教員に残業代が出ない理由~教師ができる残業への対処法は?

2020年6月19日12,651 view

眠る教師

公立学校の教員には労働基準法が定める残業代が請求できず、残業する場合はわずか給与の4%の固定支給が認められているのみです。これは給特法という法律が根拠となっていますが、なんとかして時間分の残業代を請求することはできないのでしょうか? 今回は、教員に残業代が出ない理由、教員の業務の現状、教員ができる残業増加への対処法、教員の残業代請求は可能か、について解説します。

弁護士に相談したら、未払い残業代が請求できた
残業代を請求することができるのはどんな人?
1日8時間以上、週40時間以上働いている人
次の項目に当てはまる人は、すぐに弁護士に相談
  • サービス残業・休日出勤が多い
  • 年俸制・歩合制だから、残業代がない
  • 管理職だから残業代が出ない
  • 前職で残業していたが、残業代が出なかった
未払い残業代請求に強い弁護士を探す

教員に残業代が出ない理由

まずは、教員に残業代がでない理由やその背景について理解していきましょう。

給特法が認める残業代は一律月額給与の4パーセント

公立の学校で働く教師に対しては、十分な残業代が支払われていないという実態をご存知の方は、少しずつ増えているかもしれません。「公立の教師は激務」というイメージを持っている方も少なくないでしょう。しかし、なぜ教員の残業代は支払われないのでしょうか?

これには公立学校の教師に適用される「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(以下、給特法)」という法律が関係しています。

通常、一般の会社では、労働者が1日8時間、週40時間を超えて働くと残業代を支払わなければいけません(労働基準法37条1項)。これに反して、雇用主が残業代を労働者に支払わない場合は、違法となります。
しかし、公立学校の教師に関しては例外です。なぜなら、給特法3条では、以下のように定めているためです。

  • 第三条 教育職員(校長、副校長及び教頭を除く。以下この条において同じ。)には、その者の給料月額の百分の四に相当する額を基準として、条例で定めるところにより、教職調整額を支給しなければならない。
  • 2 教育職員については、時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない。

給特法3条によると、教職員に関しては原則として時間外労働の手当てや休日勤務の手当は支給されないこと、そしてその代わりに月額給与の4%を支払うことを規定しているのです。

このように、慣習上、教員に残業代が支払われないわけではなく、法律で規定されているため残業代の一部しか受け取れないのが実態です。

なぜ給特法が必要となったのか

では、なぜ教員にだけこのような例外的な法律が適用されることになったのでしょうか。

実際上、一般の会社に働いていても、残業代は固定されているケースが存在します。
例えば、営業職の場合です。営業手当を支給する代わりに一定分の残業代を支払わないとするものがあります。これは正確には「みなし残業労働性」といいますが、雇用主が労働者の実施の労働時間を把握することが難しい場合に一定の労働時間分は働いたものとして、固定の残業代を支払うという規定です。

教員の残業代一律4%の背景にある「時間管理が困難」という前提

これと同様に、教員も他の一般行政職の公務員とは異なり、勤務実態を一律に把握しきれないという特殊性があります。
具体的には、部活動などの勤務時間、遠足や修学旅行などの課外授業、夏休みなどの長期休暇があります。
時間管理をすることが困難な業務形態であるため、時間外勤務の手当ての概念を取りにくいという問題があるのです。
そこでこのような教員の特殊性に鑑み、一律に4%支給という法律が施行されることになりました。

そうすると、「一般の会社で働いていても例外があるのだから、結局同じ」という理屈が成り立ちそうですが、そうではありません。
なぜなら、私立学校で働いている場合や教員以外の一般行政職の公務員の場合は、定額の残業代を上回った部分は未払いの残業代として請求することができるためです。

このように、教員の業務の特殊性が考慮され、給特法が制定されることになりましたが、現在ではこの法律の影響で多くの問題が提起されています。

残業代がない教員の過酷な業務の現状

次に、教員の業務の実態について見ていきましょう。実際の学校の現場では、どのような問題が起きているのか、残業はどのように取り扱われているのか、将来的に改善される可能性はあるのかについてご説明します。

