労働時間の定義|「労働時間」に含まれるモノと含まれないモノ

2020年6月19日71,954 view

労働時間

手待ち時間や社内研修の時間などは、一見仕事をしていないように見えても、労働時間とみなされます。逆に、持ち帰り残業や朝残業については、仕事をしているのにも関わらず労働時間と認められないケースがあります。その判断基準は「会社や上司の指揮命令下にあるか否か」ですが、わかりにくい場合は弁護士に相談することがおすすめです。

労働時間に含まれるもの

労働時間

労働時間とは、簡単に言えば「仕事をしている時間」のことです。しかし、具体的にどういった時間が労働時間にあたるのかをしっかり把握している方は少ないのではないでしょうか。今回は、労働時間に含まれるものと含まれないものについて解説します。

手待ち時間

「ただ待っているだけの時間は、業務時間にはならないのでは?」と考えがちですが、実は以下のような時間は労働時間にあたります。

  • お店でお客を待っている時間
  • 運送業などの運転者が、貨物の積込や積卸のために待機している時間
  • ビル管理や警備業務中の仮眠時間(突発的な事態への対応が義務付けられている場合)

これらは、「手待ち時間」と呼ばれる時間であり、従業員は基本的には何もしなくて良いものの、何かあったときにはいつでも対応できるように待機しなければならない時間です。そのため、具体的に何かすべきことが発生したかどうかにかかわらず、これらの時間は労働時間にあたるとみなされます。

研修・社員旅行などの社内行事

研修を受ける場合や社内の運動会・社員旅行などの行事に参加する場合、この時間は実際に仕事をしている時間ではないため、労働時間ではないと思われるケースが少なくありません。しかし、以下のような条件に当てはまる場合は、研修や社内行事に参加している時間も労働時間であるとみなされます。

  • 参加が義務付けられている(強制されている)
  • 欠席すると罰則があったり、昇給や賞与の査定に影響したりする(事実上の強制)
  • 出席しなければ業務に最低限必要な知識やスキルが習得できない(事実上の強制)

表面的には参加を強制されていなくても、参加しなければ従業員にとって社内で不利益な立場に立たされる場合は、労働時間として賃金や残業代を請求することが可能となります。

着替えの時間

会社や仕事内容によっては、始業時間前に制服や作業服などに着替えることが必要な場合があります。この着替えの時間も、原則として労働時間にあたります。そのため、着替えのために本来の始業時間よりも前に出勤しなければならない場合は、その時間分の残業代が発生することになります。

会社の事務員の制服については、必ずしも着替える必要がないため、労働時間に当たらない可能性もありますが、会社で制服への着替えが義務付けられている場合は労働時間とみなされます。

労働時間に含まれないもの

通勤時間

会社の業務のために行っていることで事実上の時間的拘束を受けていても、労働時間とはみなされないこともあります。労働時間に含まれないものとはどのようなものでしょうか。

移動時間

自宅から会社、自宅から営業先や出張先への移動については、労働時間とはみなされないケースが多くなっています。これらについては、争いになることはあまりありません。

通勤時間

通勤時間が労働時間であると考える人はあまりいないでしょう。通勤時間は電車やバスの中で本を読んだり、スマートフォンなどでゲームをしたり、自由に過ごすことができるため、労働時間には含まないと考えられています。

出張先への移動時間

出張先に出向くための時間、あるいは出張先から戻るための時間についても、一般的に労働時間とはみなされません。出張先が遠方のため前日から現地に入る場合でも、労働時間にはあたらないと考えられています。

営業先などに直行する時間

自宅から会社には寄らずに営業先などに直接出向く場合、あるいは営業先から会社によらずに直接帰宅する場合は、労働時間とみなされないことが多くなっています。これも、通勤時間と同様に、従業員が移動中は自由に過ごすことができることから、そのように考えられています。

ただし例外もある

以下のような場合は、例外的に「労働時間」とみなされるケースがあります。

  • 一度会社に出社(帰社)するよう上司から指示があった場合
  • 金品の運搬や業務上重要な書類の監視を兼ねる場合
  • 上司と一緒に行動しなければならない場合(ただし乗り合いバスに同乗する等は例外)

