2つの最低賃金制度|地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金
最低賃金制度には地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金の2種類があります。従業員に支払われている給与が定められた最低賃金額よりも下回っていれば、未払い賃金として最低賃金額との差額を会社側に請求することが可能です。もし、もらっている給与が最低賃金額を下回っている場合は、弁護士などの専門家に相談して差額を取り戻しましょう。
最低賃金制度とは国が定める最低額以上の賃金を支払う制度
最低賃金制度とは、「最低賃金法」という法律に基づき、国が定めた最低賃金以上の賃金を会社側が従業員に対して支払わなければならない制度のことです。たとえ会社側と従業員が合意していても、賃金額が最低賃金額に満たない労働契約は無効となります。最低賃金には、大きく分けて「地域別最低賃金」と「特定(産業別)最低賃金」があります。
地域別最低賃金
地域別最低賃金とは、産業・職種を問わず、その都道府県内で働くすべての人に適用される最低賃金額のことを指し、すべての労働者の最低額の賃金を保障するためのセーフティーネットとしての役割を果たしています。
主な都道府県の最低賃金額
主な都道府県の地域別最低賃金を見てみましょう。地域別最低賃金は各都道府県で1つずつ定められています。平成28年度の主な地域の地域別最低賃金は以下の通りです。やはり東京や大阪などの大都市圏では賃金が比較的高く、地方では低くなっていることがわかります。
都道府県 | 最低賃金額 |
---|---|
東京都 | 932円 |
大阪府 | 883円 |
愛知県 | 845円 |
福岡県 | 765円 |
北海道 | 786円 |
沖縄県 | 714円 |
加重平均はゆるやかに上昇中
各都道府県での労働者の人数バランスも考慮した全国の加重平均額をみると、過去10年間でおよそ10~15円ずつゆるやかに上昇が続いています。今後もこの傾向は続くものと考えられています。
発効年 | 全国加重平均額 |
---|---|
平成19年 | 687円 |
平成20年 | 703円 |
平成21年 | 713円 |
平成22年 | 730円 |
平成23年 | 737円 |
平成24年 | 749円 |
平成25年 | 764円 |
平成26年 | 780円 |
平成27年 | 798円 |
平成28年 | 823円 |
特定(産業別)最低賃金とは
特定(産業別)最低賃金とは、ある特定の産業について業務の性質上、地域別最低賃金よりも高い賃金を支払う必要があると最低賃金審議会が判断した賃金額のことを言います。
特定最低賃金が適用される産業
特定(産業別)最低賃金が適用される産業は、主に以下のような鉄鋼・電気機械器具などの製造業が中心です。
- 鉄鋼業
- 電子部品・デバイス・電子回路
- 自動車関連業
- 機械器具製造業 等
地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金の両方が適用される場合
地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金の両方が適用される場合は、会社側は金額の高いほうを優先的に採用しなければならないことになっています。
最低賃金はどう決まる?
地域別最低賃金や特定(産業別)最低賃金は、決定に至るまでのプロセスが全く異なります。それぞれがどのようにして決まるのか、その方法について見ていきましょう。
最低賃金の決定方法
最低賃金は、公益代表・労働者代表・使用者(会社側)代表それぞれ各同数の委員から構成される「最低賃金審議会」で審議の上決定されています。審議会では、賃金の実態調査結果などの統計資料を参考にしながら審議が進められます。
地域別最低賃金の場合
地域別最低賃金は、毎年中央最低賃金審議会から地方最低賃金審議会に対して、最低賃金の引き上げ額の目安が提示されます。その目安を参考に、地方最低賃金審議会が各地域の実情に応じて最低賃金の改定に関する審議を行い、その審議結果をもとに各都道府県の労働局長が最低賃金額を決定します。
特定(産業別)最低賃金の場合
特定(産業別)最低賃金は、関係労使(会社側と従業員)の申出にもとづき、関係労使の意見を聞きながら最低賃金審議による必要性審議・調査審議を経て、各都道府県の老同局長が決定します。
最低賃金の対象者
最低賃金は、基本的に正社員・アルバイト・パート・契約社員など雇用形態を問わず、労働者すべてが対象となりますが、一部例外もあります。どのような例外なのかについて診ていきましょう。
最低賃金が特別に減額されることもある
一般の労働者よりも著しく職務能力が低い従業員がいる場合、最低賃金を適用すると従業員同士で不均衡が生じ、その従業員の雇用機会をかえって狭めることになってしまいます。そこで、会社側が都道府県の老同局長の許可を受けることを前提に、個別に最低賃金を減額することが特例として認められています。
例:
- 精神または身体に障害があり、著しく労働能力が低い場合
- 試用期間中の場合
- 基礎的な技能等を内容とする認定職業訓練を受けている場合
- 軽易な業務に従事する場合
- 断続的労働に従事する場合
派遣社員はどうなるの?
