労働審判は弁護士に相談すべき?
自分で和解交渉をしたいけれど会社が応じてくれないし訴訟は時間とお金がかかる…という場合に役立つのが労働審判。労働審判は訴訟と比べて非常に短時間で終わります。しかし、労働審判は短時間で終わるからこそのデメリットや注意点も忘れてはいけません。ここでは、労働審判の仕組みと弁護士を活用したい理由について解説します。
この記事で分かること
労働審判制度とは
労働審判制度を一言で説明すれば、労働紛争を解決するための調停です。調停は、お互いの合意による解決を目指す点で訴訟と異なり、裁判官を含む調停委員が間に入る点が和解交渉と異なります。
労働審判制度によって行う手調停のことを労働審判手続、合意がまとまらなかった場合に出される結論を労働審判と言います。労働審判は判決と同じ効力を持つため、一度受け入れると覆せません。
一方で労働審判が出される前に合意をした場合はそこで終わりとなります。
労働審判は労働審判委員会が間に入ります。労働審判委員会は裁判官と民間人(企業OBや法律の専門家など)で構成されています。構成員のことを労働審判員と言います。
労働審判のメリット
労働審判のメリットにはこのようなものがあります。状況に応じて利用しましょう。
手続きが早く3回以内で終了する。
労働審判手続は3回の調停によって行われます。およそ2週間に1回なので長くても2か月以内、和解で終わった場合はもっと早いです。
労働審判員が臨機応変に対応してくれる
労働審判は労働法に詳しい裁判官と労使問題の実情に詳しい労働審判員が間に入ってくれます。そのため訴訟に比べて柔軟な和解策を出しやすいです。
相手がいなくても進められる
和解や労働局によるあっせんは相手が応じなければ進められません。しかし、労働審判手続は申し立てれば相手がいなくても進めることができます。会社側は労働審判手続を無視すると著しく不利な労働審判を出されかねないため出席せざるを得ません。
労働審判は判決と同じ効力
労働審判は判決と同じ効力を持つため、一度受け入れたら会社側を拘束できます。強制執行が行える点が和解より優れています。
労働審判のデメリット
一方で労働審判にはこのようなデメリットがあるので、注意してください。
請求内容がすべて通りづらい
労働審判はわずか3回の審理で結論を出すことができますが、もしお互いの主張が食い違っても十分に話し合えないことがデメリットになります。そのため、請求金額を満額認められるケースは少ないです。
準備期間が短い
労働審判は準備期間が短く、1回1回の審理の間も2週間しかありません。事前にある程度の準備をしてから申し立てると良いです。
異議申し立てによって訴訟になる
労働審判は判決と同じ効力を持ちますが、異議を申し立てられる点も判決と同じです。労働審判を受け入れない場合は訴訟に移行します。
対応している裁判所が少ない
労働審判手続は全国の地方裁判所で行えます。ところが地方裁判所の支所はほぼ対応していません。物理的に裁判所が遠い場合は労働審判手続以外の方法が望ましいです。
労働審判に向いているトラブル
労働審判手続に向いているトラブルは、論点が分かりやすく、客観的な証拠を用意できるものです。要するに短時間で解決できるトラブルが労働審判手続に向いています。
未払い賃金や退職金の請求
未払い賃金や退職金の請求は、法律で決められた金額を請求すればよいだけなので論点が分かりやすいです。証拠もタイムカードや給与明細をはじめ働いていた記録が用いられるため客観的です。
証拠が少ない場合は労働審判で不利になるかもしれない
逆に言えば、未払い賃金や退職金の請求について証拠が少なければ労働審判をお勧めできません。証拠に客観性がない場合も労働者に不利な結論となりかねないので和解交渉や訴訟を選択したほうが良いです。
解雇や雇止めの回避
解雇や雇止めについても、法律と契約書、就業規則が大きな証拠になります。また、訴訟であれば解雇の有効・無効を争いますが労働審判なら退職を認めたうえで和解金による解決も可能です。
整理解雇は労働審判に向いていない
一方で整理解雇については労働審判で争うことがおすすめできません。その理由は次で説明します。
労働審判に向いていないトラブル
一方で労働審判に向いていないトラブルは、複雑で時間をかけた審理が必要なものです。証拠が主観的で、結論を出しづらいものはかえって不利益な結論を押し付けられる場合があります。
パワハラ・セクハラ
パワハラやセクハラは個人対個人の問題です。よって、労働審判での処理がふさわしくありません。一般的な民事事件だから、民事調停を用いた解決が考えられます。ただ、会社ぐるみでハラスメントを行っていた場合やハラスメントを野放しにしていた場合は労働審判で会社と話し合うこともできるでしょう。
慰謝料の難しさ
そもそも、慰謝料はどんな損害についていくら支払うべきか法によって定められていません。よって判例が有力な証拠になるのですがやはり具体的な額の算定や損害の程度には主観が入ってしまいます。
自分が傷ついたこと、それが不法行為責任に問うことができることを正しく証明したいなら弁護士に頼ったほうが良いです。
就業規則の不利益変更
就業規則の不利益変更は労働協約の範囲内が基本ですが、労働協約の半外でも合理性があれば認められています。ところが、合理性の判断は判例によって培われたものでその基準も抽象的です。
こちらもケースバイケースでの検討が求められるため労働審判での解決に向いていません。
整理解雇
整理解雇は、人員を減らす合理性や人選のふさわしさなどが争点となります。これもたった3回の審理で正しさを確かめることは難しいです。整理解雇の場合は十分な時間をかけて相手方と争った方が望ましい結論につながりやすいです。
労働審判には弁護士への相談が不可欠?