休憩時間

休憩時間とは、従業員が会社や上司の指揮命令下から完全に解放されて自由に過ごすことのできる時間のことを指します。法律上、従業員は、6時間を超えて勤務するときは45分、8時間を超えて勤務するときは60分以上の休憩時間を取らなければならないと定められています。基本的には同じ会社で働く従業員は一斉に休憩を取る必要がありますが、労使協定を結んでいる場合や一定の業種に当てはまる場合は一斉に取らなくてもかまいません。

当然ながら、休憩時間は仕事をしていない時間になるので休憩を取っている間の時間は労働時間とはみなされません。ただし、お昼休みに電話や来客にそなえて待機しているようなケースでは、休憩時間中でも指揮命令下から外れているとは言えず、労働時間にあたると考えられているため注意が必要です。

持ち帰り残業や朝残業は労働時間になるか?

持ち帰り残業

労働時間にあたるかどうかが問題になりやすいものが、持ち帰り残業や朝残業です。持ち帰り残業も朝残業も、会社や上司の指揮命令下にあったかどうか、会社や上司が指揮命令を下さなくとも、黙認していたかどうかが重要なポイントとなります。

持ち帰り残業や朝残業が労働時間にあたるポイント

昨今ではワークライフバランスを重視する企業が増え、ある一定の時刻になると強制的に消灯する企業が増えています。そうすることは一見良いことであるように見えますが、仕事が終わらない場合は持ち帰るか早朝に出勤することが必要になりますが、それが労働時間にあたるかどうかが不明確になりやすい問題点があります。

業務量が定時で終わらない

上司から指示される業務の量が、あきらかに終業時間までに終わらない量である場合には、持ち帰り残業や朝残業が労働時間とみなされる可能性が高くなります。

上司からの指示がある

夕方になって上司から「この資料を明日の朝までに準備しておいて」と指示を受けるなど、持ち帰り残業や朝残業を指示するようなことを言われた場合も、持ち帰り残業や朝残業をすることは残業(労働時間)にあたると考えられます。

上司が黙認している

従業員が持ち帰り残業や朝残業をしている事実を上司が知っているにもかかわらず、黙認している場合も、持ち帰り残業や朝残業が労働時間に含まれるとみなされます。

持ち帰り残業や朝残業にまつわる事例

実際に持ち帰り残業や朝残業にまつわる事例を見てみると持ち帰り残業は認められやすい一方、朝残業はなかなか認められにくいのが現状です。持ち帰り残業や朝残業に関する事例を具体的に見ていきましょう。

2011年英会話学校教師の過労自殺 労災認定

2011年、ある英会話学校の女性講師が過労自殺する事件が起きました。これは、女性講師が学校での仕事に加え、業務命令で自宅での英単語カード作成に長時間を費やしていたことが原因です。労働基準監督署の署員が実際にカードを作成するなどして、女性講師が自宅で月80時間ほど残業をしていたことを認めました。(※1)

朝残業が残業と認められなかった事例

人が少ない時間帯に効率的に仕事ができることから、朝早く出社して仕事をする人が増えています。2005年にある金融機関で管理職補佐の仕事をしていた男性が仕事に追われて早朝勤務を繰り返し、過労自殺に追い込まれた事件では、第1審では被告の原告に対する損害賠償命令が下ったものの、第2審では「早出は恒常的で、業務が過重だったという理由ではなかった」とされ、原告側が逆転敗訴となりました。(※2)

(※2)大阪高判平26・7・17〔労働判例1108号13頁〕

働いた時間が労働時間にあたるかどうかわからない場合は弁護士に相談を

会社やお店などで働いていると、働いたのに労働時間とはみなされないこともあれば、着替えの時間や手待ちの時間など、実際には働いていなくても労働時間にあたることもあります。自分の行ったことが労働時間に含まれるかどうかが分からない場合は労働問題に詳しい弁護士に相談するのがおすすめです。弁護士であれば、何か労働時間に含まれ、何が労働時間に含まれないかについて判断してくれるでしょう。

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