ブラック企業並とも言われる若手教員の生活

数年ほど前から、「ブラック企業」「過労死」という言葉がメディアを中心に飛び交うようになりました。

ブラック企業とは、「残業代を出さない」、「有給を使わせない」、「手当てのない長時間労働」など、劣悪な労働環境で労働者を雇用する会社を指します。他方、過労死とは、長時間労働が原因で脳疾患や心不全を伴う突然死のことをいいます。

実際上、教員は月に100時間以上の残業を強いられているといわれています。お昼休みなどの休憩時間も、子どもの答案を添削するなどの時間にとられてしまい、実質的には休憩もない状態で働いている教員はたくさんいるのです。

特に若手の教員は無理を強いられるケースが多く、給与も先輩教員より低いため、月々に1-2万円しか残業代を受け取れません。「休みが取れない」「残業代が少ない」という状況は、ブラック企業と同様といえるでしょう。

中学校教員の過半数が過労死ライン

また、厚生労働省は過労死ラインというものを定めています。具体的には、月に80時間を超える残業・休日労働をすると過労死ラインです。過労死に至る前の一ヶ月間の場合、100時間程度の残業があれば、過労死に至る健康障害と長時間労働の因果関係が認められやすいと言われています。

簡単にいうと、一週間に60時間(通常の労働時間40時間+残業20時間)以上働いていれば、過労死に至ってしまう可能性があるということです。

文部科学省の調査によると、小学校の教員の3割程度、中学校の教員の6割程度が週に60時間以上働いていることが明らかになっています。多くの教員が過労死ラインまで働いている実態があるため、国としても早急に対処する必要があります。

このように、多くの教員は膨大な量の業務に忙殺され、少額の時間外労働手当しか受け取れないという実態があります。

教員の残業は、自己責任という扱いに

では、教員の残業は実際上どのような取り扱いになっているのでしょうか。

まず、教員は原則として残業が禁止です。残業が認められるのは、学校行事や職員会議、非常災害、生徒の指導に際し緊急に必要な場合など限られた場合のみとされています。
しかし、実際上は先にお話しした通り、多くの残業が行われています。これに関しては、学校が教員に命令しておらず、「教員が自発的に残業を行なっている」とみなされています。

実際に、2014年に福井県で長時間労働を理由に教員が自殺した事例においては、過労死に対する損害賠償が認められず上記のように判示されています。つまり、教員の残業による過労死は、自己責任だと判断されているのです。

時代遅れになった給特法

教員の業務が膨大となったことも一因に

先にご説明した通り、給特法は教員の業務の特殊性から、通常の時間管理では教員の業務を把握しきれないことを理由に制定されました。これが施行されたのは昭和46年ですが、当時は残業は8時間程度しかなかったため、法律自体は概ね好意的に受け取られ、現在のような問題もなかったのです。

しかし、時代が変わり、教員の業務は膨大となりました。部活動の付き添い、土曜日の授業がなくなる、などで労働時間内に教員の業務を詰め込むことが難しくなったという問題は、自己責任として捉えるべきではないでしょう。

このように、公立の教員の残業は自発的なものとして、違法とは考えられていないのです。

教員の「働き方改革」が進行中

2018年から日本政府は「働き方改革」を宣言し、長時間労働の是正や非正規雇用の格差解消、多様な働き方の実現など、労働者の働き方を改善できるように舵を切っています。

これは、教員という職業においても同じです。教育現場が激務であると、これからの未来を担う子どもたちの教育にも悪影響が大きいばかりではなく、公立の教員を志望する人が減少してしまうことから、教員の働き方改革が必要となったのです。

実際に、2018年以降給特法の改正を求める署名運動や私立学校の教員ではあるものの時間外労働に対しストライキを行う事例がありました。
これらの動きに対し、国としては例外とされる限られた名目での残業以外の時間、例えば部活動の顧問などの時間においても、勤務時間管理の対象とすべきとする方針が打ち出されています。具体的には、部活動などで休日勤務を行う場合には、終休日の振替などを弾力的に行うべきとする指針が出されています。

