マタハラ問題を今すぐ解決!マタハラの実態や違法性

2020年6月19日8,474 view

マタハラ

就業における男女間の格差を解消すべく男女共同参画社会基本法が施行されて今年で早17年が経ちます。結果女性の社会進出はある程度進んだと言えますが一方で新たな問題が浮上してきました。その一つが妊娠・出産・育児を理由に職場で嫌がらせを受ける「マタハラ」です。そこで今回はマタハラの実態や違法性等を解説します。

マタハラとは何か

マタハラ

かつての日本では、職場において女性は“お茶くみ係”等と、労働者としての権利は軽んじられていました。やがて1986年に男女雇用機会均等法が、1991年には男女共同参画社会等法が施行され、女性の職場における権利の向上を図る法律がいくつも制定されました。その結果現在では女性の社会進出の観点からすれば幾分か進歩したと言えるでしょう。しかし他方で新たな問題も発生しているのです。その一つが「マタハラ」です。

マタハラとは

マタハラとは“マタニティーハラスメント”の略で、働く女性が妊娠・出産・育児を理由に職場で精神的・肉体的な嫌がらせを受けたり、解雇や雇い止め自主退職の強要等の不当な扱いをされることを指す言葉で、近年問題視されています。

マタハラは流産に繋がる可能性も

マタハラは法的な言葉ではなく、男女雇用機会均等法や育児介護休業法では“職場における妊娠、出産・育児休業等に関するハラスメント”と記されていて、妊娠・出産等を理由として女性に不利益な取扱いをすることを禁じています。マタハラの加害者には女性の心身を理解しない男性が多いイメージがありますが、実は同性が加害者になるケースも少なくないのです。

つわりで苦しむ人に悪口を言う場合や、健診等で遅刻や早退をする人に対して「仕事が回ってきて迷惑だ」「仕事をしなくてよいから楽だね」といった具合に文句や嫌味を言う場合等がこれに当たります。デリケートな妊娠期間にストレスが過度に蓄積することが原因で流産になってしまうケースもあり、対策が急務な労働問題として近日取り沙汰されています。

マタハラの特徴と関連法

関連法

セクハラやパワハラ等、他のハラスメントと比較しても複数の点で厄介なのがこのマタハラです。マタハラの特徴や関連法等を見ていきましょう。

マタハラの加害者は上司だけではない

セクハラやパワハラでは、ほとんどのケースで上司や社長等、権限が強く、社内での立場が上の社員が加害者になります。しかしマタハラでは必ずしもそうではなく、立場が等しい者、場合によっては下の立場の者が加害者になるケースもあるため、精神的なダメージは計り知れないものがあるのです。

マタハラは違法

マタハラに関しては男女雇用機会均等法第9条で、事業者が「女性労働者が婚姻、妊娠、出産した場合には退職する旨をあらかじめ定めること」や「婚姻を理由に女性労働者を解雇すること」、「厚生労働省令で定められている事由を理由に、女性労働者に対し不利益な取扱いをすること」等、妊娠・出産等を理由として女性に不利益な取扱いをすることを禁止しています。ここで言う「厚生労働省が定めている事由」とは妊娠や出産の他、産前産後休業の請求、及び産前産後休業の取得、妊娠や出産に起因する症状により労働能力が低下したこと等があげられます。

育児介護休業法

育児介護休業法にも「会社は、労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない(第10条)」との規定があります。

労働基準法

労働基準法にも産前産後休業に関する規定があります。
本来はこれらの定めにより女性の妊娠・出産は守られるべきなのですが、実社会ではこうした法律は遵守されているとは言えません。

マタハラの実態と対処法

マタハラ

最近マタハラ問題についてテレビや新聞等で頻繁に報じられていますが、一口にマタハラと言ってもその内容は様々です。ここでは典型的なマタハラのケースの分類や実態、及び対処法等を解説していきます。

