有給休暇について押さえておくべきこと|法的観点から解説しました

2020年6月19日197,903 view

有給休暇

労働者には有給休暇の取得が認められていることは、多くの人が知るところでしょう。しかし法律上の考え方や取得しなかった分の取り扱い等はどのようになっているのか等、詳細までを把握している人は少ないのではないでしょうか。そこで今回は、意外と知らない有給休暇について押さえておくべきことを法的観点から解説します。

そもそも有給休暇とは何?

有給休暇

過重労働による様々な問題が連日各メディアでクローズアップされていることからも分かるように、労働者の権利は軽視されがちなのが現代日本です。そうした中で労働者を守る法律について理解を深めることは非常に意義があることと言えます。

有給休暇とは

有給休暇とは、労働者の休暇日のうち、使用者から賃金が支払われる有給の休暇日のことです。正式には「年次有給休暇」と言い、一年ごとに毎年一定の日数が与えられます。年休、有休、年次休暇、とも呼ばれます。

有給休暇は「法定休暇」

「休日」とは元々労働義務がない日のことです。「休暇」とは本来労働義務がある日に、その義務を免除されることで働かなくてもよくなる日を言います。休暇にも法の定めによって必ず労働者に与えなければならない“法定休暇”と就業規則や労働協約によって与えられる“法定外休暇”がありますが、有給休暇は前者の法定休暇です。

有給休暇の請求は原則として拒否できない

使用者は、労働者から年次有給休暇の請求があった場合にはそれを拒否することはできません。しかし場合によっては、請求された時期に有給休暇を与えることが事業に影響を与えることがあります。そのため会社の事業の正常な運営が妨げられる場合に限り、年次有給休暇を他の時季に変更できることが定められています。これを「時季変更権」と呼びます。

有給休暇を取得する要件

有給休暇は誰でも取得できるわけではありませんが、労働基準法に規定された要件を満たした労働者には有給休暇を取得する権利「年休権」が発生します。その要件や決まり事について見ていきましょう。

有給休暇を取得するための要件

労働基準法は第39条において、使用者は労働者を雇い入れた日から数えて6か月の間、継続して勤務」し「全労働日の8割以上出勤した」者に対して継続してまたは分割して10日の有給休暇を与えなければならないと定めています。

育児介護休暇や産前産後休暇の場合

また全労働者日の8割以上という基準には、業務上の傷病による療養のための休業期間や育児介護休業法による育児・介護のための休業期間、産前産後休暇も含まれ、これらの期間は出勤したものと見なされます(労働基準法第39条7項)。加えてこの8割以上は“所定休日を除いた”全労働日中の出勤日数で判断されるため、所定休日に労働させた場合は、その日は全労働日にはカウントされないことになります。

有給休暇取得の気になるポイント

有給休暇取

近年、有給休暇の取得を認めない場合や取得を妨害してくる会社が増加傾向にありますが有給休暇の取得は、一定の要件を満たした労働者に等しく認められる権利です。ここでは有給休暇の付与日数やその他取り決めについてを掘り下げて解説します。

有給休暇の付与について

有給休暇を取得する権利は、労働者の現実の肉体的・精神的疲労の回復のために、法の定めによって当然に発生するものです。付与日数等、有給休暇の具体的な取り決めについて見ていきましょう。

付与日数は

まず気になる有給休暇の付与日数について解説します。有給休暇を与える日数は、最大20日を限度として労働者が継続勤務した期間に応じて加算されていきます。通常の労働者の場合、付与日数は継続勤務年数によって異なります。

週所定労働時間が30時間以上、あるいは週所定労働日数が5日以上の従業員の場合
勤続年数 6カ月 1年6カ月 2年6カ月 3年6カ月 4年6カ月 5年6カ月 6年6カ月以上
付与日数 10日 11日 12日 14日 16日 18日 20日

※パート、アルバイトも含みます。

なお、労使協定を結んで20日以上与える分には問題ありません。

イレギュラーな有給休暇も

有給休暇の取得は、労働者の心身の疲労の回復と共に、業務の効率化のためにも有用なものと言えます。しかし実際の業務、例えば研究職等においては連続した休暇を取ることが不都合な場合があります。そこで“計画的付与”と言って年次有給休暇の付与日数のうち5日を超える部分は、労使協定を結べば、計画的に休暇取得日を割り振ることができる決まりがあるのです(労働基準法第39条5項)また、有給休暇は1日単位で与えることが原則ですが、労使協定を結べば、1時間単位で与えることができます。これを“時間単位年休”と呼びます。

アルバイトの有給休暇

労働基準法第39条は「業種、業態にかかわらず、また、正社員、パートタイム労働者などの区分なく、一定の要件を満たした全ての労働者に対して、年次有給休暇を与えなければならない」と定めています。従って非正規労働者でも有給の取得は可能です。

