病院の残業代未払いの実際~医師・看護師の残業代未払いが発生しやすい理由

2020年6月19日8,597 view

深夜作業を行う医師

医師や看護師、技師など病院に勤務する医療職は非常に忙しいにもかかわらず残業代を受け取っていないケースが多数です。しかし病院でも残業代は支給されるので、きちんと請求して受け取りましょう。今回は医師や看護師で残業代が未払いになりやすい理由と請求方法について、解説します。

弁護士に相談したら、未払い残業代が請求できた
残業代を請求することができるのはどんな人?
1日8時間以上、週40時間以上働いている人
次の項目に当てはまる人は、すぐに弁護士に相談
  • サービス残業・休日出勤が多い
  • 年俸制・歩合制だから、残業代がない
  • 管理職だから残業代が出ない
  • 前職で残業していたが、残業代が出なかった
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病院では残業代の不払いが多い

病院勤務の医師や看護師、技師や薬剤師などの方は「特殊専門職なので残業代はもらえない」と思い込んでいるケースがよくあります。しかしそれは誤解です。病院勤務の医療職も労働者である以上は労働基準法の適用があり、残業代を受け取る権利があります。

しかし現実の病院では残業代の不払いが日常茶飯事です。たとえば「日本医療労働組合連合会」が2017年~2018年にかけて実施したアンケート調査によると、看護職員の7割が「サービス残業」をしており、医療関係者の2割が「不払い残業代の請求をまったくしていない」という結果も出ています。

新型コロナウィルスの流行で注目が集まる医療従事者の労働環境

昨今、新型コロナウィルスの流行により、医療従事者の労働環境には強くフォーカスがあたっていますが、こと残業代に関する考え方は医療以外の業界と大きな違いはなく、労働基準法が定めたルールに則った残業代請求が可能です。
病院勤務で残業代について意識したことのない方は、不払いが発生している可能性が高いので注意が必要です。一度、月間の勤務時間や給与明細書を見直してみてください。

病院で残業代不払いが問題になった事案

病院では残業代不払いがしょっちゅう問題となっており、ニュースなどで報道されたケースもたくさんあります。

東京都の病院で薬剤師が病院を提訴

2019年9月、東京都立墨東病院で勤務していた薬剤師が「始業前の出勤」や「勤務終了後の勉強会への出席」を強制されたけれども残業代が支払われなかったとして、病院側を提訴しました。不払いとなった205万円の残業代や慰謝料を含め、合計705万円を請求しています。

参考:産経新聞(2019/9/3)残業代支払い求め提訴 元都立墨東病院勤務の薬剤師

兵庫県豊岡市の病院で約2億円の残業代が不払いに

兵庫県豊岡市にある豊岡病院組合では、かねてから医師に対して適切に残業代を支給していなかったため、但馬労働基準監督署から未払い残業代の支払いを勧告されました。これにより、2017年12月から2019年12月まで勤務していた約100名に対し、計2億円程度の未払い残業代の追加払いを行うことを決定しました。

参考:神戸新聞NEXT(2020/3/19)医師の追加残業代、総額2億円支払いへ 豊岡病院組合

富山県の病院で1,500万円の残業代が不払いに

富山県の射水市民病院では、2017年9月から2018年6月までの間、看護師や技師など合計150名に対する残業代(約1,500万円)を払っていませんでした。高岡労働基準監督署からの是正勧告を受けて、2018年8月までの間に不払い分を全額支給しました。

参考:産経新聞(2019/10/24)残業代1500万円未払い 富山・射水市民病院

医師や看護師だけではなく、技師や薬剤師などすべての医療職の方が不払いに遭いやすい状況です。

病院で残業代が不払いになりやすい理由

病院勤務の方が残業代不払いに遭いやすい理由は以下の通りです。

特殊な職業なので残業代が発生しないと誤解されている

医師や看護師、技師などは高度な専門職です。また病院では宿直や当直勤務も多く、一般の事務職のように「午前9時から午後5時まで」などのわかりやすい勤務体系になっていません。「人の命を救う仕事」として強い使命感を持っている方も多いでしょう。