近年のマタハラの実情

マタハラには人事部や企業が圧力をかける「組織型」と上司や同僚による「個人型」とに分かれ、その中でも、制度等の利用に対する嫌がらせと状態への嫌がらせがあります。

個人型

個人型で良く見受けられるのが「昭和の価値観押しつけ型」と呼ばれるものです。その名の通り“女性は妊娠や出産をしたら会社を辞めて家庭に入るべき”とする昭和からの考え方を持つ人物が女性側の意向を無視して一方的に、妊娠や出産を理由に退職を勧めたり、重要な仕事を与えない等するパターンです。このケースで厄介なのは、マタハラをしている当の本人には悪気はなく、そのように扱うのが「女性側のためにもなる」と思い込んでいる点です。

いじめ型

いじめ型も典型的なマタハラです。いじめ型は「休めて羨ましい」、「不公平」、「迷惑だ」等の言葉を投げかけるパターンです。“ケガや病気ならともかく、妊娠は自ら望んでするものなのに、何故サポートせねばならないのだ”という理屈です。この手のマタハラを減らすために有効なのは、例えばサポート分の業務には割り増し手当をつける、あるいは結婚や妊娠をしない人でも休暇をとれる仕組みを構築する等社内ルールを整備することが必要です。

組織型

この組織型が多いのもマタハラの特徴と言えます。例えば、「時間短縮勤務なんて許さない」「早退する正社員は要らない」「妊婦でも特別な配慮はしない」等のスタンスで迫る「パワハラ型」です。背景には、会社の制度としては産休や育休、時短勤務等が存在するものの、それを利用することを快く思わない社風があります。また「我が社には妊婦を雇う余裕等ない」「子供ができたら残業できないんだろうから辞めてね」等と、退職勧奨・強要をしたり所謂“窓際”に配置転換をする「追い出し型」もあります。

マタハラとマミートラック

このようなマタハラ被害に遭いやすいのは、「妊娠を報告するとき」「育休や産休を取得する時とき「育休や産休から復帰したとき」の3つです。しかしマタハラにはその後もついて回る問題があるのです。それが“マミートラック”です。

マミートラック

企業内でのキャリアアップに関して通常社員は実績や能力、年齢に応じて出世の階段を上っていくものです。それに対して、子育てをしながら働く母“ワーキングマザー”は育休から復職すると昇進に縁がないキャリアコースに固定されたり、仕事の内容も限定される等陸上のトラックを走る様に同じ場所をぐるぐる回ることになる場合があります。このような状態を「マミートラック」と言います。

マミートラック問題は根深い

そうした仕打ちを受けるのは、ここまでの説明で察しが付くと思いますが「時短勤務の労働者を昇進させる訳にはいかない」「重要な業務を任せることはできない」といった理屈です。しかしこの問題はマタハラよりも根深いと言えます。

まず第一に、「時短勤務の者を出世させれば他の社員に示しがつかない」「子供の緊急時等に早退される可能性がある為重要な業務は与えられない」とする会社側の主張は至極真っ当なものだからです。しかしながら、企業の意識次第で解決は望めます。例えば、ワーキングマザー以外の労働者もワーキングマザーと同じ時間の勤務時間、帰宅時間になる様に取り決め、定時になればその部署内の全社員が一斉に帰宅する規則を設けるのです。そしてその上で完全成果主義にすれば、ワーキングマザーも平等に評価されることになります。

マタハラについて知っておくべき制度

妊婦

マタハラは大企業の内約1割で発生しているとの調査結果があります。しかし報告できずに泣き寝入りするケースも多く、現実にはもっと被害があるでしょう。マタハラを減らすには男女双方が関連法について把握しておくことが極めて重要です。

産休中の賃金は

労働者が出産する場合、産前産後休暇を取得することが認められています。しかしこの間の給与は支払われないケースがほとんどで、多くの人が有給休を取得することで収入を賄いますが、この際注意すべきことがあります。

産後6週間の「強制休暇」は有給がとれない

産前の6週間以内は労働者の意志で休暇を請求できます。また産後6週間経過後8週間までは医師の許可があれば仕事に復帰できます。産後6週間に関しては本人の意思に関わらず休暇を取らなければならない「強制休暇」である点は注意しましょう。