残業代の請求や不当解雇の撤回をするうえでは弁護士への相談がおすすめです。しかし、必ずしも弁護士が必要とは限りません。
労働審判をする場合は弁護士へ相談が不可欠なのでしょうか?
自力でも労働審判申し立ては可能
労働審判は本人だけで申し立てられるので弁護士への申し立てはしなくても構いません。ただ、労働審判は事前の準備が必要ですから弁護士の力を借りたほうが良いです。また、労働審判員は仲立ちする存在でありながら労働者の味方とは限りません。あくまでも中立を保っています。
よって、労働者が一人で心もとないと感じるなら弁護士とともに出席したほうが有利な結論に持ち込めます。ちなみに、弁護士以外の資格を持っている人では労働審判に同席できません。
会社側に異議申し立てされると訴訟に突入する
弁護士に頼んでおくことが望ましい理由は訴訟対策です。労働審判が出されても異議申し立てをすれば訴訟に移行できます。しかも労働審判手続で争った内容は訴訟で参考にされません。
訴訟は労働審判と違い法律や判例についての厳密な理解が問われます。本人訴訟という手もありますが、法を知らない一般人がまともに裁判をするのは無理があります。訴訟になってから弁護士に頼むくらいならあらかじめ弁護士に相談しておいた方が無難です。
労働審判の検討時に弁護士へ相談するメリット
労働審判を検討している時点で弁護士に相談するメリットはこのようなものがあります。場合によっては労働審判をせずに解決できる場合もあります。
トラブル内容に適した解決法を検討できる
労働紛争に手慣れた弁護士は適切な解決方法を選択できます。本人は労働審判が望ましいと思っていた場合でも和解交渉で解決する場合や、逆に訴訟をしなければ解決しない場合もあります。
どんな手続きにもメリットとデメリットがあるので、トラブルの内容や労働者の状況からケースバイケースでトラブル解決の手段が決まります。
新たな争点が発覚することも
労働者が弁護士に相談するときはたいてい1つ、多くて2つの問題について相談したいと考えています。しかし、労働者の状況を聞いてみると他にも問題が明らかになることや請求できる金額が増えることが良くあります。
例えば、このようなことがあります。
- 不当解雇の撤回を相談したところパワハラやセクハラの実態が分かる場合
- 残業代の相談をしたら、割り増し手当の未払いも発覚する場合
- 社会保険や雇用保険の未加入が発覚する場合
自分の身に起こったことは些細であっても弁護士に相談してください。
代理人として会社側との交渉を依頼できる
弁護士は労働審判について本人の代理ができます。つまり、会社の人と直接言い争いをしなくて済みます。気が弱い人や会社の人と会うのが面倒という人はぜひ弁護士を活用したいです。本人が出頭する場合でも弁護士が同席できます。
セクハラやパワハラの問題で民事調停を検討している場合は会社の人と会うだけでトラウマが発症してしまうケースがあります。ぜひとも弁護士に代理してもらいましょう。
訴訟へ発展しても対応が可能
弁護士は訴訟の代理人となることができるので労働審判から訴訟に発展した場合も対応が可能です。労働審判でも訴訟でも本人を代理できるのは弁護士だけですから手厚いサポートを求めるなら弁護士への相談が効果的です。
書類作成のサポートだけで良いという場合は他の士業の方も選択肢になります。
労働審判によるトラブル解決なら弁護士に相談を
労働審判は迅速に労働紛争を終わらせられる手続きですが、手続きの簡単さは深い議論や追求すべき可能性を捨てることにつながります。「訴訟が面倒だから労働審判にしよう」という安易な考えは絶対にやめてください。労働審判はメリットが最大限生かせる形で利用するため、必ず弁護士の判断をもとに申し立てを判断しましょう。
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