アルバイトの有給取得可能要件

労働基準法に定めのある通り、アルバイトでも次の要件を満たせば、有給休暇の取得は可能です。

  1. 雇い入れ日から数えて6か月の間、継続して勤務したこと
  2. 全労働日の8割以上出勤したこと

しかしながら、例えば一週間につき1日出勤の者と5日出勤の者に対する付与日数が同じでは合理性を欠きます。そこで労働基準法では労働時間が短く労働日数も少ない労働者については労働日数に応じて年休を付与する「比例付与方式」を採用しています。

比例付与方式

  1. 「週の所定労働日数が4日又は1年間の所定労働日数が169日から216日までの労働者」の場合、雇い入れから最初の6カ月は7日の付与となり、そこから継続勤務期間が6年6カ月になるまでは毎年1日ずつ給付日数が増えていき、それ以上になると15日が与えられます。
  2. 「週の所定労働日数が3日又は1年間の所定労働日数が121日から168日までの労働者」の場合、最初の6カ月は5日、1年6カ月から2年6カ月までは6日、そこから継続勤務期間が6年6カ月になるまで、毎年1日ずつ増え、それ以上になると11日が付与されます。
  3. 「週の所定労働日数が2日又は1年間の所定労働日数が73日から120日までの労働者」では最初の6カ月は3日、1年6カ月から2年6カ月までは4日、3年6カ月では5日、4年6カ月から5年6カ月までは6日、6年6カ月以上で7日の給付となります。
  4. 「週の所定労働日数が1日又は1年間の所定労働日数が48日から72日までの労働者」ケースでは最初の6カ月は1日、1年6カ月から3年6カ月までは2日、4年6カ月以上では3日が支給されます。
    ただし、一週の所定労働時間が30時間以上、もしくは週の所定労働日数が5日以上の労働者に対しては、正社員と同じ付与となります。

有給休暇に時効はあるのか

時効

有給休暇は労働基準法第39条に規定されています。この39条に違反した場合、使用者は6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金刑に処されます(同法第119条)。しかしながら、有給休暇に所定の賃金を与えなかったり、有給休暇日に出勤を命じる等、まだまだ違反は無くならないのが実態です。

知らないと損をする有給休暇の決まり事

有給休暇については何かと煩雑で面倒に感じる労働者もいるでしょう。しかし知らないと損をする事項もあるので、しっかり押さえておくことが大切です。

有給休暇の時効と繰り越し

有給取得には時効があります。有給休暇の取得は有給休暇が取得可能となった時点、つまり年休権を所得した日から2年で時効になり、労働者が取得をせずにこの時効にかかった未消化分は無効となってしまいます。なお、法定を超える日数の有給休暇の消滅時効については、使用者が自由に設定できます。また、未消化分の有給休暇は翌年度に繰り越しができます。

ここで気になるのは、繰り越し分から消化するのか、あるいは新規付与分から消化するのかでしょう。実はこの有給休暇の消化の順番については、労働基準法に規定がなく会社が就業規則で定めることになっています。有給休暇を取りそびれないように就業規則でのルール定義を確認すると共に、使用者から説明を受けておくと良いでしょう。

有給休暇の買い取り

有給休暇を買い取り、その日数を減らしたり、請求された日数を与えないことは原則として禁止されています。これは有給休暇制度の本来の趣旨である“休暇の取得”は金銭的な補償をしても実現されないからです。

しかし場合によっては事実上有給休暇の買い取りと同じ効果となる処理をすることは可能となります。例えば、法定日数を超える日数の有給休暇について労使間で協約しているときは、その超過日数分については、法律に縛られず労使間で取り扱えるため、使用者が買い取り予約により消滅させることができます。

日本人は有給休暇の取得率は低い

諸外国と比較して日本は有給休暇の取得率が突出して低いことで知られています。これは見方によっては、日本人が勤勉であることの裏返しとも言えますが、それが長時間労働や過重労働を招いているのも事実なのです。

なぜ有給休暇が取りづらいのか

日本人の有給取得率が低い要因に、国民の精勤性に加えて“法の整備が行き届いていない”ことも挙げられるでしょう。労働者に対する有給取得の取得を理由とした不利益取扱いは労働基準法第136条で禁止されてはいるのですが、使用者がこれに違反しても罰則はありません。

有給休暇は使用者側のメリットになる

使用者側にとって有給休暇を労働者に与えることは表面上、不利益に思えるかもしれません。しかし長期的な視点で見れば、労働効率、労働意欲の観点からも有給休暇を与えることはむしろ利益になるのです。このことを労使共にしっかりと認識し、近視眼的な発想から抜け出すことが重要と言えます。

有給休暇についてのトラブルは弁護士に相談

労働環境改善が叫ばれている昨今においても、過重労働によるトラブルは後を絶ちません。有給休暇に関する取り決めは煩雑な部分もありますが、自分のためにも会社のためにも正確な知識を身に付け、休暇の取得を上手に進めることが大切です。有給休暇をめぐるトラブルが生じたら、労働問題に強い弁護士に相談するのもよいでしょう。

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