労災事故で会社に慰謝料は請求できる?

2022年8月17日8,807 view

仕事をしている時や通勤をしている時に起きた事故である労災があった時等労働者は労災保険給付を受けることができます。では、慰謝料はどうでしょう?精神的な疾病について補償をしてくれる労災は慰謝料請求にも対応しているのでしょうか?

慰謝料が労災で賄われないとしたらどのような請求方法があるのでしょうか?こちらでは労災と慰謝料についてわかりやすく解説します。

慰謝料は労災の対象外

労災事故があった時は労働基準監督署に申請すれば治療費や休業中の賃金など様々な補償を受けることができます。しかし、慰謝料については請求できません。

慰謝料とは精神的苦痛に対する損害賠償で、労災で補償される対象外だからです。労災保険の意義はあくまで業務や通勤による負傷・疾病・死亡についての補償であって精神的損害はその上乗せと言える部分です。

ただ、そうであっても労災の補償は以下のように手厚いです。

  • 療養補償給付
  • 障害補償給付
  • 休業補償給付
  • 遺族補償給付
  • 介護補償給付
  • 傷病補償年金
  • 二次検診給付

労災では慰謝料は払ってもらえないが精神病の治療費は払ってもらえる

「労災で慰謝料は払ってもらえない」と聞けば精神的な分野について労災を頼れないというイメージを持ってしまうでしょう。しかし、そうではありません。あくまで慰謝料という不明確かつ裁判官の裁量で決まるものが労災の対象外というだけで「精神の疾病」が認められればその治療費や休業補償給付は労災の対象となります。

例えば激務でうつ病になってしまった時、セクハラでPTSDになってしまった時、過労死や過労自殺があったとき、それらが業務と因果関係のあるものなら治療費や遺族年金などが身体への損害と同じように支給されます。

精神障害について労災認定を受けるためにはこのような要件が求められます。

  • 労災認定となる疾病が認められる
  • 業務以外の心理負担による発病ではないこと
  • 精神障害が発症するおおむね6ヶ月前から強い心理的負荷があったこと

治療費については病院が算定してくれるし、休業補償や傷病年金、遺族年金なども労働者の給与から算定することができます。

ただ「とても嫌なことがあった」というだけでは労災はおりないでしょう。

労災事故の慰謝料請求は何が法的根拠になるの?

慰謝料は労災の対象外なので、労働基準監督署に訴えたところでどうにもなりません。しかし、精神的損害を被ったならば慰謝料請求の可能性は残ります。

つまり、「労災でなくても損害賠償は請求できる」のです。

例えば交通事故。通勤中に交通事故に遭ったなら通勤災害という労災になりますが、それ以外の時に轢かれたとしても損害賠償請求はできますね。そうでなければ子供や年金生活者が交通事故に遭っても一切の補償を受けられなくなります。

ただ、労災が労災申請によって認められるのに対し慰謝料は民法上の損害賠償請求によって認められます。

慰謝料の根拠は判例です

交通事故などで故意または過失によって相手に損害を与えた場合は不法行為という概念で処理されます。不法行為を学ぶのは非常に難しいので、とりあえずは契約を原因としない損害という理解で構いません。労災事故について会社に原因がある場合は、会社が濃いまたは過失によって労働者に損害を与えたことになります。よって、会社に対して精神的損害を根拠に不法行為責任を追求できるはずです。

ところが、不法行為責任を追及するためには被害者が故意または過失があったことを証明しなくてはいけません。これは会社対労働者という格差において非常に不利と言えます。

そこで労災事故における慰謝料請求では労働者に対する安全配慮義務を違反したという「債務不履行」を根拠とします。

債務不履行は不法行為と違って精神的損害に対する賠償が条文に書かれていませんが、判例によって債務不履行の場合も慰謝料請求が認められています。例えば婚約破棄の損害賠償は精神的損害によるものが大きいですね。