派遣社員の場合は、登録している派遣会社と就業先とで地域が異なる場合がありますが、実際に就業する場所にある地域の最低賃金が適用されることになります。例えば、派遣会社が東京都にあり、神奈川県内にある企業で就業する場合は、神奈川県の地域別最低賃金が適用されます。
給与が最低賃金を下回ることは違法です
いかなる雇用形態の従業員でも、給与が地域別最低賃金あるいは特定(産業別)最低賃金を下回ることは法律違反となります。そのため、現在もらっている給与が最低賃金を下回っていないかどうかをチェックすることが必要です。
給与が最低賃金額以上であることを確認する方法
では、実際に給与が最低賃金額以上であるかどうかを計算して確認してみましょう。確認方法は、時給制・日給制・月給制のどの給与体系で働いているのかによって計算の仕方が異なります。
①時給制の場合
時間給≧最低賃金額(時間額)
②日給制の場合
日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
(ただし、特定最低賃金に日額が定められている場合は 日給≧最低賃金額(日額))
※日給を所定労働時間で割って時間給を計算した場合、その額が地域別最低賃金額を下回る場合には、地域別最低賃金が適用されることになります。
③月給制の場合
月給÷1か月の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
最低賃金を計算するときに考慮に入れるのは、あくまで基礎賃金の部分のみです。家族手当、皆勤手当などの各種手当や残業代などは、上記計算には含まないことに留意しておきましょう。
給与が最低賃金額を下回る場合は差額を請求できる
給与を時間額や日額に換算した結果、その額が地域別最低賃金額あるいは特定(産業別)最低賃金額を下回っていた場合は、「未払い賃金」として差額を会社側に請求することができます。
例えば、東京都にある会社で働く従業員が月給15万円でひと月あたり22日、1日8時間働くとすると、この従業員の時給は以下のようになります。
- 150,000(万円)÷ 22(日)÷ 8(時間)≒ 852(円)
東京都の最低賃金は932円なので、1時間当たり80円の差額が生じていることになります。そのため、ひと月あたり以下の金額を「未払い賃金」として会社側に請求することができます。
- 80(円)× 8(時間)× 22(日)=14,080(円)
最低賃金を守らない場合には罰則規定もある
地域別最低賃金あるいは特定(産業別)最低賃金を従業員に支払わない場合は、法律に罰則規定が設けられています。
まず、会社側が従業員に対して地域別最低賃金額以上の賃金を支払わない場合は、最低賃金法の規定により、50万円以下の罰金に処せられることになっています。
一方、会社側が特定(産業別)最低賃金額以上の賃金を従業員に対して支払わない場合は、労働基準法の規定により30万円以下の罰金に処せられます。
給与が最低賃金額を下回っている場合は弁護士に相談を
給与を時間給や日給に換算して、その額が最低賃金額を下回っていた場合は何らかの手段を使って会社側に未払い賃金として差額を請求することになります。その場合は、労働問題に詳しい弁護士に相談すれば未払い賃金を効果的に取り戻す方法について有益なアドバイスをもらえます。
万が一訴訟に発展した場合でも、最初から経緯を知っている弁護士なら安心して任せることができるでしょう。
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