労働審判とは労働問題をスピーディに解決することができる制度!
労働審判とは、数か月の間で労働問題を適正に解決することのできる制度です。裁判官のほかに、労働審判委員として労使双方の代表を1名ずつ選出することができるため、実情に即した審理を行うことができます。しかし、審理が迅速に進む分、準備の負担も大きくなるため、労働審判を申立てる際には弁護士に協力を求めることをおすすめします。
労働審判とは労働問題の迅速・適正な解決を図るための制度
労働審判とは、労働者と会社との間で起きた労働問題を迅速かつ適正に解決できるようにするための裁判所の手続きのことを言います。平成18年4月の労働審判法の施行に伴い、労働審判制度が開始しました。まずは労働審判制度がどんな経緯でできたのか、また労働審判がどんな事案に対応しているのかについて見ていきましょう。
労働審判制度ができた経緯
平成12年に商法が改正され、会社分割制度が創設されました。これは、特定事業部門の子会社化や子会社間での事業整理を進めやすくするための制度ですが、このために企業再編が進むことになります。
また、平成11年に経済同友会が企業の人事労務管理について個々の成果や業績で評価するように提言。このことから、従業員個々人の能力や成果に応じて個別に労働契約を結び、成果や業績を報酬にも反映する「企業の人事労務管理の個別化」が進みました。
この2つの動きをうけて、労働関係訴訟や労働基準監督署などの行政機関への労働相談が急増。労働関係事件は各業界などの実情に関する専門的な知見が必要であり、労働者の生活に直結することから迅速な解決が望まれていました。
そして平成13年6月より国で労働問題の迅速な解決に向けた方策に関する審議が始まり、平成15年12月には労働審判制度の骨子が完成。平成16年に労働審判法が成立、翌々年の平成18年4月に労働審判法が施行となり、労働審判制度がスタートしました。
労働審判で解決できる労働トラブル
労働審判が適用となるのは、労働者の権利・利益にかかわる問題すべてです。具体的には以下のような紛争が労働審判制度での審理の対象となります。
- 賃金に関する紛争(残業代、給与、退職金、賞与未払い)
- 雇用に関する紛争(不当解雇、雇い止め、退職強要・退職勧奨)
なお、労働審判を申し立てることができるのは、労働者と会社との間での争いのみです。労働組合と会社との争いや、セクハラ・パワハラ問題での被害者と加害者の争いは労働審判制度の適用除外となります。ただし、会社がセクハラなどを放置していたために被害者が不利益を被った場合は、そのことを理由として労働審判を申立てることが可能です。
労働審判の特徴
労働審判は裁判所を利用する法的手続きではありますが、裁判ではないため、裁判とは違った特徴が多くあります。労働審判にはどのような特徴があるのかについて、詳しく見ていきましょう。
労働問題の迅速かつ適正な解決を図るために
労働審判は、労働者の地位や権利を早期に確定させるために行われる法的手続きのひとつです。そのため、迅速に審理を進めて老王問題を解決させられるような工夫が随所に見受けられます。
労働審判委員会で審理
労働審判委員会は裁判官1名と労働審判委員2名で構成されています。労働審判委員のうち、労働者側の代表として日本労働組合総連合会等から1名、会社側の代表として日本経済団体連合会等から1名が選出され、業界の実情に即した審理が行われます。
3回以内の期日で終了する
労働審判は、原則として3回以内の期日で終了となるため、ほんの数か月で労働問題が決着することとなります。裁判所によっては、双方の主張や争点の整理から証拠調べ、調停に持ち込むに至るまでを第1回期日で終えることもあります。そのため、年単位で時間がかかる裁判に比べると、圧倒的にスピーディな解決を図ることが可能です。
口頭で審理がなされる
裁判の場合は、訴状と答弁書を提出した後は被告と原告がそれぞれ書面を提示して意見を戦わせます。一方、労働審判では最初に申立書と答弁書が提出されて以降は、当事者双方による口頭での審理が進められるため、相手方の主張に対してその場で意見を述べ合うことができます。
権利判定機能がある