こういった特殊性から「普通の仕事とは違う」「残業代は出ない」と思い込んでいる方が多数います。病院からも「残業代は出ない」と説明されるケースもあり、周囲の誰も残業代を請求していない状況も少なくありません。「病院では残業代をもらえない」と思い込み、残業代が不払いになったまま放置される傾向があります。

特殊な労働時間の計算方法になっている

病院では、一般的な「1日8時間、週40時間」の法定労働時間が適用されていない方が多数存在します。勤務時間が不規則なために「変形労働時間制」が適用されている労働者も多く、医師に「年俸制」を適用している病院もよくあります。

そうなると「変形労働時間制や年俸制では残業代を請求できない」と思い込み、医療関係者が残業代を請求しなくなりがちです。病院としても「年俸制の場合、残業代は年俸に含まれている」と説明をするケースがよくあります。

しかし変形労働時間制や年俸制でも残業代は発生します。給与に固定の残業代が含まれている場合でも超過勤務があれば残業代を請求できます。請求しなければ慢性的に不払いの状態が続きます。

裁量労働制について誤解されている

医師や看護師、技師や薬剤師などは非常に高度な専門職です。このことが原因で「裁量労働制」が適用されると説明し、残業代を支給しない病院があります。

しかし医師は裁量労働制の適用対象職種ではありません。裁量労働制を理由に残業代が不払いになっていたら、違法です。

残業と認識されていないサービス残業が多い

看護師や技師、薬剤師などの医療職では「残業と認識されていないサービス残業」も多くなっています。たとえば始業前の掃除や仕事、手術などの準備、終業後の看護記録やPCへの入力業務、カルテチェックなどです。終業後に「勉強会」があり強制的に参加させられるケースもありますし、業務終了後帰宅前に緊急入院患者が搬送されてきて対応せざるを得ないこともあります。

こうした作業や対応は「業務外」と認識されているケースも多く、残業代計算の基礎にされず、不払いにつながります。しかし本当はすべて「労働時間」に含まれるので、残業代を請求できます。

残業代や割増賃金が発生する条件

病院で残業代が発生するのは、以下のような場合です。

所定労働時間を超えて働いた

病院との契約において予定されている所定労働時間を超えて働いた場合、法定労働時間の範囲内であっても残業代を請求できます。

法定労働時間を超えて働いた

労働基準法では、基準となる法定労働時間を定めています。基本的には「1日8時間、1週間に40時間」ですが、変形労働時間制が導入されていれば月単位、年単位で計算されます。年俸制の場合には、一定までの残業代が年俸に含まれているケースもあります。

実際には変形労働時間制でも法律で定められた時間より長く働いたら残業代を請求できますし、年俸制でも年俸に含まれる分以上の労働をしたら残業代が発生します。

休日出勤した

労働基準法によると、労働者には週に1回以上の法定休日が与えられ、休日出勤をすると通常の賃金に加えて「割増賃金」を請求できます。病院勤務では当直や休日当番などで休日に出勤する方が多く、そういった場合には1.35倍以上の割増賃金を加算して残業代を請求できます。

深夜労働をした

病院勤務の方は宿直などで深夜労働するケースも多いでしょう。深夜労働をすると、通常の賃金に加えて割増賃金が適用されるので、通常より高額な残業代を請求できます。

残業代の計算方法

次に具体的に残業代をどのように計算すれば良いのか、ご説明します。

残業代の計算式

1時間あたりの給与×残業時間×割増賃金率

1時間あたりの給与額の計算方法

1時間当たりの給与額は、「月給÷1か月の所定労働時間」で計算します。

残業時間の計算方法

残業時間には通常業務だけではなく以下のような時間も含まれます。

  • 早めに出勤して始業時刻までに行う準備、掃除など
  • 定時以後に行った看護記録の作成・入力やミーティング、勉強会
  • 手術の準備作業
  • 研修
  • 勤務時間中に処理できず、持ち帰って対応した報告書の作成等
  • 宿直や当直、休日当番などとして出勤したが、業務内容は通常と同様であった