参考:仕事中や通勤中の事故で労災保険を使う場合、細かい状況の把握や証拠を残しておきましょう

労災事故の慰謝料は3種類

労災事故で認められるであろう慰謝料は次の3つです。

  • 入院慰謝料
  • 後遺障害慰謝料
  • 死亡慰謝料

この3つから見てもわかるように慰謝料は実の損害にプラスされるものです。なんの被害もないのに慰謝料のみ請求というのは難しいです。

慰謝料の精神的損害以外の側面

慰謝料は精神的損害に対する補償ですが、実際のところ慰謝料の値段は何をもとに判断すべきか不明確だし、民事訴訟においても裁判官の裁量によって決められます。どうやら、慰謝料は実際の損害賠償だけ支払われても十分な救済が受けられない場合やそもそも損害の立証に限界がある時の救済という側面を持っているようです。

会社に労災事故の慰謝料を請求する方法

労災事故での損失は労働基準監督署に労災申請すればある程度補償してもらえます。そして、慰謝料については会社に請求します。慰謝料を会社に請求するときは残業代請求と同じく和解交渉が主となりますが金額を算定しづらい慰謝料を請求する場合は高い交渉力が求められます。

弁護士と払ってくれそうな金額を決める

慰謝料請求をするときは弁護士の協力が必要不可欠です。なぜなら慰謝料を算定するための根拠が乏しいからです。弁護士は実際に受けた被害とこれまでの判例を元に妥当と言える慰謝料の請求額を計算することができます。

そもそも本当に支払うべき損害賠償の金額は裁判を起こして見ないとわかりませんが、相手がこちらの満足いくだけのお金を払ってくれるなら無理に訴訟する必要が無くなります。

慰謝料以外にも損害賠償請求は可能

慰謝料を請求する上で、他の損害賠償も忘れてはいけません。業務と関係なく暴力を受けた場合の治療費や。休業補償給付金で支払われない賃金の残り20%など、労災の対象外で請求できるものを見逃さないよう注意してください。

労災はあくまで保健給付であって、会社に対する賠償請求とは違います。

内容証明郵便で請求書を送る

慰謝料やその他賠償されるべき金額が計算できたら、請求書を内容証明郵便で送ります。内容証明郵便は送達記録が残るため企業が無視できないメリットがあります。この請求に納得してもらえばここで解決です。

会社に慰謝料が認められるのは「労働者の安全を守らなかったから」です。「原因となった人間に訴えろ」という反論は通りません。セクハラ・パワハラについて黙認していたならなおさら悪質です。

和解交渉をする

内容証明郵便だけを送って解決しない場合は会社の人(社長や人事部長など、会社を代理できるクラスの人)と話し合いをします。慰謝料の根拠がしっかりしていれば、相手に訴訟のリスクをアピールすることができる一方、こちらの勝算が低ければ相手にやり込められてしまうこともあります。

慰謝料が発生するほどの事態になっているとき、会社の人と顔をあわせるのは苦痛だと思います。そんな時にも弁護士はあなたの代わりに交渉を代理してくれます。

訴訟をする

話し合いではどうにもならないなら訴訟をします。訴訟は決着がつく反面費用と時間がかかるので、多少金額が低くても和解で解決することをお勧めします。著しく低い金額を突きつけられた場合は裁判を起こした方が利益になるでしょう。

慰謝料の時効は10年

労災事故の慰謝料は債務不履行を用いて訴えるため時効が10年と考えられます。しかし不法行為についての損害賠償であれば時効が3年となるため悠長に構えない方が良いでしょう。また、労災についても時効が設定されているので労災に関わるような精神損害を受けたときは早急に労災申請をしてください。

労災事故の慰謝料請求で迷ったら弁護士に相談を

慰謝料はどんなことにも請求できそうな一方で何を根拠に請求したら良いのかよくわからない一面も持っています。慰謝料には一応の相場があるものの、実際のところはケースバイケースです。交渉力を高めるためにも労働法のプロである弁護士の力を借りましょう。交渉や訴訟で弁護士が代理してくれれば会社と関わることなく慰謝料を取り戻せます。

もちろん、慰謝料請求や労災申請は退職後でも可能です。

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