労働審判が申立てられると、まずは当事者双方の話し合いで調停(和解)に持っていきます。双方が折り合わない場合は、労働審判委員会が当事者双方の言い分をよく聞いた上で調停案を示しますが、その調停案に当事者が応じなければ審判を下すことになります。審判は確定判決と同一の効力があり、審判に基づく強制執行も可能です。
異議が出れば通常訴訟(本訴)へ移行
労働審判委員会が下した審判に納得がいかない場合、当事者は異議申立てをすることができます。そうなった場合は通常訴訟へ移行することとなります。訴訟になっても、労働審判を行っているときに証拠が出尽くしているため、審理は比較的早く進むことが多いと言えるでしょう。
労働審判を利用するメリット・デメリット
労働問題をスピード解決することができて、良いことづくめであるかのように見える労働審判ですが、デメリットも存在します。ここでは、労働審判のメリットとデメリットについて解説します。
労働審判のメリット
労働審判のメリットは、やはり長い年月を要する裁判と違って、迅速かつ当事者双方が納得する形で労働問題を解決できることでしょう。そういったメリットがあるため、労働審判の申立件数は制度開始から増え続け、平成21年度以降は毎年3000件を超えています。(※1)
①迅速に解決できる
裁判所が公表している資料(※2)によると、労働審判について平成26年の平均審理期間は79.5日、平成28年の平均審理期間は79.1日と、およそ2か月半で審理が終了していることがわかります。そのためスピーディな解決が図れると言えます。
②労働者・会社側双方に納得のいく結果が得られやすい
労働審判では、裁判官だけでなく、実業界の事情に精通していたり、労働問題に関する知識や経験が豊富であるような労働審判委員が実情に即した審理を行うため、労働者・会社側双方に納得のいくような結果が得られやすい傾向があります。
③厳密な証拠は求められない
裁判とは違い、労働審判ではあまり厳密な証拠は認められません。給与明細やタイムカードなどの資料がきちんとそろっていなくても、メモや日記帳などをもとに、柔軟に事実認定を行い、調停案や審判を下してもらうことができます。
労働審判のデメリット
労働審判は迅速な解決を求めるがゆえに、裁判に比べると準備が大変な上に当事者双方に一定のところで妥協を求められる傾向があります。また、審判の内容に納得がいかなければ結果的に長期間争うことになってしまうこともデメリットであると言えるでしょう。
①請求金額の額面通りの額をもらえることはあまりない
労働審判では、迅速に労働問題を解決するために、労働審判委員会から当事者双方に譲歩を求められることがあります。そのため、未払い賃金などで争う場合に、請求金額の額面通りの金額を獲得できることが難しい場合もあるでしょう。
②準備期間が短く、負担が大きい
労働審判はスピーディに審理が進むため、裁判に比べて非常に準備期間が短く、裁判所に提出する書面や証拠の準備を急いで行わなければならないことが多くあります。そのため、当事者には準備の負担が大きいと言えるでしょう。
③訴訟へ移行すると1からやり直し
当事者ががんばって書類や証拠を準備しても、当事者のどちらかが労働審判委員会の示す調停案や審判の内容に納得がいなければ、そのまま通常訴訟に移行することとなります。結果、迅速に労働問題を解決できるはずが長期間争わなければならなくなることもありえます。
労働審判の利用を検討するときは弁護士に相談を
労働審判を申立てることは独力でもできますが、普段の生活をしながら準備を進めるのは素人には難しいため、申立ての際には弁護士に相談することをおすすめします。弁護士に手続きなどを一任すれば、自分にとって有利な方向に審理を進めることができるでしょう。
関連記事一覧
- 労働審判の申立て費用|弁護士を利用すると金額はどのくらい?
2024.10.0917,956 view
- 労働審判の流れ|申立ての準備から調停・審判までの流れを知ろう
2024.10.0916,621 view
- 不当解雇を労働審判に訴えて得られる労働問題の解決方法とは?
2024.10.0914,312 view
- 労働審判は弁護士に相談すべき?
2024.10.0910,180 view
- 地位確認請求|訴訟・労働審判で問う不当解雇の「正当性」
2024.10.0929,029 view
- 労働審判は弁護士に相談すべき?
2024.10.095,051 view