自治体により変形労働時間制の導入も

また、2019年12月に国会で改正給特法の成立により、1年単位の変形労働時間制の導入ができるようになりました。
1年単位の変形労働時間制とは、通常の時期の勤務時間を多く割り当て、その分長期休業期間(夏休みなど)の勤務時間を短くすることで、一年平均において一週間単位の労働時間を40時間とすることができるようにするものです。現段階では、2021年4月から各自治体の判断で導入できることが決まっています。

問題となっている給特法自体について、これを廃止することは必ずしも教師の処遇改善につながらないとして、見送られています。

このように、給特法の廃止には至っていないものの、教員の現状を改善すべく1年単位の変形労働時間制の導入されるなど、働き方改革は少しずつ進んでいます。

参考(PDF):学校における働き方改革の取り組み状況について(平成31年1月)

教員ができる残業増加への対処法

残業や休日出勤による問題を解決するためには、教員自身も残業を増やさないようにする努力が必要です。そこで、教員ができる残業増加への対処法をお伝えします。

  • 業務における役割分担の見直し
  • 特別手当をもらう
  • 私立学校へ転職する

業務における役割分担の見直し

教員の残業が多い原因としては、授業以外の事務作業などに時間を取られてしまうことが挙げられます。例えば、部活の顧問や保護者の対応、授業準備に生徒指導などです。これらすべての業務を一挙に教員が担うため、過大な労働となってしまいます。
したがって、これらの業務を細分化して役割分担と見直す必要があります。部活動に関しては、学校の教員のみで対応せず、部活動専門のスタッフを雇う、学校行事の準備などについても教師以外のスタッフに任せるなど忙しい教員の役割を減らすことが大切です。

もちろん、教員1人ではこのような対応をすることはできません。あくまでも提案していくということが必要です。教員の働き方改革でも、業務における役割分担の見直しについての指摘があるため、学校全体でこれに取り組んでいく必要があるでしょう。

このように、学校内で業務における役割分担の見直しを提案するという方法があります。

特別手当をもらう

上記のような提案ができる環境があれば良いですが、「それは難しい」という方がほとんどでしょう。そこで、残業した分に対しては、特別手当てを支給してもらうという方法もあります。

公立学校の教師の場合は、次のような業務内容に応じて、特別手当が支給されます。

  • 部活動指導業務
  • 修学旅行等指導業務
  • 入学試験業務

もっとも、これらの業務に対する手当は少なく(部活動指導業務なら、4時間程度の業務で日額1,200円等)労働時間に対して正当な金額とはいえないとの意見もあります。そのため、労働時間を減らす・適正な残業代を受け取るという目的に対しては、抜本的な対処法にはなりません。
このように、特別手当を受け取るという方法はありますが、効果は限定的です。

私立学校へ転職する

最後に、公立学校に勤めている方は、私立学校に転職するという方法があります。公立の教員の場合、どうしても給特法に縛られてしまうため、抜本的な解決策を教員自身が取りにくいという問題があります。
「無駄な残業を減らしたい」「適正な給与を受け取りたい」と考えるなら、原則通り労基法の規定が適用される私立の学校に勤めるのが得策でしょう。

もっとも、私立に勤めたからといって、必ず残業代が支払われる、給与が増える、休日出勤がなくなるという保証はありません。民間の会社と同じく、労働関連法が適用されるというだけであり、みなし残業制などが導入されているケースもあります。また、私立の学校であったとしても、残業代請求の問題はあり、実際に教員がストライキを起こした事例もあります。

公立の学校に比べると、自由度は広がりますが依然として教員の働き方に関しては問題が残ります。公立の学校で働いていて、これ以上の残業は辛いと考えるのであれば、最終手段として私立学校への転職、また別の業種への転職を考えてみる必要があるでしょう。

このように、私立の学校に転職することで、長時間労働や残業代などの問題は解決できる可能性があります。もっとも、雇用契約の内容によっては、同様の問題が生じうるでしょう。

教員の残業代請求は可能か?

