜日 木曜日 金曜日 土曜日 日曜日
7時間20分 7時間20分 7時間20分 7時間20分 7時間20分 7時間20分 休み

変形労働時間制を併用する場合

また、労働時間を1週間あたり44時間にするほかに、変形労働時間制を併用することもできます。しかし、この場合は「1か月単位の変形労働時間制」と「フレックスタイム制」しか適用できないため、特例措置対象事業場で変形労働時間制を取り入れる際には注意が必要です。

1か月単位の変形労働時間制

1か月単位の変形労働時間制を導入する場合、1か月の中で繁忙期と閑散期がある場合には、平均して1週間当たりの労働時間を44時間以内にすれば問題ないとされています。

例:1か月単位の変形労働時間制
1週目 50時間
2週目 35時間
3週目 41時間
4週目 50時間

とすれば、1週間あたりの労働時間の平均が44時間となり、柔軟にシフトを組むことができます。

フレックスタイム制

また、特例措置対象事業場では、フレックスタイム制を併用することもできます。フレックスタイム制とは、デザイン業務や研究職、エンジニアなどの技術職など、労働者が労働時間を柔軟に設定できるようにしたほうが業務効率が良くなる場合に導入する制度です。フレックスタイム制を併用することで、従業員が業務の進捗状況に合わせて8時間を超えて働くことができるようになります。

特例措置対象事業場で働く場合の注意点

特例措置対象事業場

特例措置対象事業場となっているオフィスやお店で働く場合、把握しておかなければならないのが、特例措置対象事業場では残業代がつくケースとつかないケースがあることです。労働時間が週40時間を超えても、割増賃金がつかないことがあるので注意しましょう。

1週40時間を超えても残業代がつかない場合がある

特例措置対象事業場は、条件を満たす事業場に限り、特例的に法定労働時間が44時間に延長できる制度です。通常であれば1週間に40時間を超えて労働した場合は残業代が請求できますが、特例措置対象事業場の場合は40時間を超えても44時間以内であれば残業代がつかず、割増賃金を受け取ることができません。

残業代が請求できずがっかりしないためにも、自分の働いている職場が特例措置対象事業場であるかそうでないかをきっちり把握しておきましょう。

残業代がもらえるケースもある

ただし、特例措置対象事業場でも労働時間が1週間で44時間を超えた場合あるいは1日8時間を超えた場合には、残業代はもちろん発生します。具体例と併せて見ていきましょう。

労働時間が1週44時間を超えた場合

特例措置対象事業場でも労働時間が1週間当たり44時間を超えた場合は残業代がもらえます。例えば、月曜日から土曜日まで毎日8時間働いた場合、1週間当たりの労働時間は

  • 8 × 6 = 48(時間)

となり、44時間を超えた4時間分の残業代を請求できることとなります。

労働時間が1日8時間を超えた場合

労働時間が1週間当たり44時間以内におさまっていても、1日当たりの労働時間が8時間を超えた場合は時間外労働となり残業代の支払い対象となります。例えば、以下のような場合は、1週間の労働時間は44時間以内に収まっていますが、水曜日と金曜日は1日の労働時間が8時間を超えているため、この2時間分の残業代を請求することが可能です。

月曜日 火曜日 水曜日 木曜日 金曜日 土曜日 日曜日
78時間 8時間 9時間 8時間 9時間 休み 休み

1週間44時間の特例が適用できないケース

「1年単位の変形労働時間制」「1週間単位の変形労働時間制」については、1週間の労働時間を44時間とすることはできません。この2つの変形労働時間制を採用する場合は、1週間当たりの労働時間は従来の40時間としなければなりません。

また、満18歳未満の年少者については、変形労働時間制の適用除外となります。ただし、満15歳以上18歳未満であれば、1週間48時間、1日8時間を超えない範囲で1か月単位の変形労働時間制・1年単位の変形労働時間制は適用することが可能です。

特例措置対象事業場で働く場合の残業代については弁護士に確認しよう

特例措置対象事業場で働いている場合に残業代はどうなるのか、そもそも自分の勤務先が特例措置対象事業場の適用事業所であるかどうかが分からない場合は、労働問題に詳しい弁護士に聞いて確認してみましょう。弁護士であれば、会社の業種や業態などから、勤務先特例措置対象事業場であるかどうかを判断してくれるでしょう。どういう条件で残業代が発生するのかについても、念のため併せて確認しておくと安心です。

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