有給は就労義務のある日に取得する必要があるため、産前産後休暇を取得可能な産後6週間経過後8週間の内、強制休暇である産後6週間は有給がとれないことになります。また産前産後休暇中の給与を支払う義務は企業にはなく、多くの会社が無給としているのが現状です。

出産手当金でカバー

産前産後休暇が無給の場合でも健康保険から「出産手当金」が支給されます。出産手当金とは被保険者が出産の為に会社を休み報酬を受けられないときに、出産日(予定日より遅れた場合は出産予定日)以前42日(多胎妊娠のときは98日)から出産日後56日までの期間に受け取れる給付金です。

一日当たりに受け取れる額の計算方法は「【被保険者が給付を受ける月以前12か月間の各月の標準報酬月額の平均額】÷30の3分の2」となります。

この辺りは非常に複雑で分かりにくいですが、出産予定日等の情報を入力することで産前 産後休業の期間と共に給付金・手当の概算金額等の計算を自動で行ってくれるwebサイト等もあるので使ってみても良いでしょう。

マタハラ防止措置が義務付けられる

近年のマタハラ問題を受け、男女雇用機会均等法と育児・介護休業法が2016年3月に改正されました。これまでも妊娠や出産・育児を理由とする解雇等不当な取り扱いは禁じられていましたが、改正によって事業者が雇用管理上、マタハラ防止措置を行う義務を負うことが新設されたのです。

企業にマタハラ防止義務が課せられる

具体的に企業に義務付けられる防止措置は「職場でのマタハラを禁止し、マタハラを行った者には厳正に対処する方針を事業主自らが明確に打ち出す」、「適切に対応できる相談窓口等を設ける」、「ハラスメント発生要因の解消の為の措置を行う」「相談が来たら、事実確認から行為者処分まで迅速かつ適正に対応する」等で、2017年1月から適用になります。

育児介護休業法の改定で給付金の支給期間が2歳まで延長される

育児介護休業法とは、子供の養育のための休業取得や給付の受取等に関する事項を定めた法律で、次のような条件を全て満たした場合、休業が認められていました。

  1. 同一事業所に1年以上雇用されている
  2. 子が1歳に達する日を超えて引き続き雇用されることが見込まれる
  3. 子が1歳に達する日から1年を経過する日までの間に労働契約期間が満了し、かつ当該労働契約の更新がないことが明らかでない

今回の改正で2と3に替わり「子が1歳6か月になるまでの間に雇用契約がなくなることが明らかでないこと」となり、申出時点で雇用契約の継続があるかどうか不明の場合でも取得できる様になりました。また給付金に関しても、これまで子が1歳に達する日後の期間に育児休業を取得する場合は子が1歳6か月に達する日前まで育児休業給付金の支給対象期間が延長できましたが、さらに平成29年10月1日より、子が1歳6か月に達する日後の期間に育児休業を取得する場合 は、子が2歳に達する日前まで育児休業給付金の支給対象期間が延長できるようになることが決定しています。

しかし賛否両論ある

しかし、これに関しては賛否両論があります。育児休業が延長されれば、勿論経済的な負担は軽減されるでしょう。しかしその一方で「現在よりも更に女性だけに育児を押し付けることに繋がる」といった男女の役割の一層の固定化を懸念する声や企業が“長期間休業する可能性がある”女性の採用に慎重になる可能性がでること等を指摘する意見や、「育休の延長より保育園全入が保障される様にしてほしい」等、待機児童をなくす他の施策を求める声もあります。

マタハラを減らすには男性側の意識が重要

言わずもがな本来は、法の定めがなくともマタハラのような行為はするべきでありません。マタハラ問題を解決するためには女性自身はもちろん、男性社員もマタハラ関連の法律や実態について知っておくことが重要と言えるでしょう。
マタハラの問題は、デリケートな部分であり、自分だけで解決するのは困難です。第三者やサポート機関、弁護士などに相談して解決の道を探りましょう。

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