給特法がある限り、教員の残業代請求は難しいのでしょうか。教員は残業代が請求できるのかについてご説明します。

私立の学校の場合、残業代請求は可能

まず、先にお話しした通り、給特法に関しては公立の教員に適用される法律です。そのため、私立の教員の場合は、一般の会社員などの同様に労働基準法が適用されます。もっとも、実態としては、私立高校の20%程度が労働基準監督署から行政指導を受けているという問題があります。

私立の教員の場合は、残業をする場合は36協定が締結されていなければいけません。具体的には、1日8時間、週40時間を超える労働に関しては、労使で36協定を締結しないと、違法な残業になるのです。そのため、36協定がない場合は、労基法を超える労働時間に関して支払いを請求できます。

また、36協定の締結があったとしても、実際の残業時間が締結した上限を超えた場合は残業代を請求することが可能です。

残業代請求に必要な労働時間の記録は忘れずに

残業代を請求するためには、労働時間の記録が必要です。出勤時間、代謝時間を毎日メモしておきましょう。これだけでも訴訟や労働基準監督署、労働組合に訴える際の証拠になり、未払いの残業代を請求できる根拠となります。

このように、残念ながら労働基準法などの関連法を軽く考えている私立学校は少なくありません。もし残業代が未払いだという場合は、すぐに弁護士に相談してください。

給特法は憲法違反の可能性も指摘されている

公立学校の場合、ご説明した通り給特法があるため残業代について指摘したとしても学校から残業代が支払われることはありません。しかし、公立の教員であっても残業代は支払われるべきと考える人は多く、残業代の支払いを求める訴訟はこれまでに何度も起こされています。

給特法に関しては、違憲性が指摘されていますが、実際の判例では合憲と判断されています。平成19年札幌高裁の判断では、教員の職務の特殊性から「時間外勤務等の手当を適用しないことは合理的」とし、私立教員との取り扱いの差別については「勤務条件法定主義の原則が条例で定められているため、条件に差が生じても不合理とはいえない」としました。

今のところ、このような判断が覆ってはいませんが、給特法の違憲性を指摘する声はあるため、今後の訴訟次第では判断が変わる可能性も期待できます。

公立学校の教員でも損害賠償が認められた事例

では、公立学校の教員は残業代を請求しても今のところ認められる余地はないのでしょうか?

2018年9月に埼玉県の公立教員が県に対して未払いの残業代を請求する訴えを起こしました。しかし結果は、棄却であり残業代の請求は認められていません。

他方、過去の判例では、残業自体が違法とは認めなかったものの、学校側の安全配慮義務違反を認め市に55万円の損害賠償の支払いを認めた事例があります。大阪高裁平成21年10月1日判決では、教師の残業が100時間を超えていた点を指摘し、この点に安全配慮義務違反を認めたのです。
この判例は安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求の事案であり、残業代請求が直接認められた事例とは異なりますが、訴訟を起こせば不当な残業に対する何らかの請求は可能なケースがあるといえるでしょう。

このように、公立の公務員の残業代請求は難しい可能性が高いですが、安全配慮義務違反で都道府県に責任を認めさせることができる可能性はあります。残業代に関してお悩みがある教員の方は、一度専門家である弁護士に相談してみることをおすすめします。

教員の残業代請求は、弁護士に相談を

教員の残業代は、給特法によって請求が難しい可能性が高いといえますが、場合によっては何らかの請求が可能なケースもあります。また、私立の教員の方は、労基法が適用されるため、残業代の請求は可能です。

増え続ける残業にお困りの教員の方は、労働問題に強い弁護士にご相談ください。未払いの残業代がある場合は、請求すべきです。学校にとって適正な労働環境を作るためにも、弁護士に相談するのが正解です。

関連記事一覧

一緒に読まれている記事

会社の待遇や人事でお悩みなら相談を!

今すぐ弁護士を探す