残業代を請求するには「どのくらい働いたか」を日々記録しておく必要があります。

割増賃金率について

残業代を計算するには「割増賃金率」を正しく適用せねばなりません。割増賃金率は以下の通りです。

所定労働時間を超えているが法定労働時間内の残業

予定されている所定労働時間を超えて労働していても、法定労働時間の範囲内であれば割増賃金は適用されません。1倍となります。

法定労働時間外労働

1日8時間、1週間40時間の法定労働時間を超えて働いた場合には、1.25倍以上の割増賃金を請求できます。(変形労働時間制の場合には1か月ごとや1年ごとに法定労働時間を計算し、超過分に1.25倍以上の割増率を適用します)。

休日出勤

休日出勤した場合、1.35倍以上の割増賃金率を適用して残業代を計算します。休日に時間外労働をした場合には1.6倍(25%+35%)の割増賃金率となります。

深夜労働

午後10時から早朝5時までの深夜の時間帯に働いた場合、1.25倍の割増賃金率が適用されます。

休日の深夜労働

休日に深夜労働をした場合には1.6倍(25%+35%)の割増賃金率が適用されます。

残業代計算の際には、「労働時間の種類(時間外労働か深夜労働かなど)」ごとに上記の割増賃金率を正しくあてはめる必要があります。

残業代請求の証拠

病院に残業代請求をするためには、残業代が発生している証拠が必要です。以下のようなものを集めましょう。

労働条件や支払われた給与の内容がわかる資料

  • 労働契約書
  • 雇用条件通知書
  • 就業規則のコピー
  • 給与明細書

労働契約書や雇用条件通知書は、就職した際に病院から交付されています。雇用条件が詳しく記載されています。

就業規則は病院に保管されており、全従業員がアクセスできる状態になっているはずですので、コピーやデータを取得しましょう。

給与明細書は「不払い残業代が発生していた期間分」のものが必要です。

残業時間を証明する証拠

  • シフト表
  • タイムカード
  • 勤怠記録、業務日報
  • 電子カルテなどの記録
  • パソコンのログインログオフ記録
  • 入館や退館の記録
  • 業務で利用するメールの送信履歴
  • タクシーで帰宅した際の領収証
  • 交通ICカードの記録
  • 個人的に作成している業務時間予定表
  • 業務スケジュールについて詳しく記載した手帳
  • 病院から指示を受けたことがわかる資料(メモやメールなど)

シフト表やタイムカード、業務日報などは病院で写しを取得しましょう。仕事で使っているパソコンのログインログオフ記録や業務で利用するメールの送信履歴には「時刻」が記録されるので、その時間に労働していた証拠になります。

タクシーや交通ICカードなどの交通利用記録については、その頃まで働いていた事実の立証に使えます。

自分で作成したスケジュール帳や手帳、データなども証拠にできるケースがあるので、残業代が不払いになっているなら普段からしっかり記録をつけておくようお勧めします。

病院に残業代を請求する手順

医師や看護師などが病院に残業代を請求するときには、以下の手順で進めましょう。

証拠を集める

まずは残業代請求のための証拠が必要です。残業時間に関する資料がないと残業代の計算もできません。タイムカードや日報など病院で取得するもの、交通記録など自分で用意するものなど、できるだけ多くの資料を手元に集めましょう。

残業代を計算する

資料が手元に揃ったら不払いとなっている残業代を計算します。労働時間の種類ごとに正しく割増賃金率をあてはめて合計しましょう。

不払い残業代を請求する

計算ができたら、病院側に不払いとなっている残業代を請求しましょう。その際、計算根拠を明らかにする必要があります。書面を作成して請求書を送りましょう。

通常の請求書で対応してもらえない場合には、内容証明郵便を使って請求すると病院側に真剣さが伝わってプレッシャーをかけられます。

交渉する

請求書を送ったら実際にいくらの不払い残業代をいつまでに払ってもらうのか、交渉によって決定する必要があります。

労基署へ報告する

病院側が誠実に対応しない場合には、管轄の労働基準監督署へ病院側の残業代不払いについて報告しましょう。労働基準監督署が指導勧告を行ったり立入調査をしたりすることで、病院側が適正に残業代を支給するケースがよくあります。

労働局に相談する、あっせんを利用する

都道府県の労働局でも残業代不払いについての相談に応じています。また労働局では労働者と会社側のトラブルについてあっせん(話し合いの仲介)してくれるので、状況に応じてこうしたサポート制度を利用してみてください。

労働審判を申し立てる

病院側の態度が強硬で支払いに応じそうにない場合には、裁判所で「労働審判」を利用してみてください。労働審判は裁判とは異なり、迅速かつ柔軟に労働トラブルを解決できる方法です。3か月以内で最終解決するケースが多く、裁判なしに残業代を払ってもらえる割合も高くなっています。

労働訴訟を起こす

労働審判でも解決できなかった場合には、最終的に訴訟を起こすしかありません。未払い残業代の訴訟で勝訴すると、裁判所が病院側へ「遅延損害金」や「付加金(不払いとなっている残業代と同額)」を足してくれるので、支払われる金額が2倍以上になる可能性もあります。確かに時間が長くかかって手間も発生しますがその分メリットも大きいので、未払い金額が高額な場合にはぜひ弁護士に相談して裁判を起こしましょう。

病院への残業代請求を弁護士に依頼すべき理由

医師や看護師、技師、薬剤師などの医療職の方が病院へ残業代請求するなら、弁護士に依頼するようお勧めします。

適切な証拠集めができる

残業代を請求するには、事前の証拠集めが重要です。ただ自分では何を集めたらよいかわからないケースも多いでしょうし、病院側が把握している資料を開示してもらえない可能性もあります。

そのようなとき、弁護士に相談すれば証拠集めの方法についてアドバイスを受けられますし、証拠保全などの手続きを利用して病院側の証拠を開示させられるケースもあります。

正しく残業代を計算できる

残業代の計算方法は複雑で、素人の方が自分で行うと間違ってしまう可能性も高くなりますが、弁護士に任せたら正確に計算できて安心です。

証拠が足りなくても対応できるケースが多い

残業代請求をするとき、多くの方が「証拠不足」によって悩みます。弁護士に相談すると、自分では気づかなかった証拠を指摘してくれたり「推定計算」を行って証拠不足を補ったりできるので、証拠が不足していても対応しやすくなります。

交渉や審判、訴訟を任せられる

多くの方が、病院との交渉や労働審判、労働訴訟などを自分一人で行うのはハードルが高いと感じるでしょう。弁護士にこれらの対応を任せたら、自分で直接病院や裁判所とやり取りしなくて良くなるので安心ですし、手続きを有利に進められます。

精神的に落ち着く

未払い残業代が原因で病院とトラブルになったら、多くの方がストレスを感じるものです。日々の業務に差し支えが出てしまったり家庭生活などのプライベートに影響が出てしまったりすると困った事態になってしまいます。

弁護士に対応を任せてしまえば大船に乗った気持ちでいられるので、精神的に落ち着きストレスも軽減されます。人の命に関わる重大な責任を負う医療職の方々が、大切な日常業務に集中できるようになるメリットは大きいといえます。

病院勤務なら一度不払い残業代をチェックしてみよう

病院勤務の方は、適正に残業代を受け取っていないケースが多々あります。「自分の場合はもらえない」「手間がかかって面倒」という思い込みを捨てて、いったん未払い残業代が発生していないかチェックしてみてください。給与明細書などをみて労働時間に対応した割増賃金が支払われていないなら、未払いとなっている可能性が高いと言えます。

もし不払い残業代が発生しているなら、まずは労働トラブルに詳しい弁護士に相談してみてください。きっとあなたの助けになってくれますよ!

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