労災認定とは?認定の基準、補償内容など労働者のための基礎知識

2021年7月2日6,012 view

仕事中に起きた事故や業務によって引き起こされた病気が労災と認定されれば、様々な補償をしてもらえます。しかし、労災は必ずしも認められるわけではなく補償してもらうには正しく申請する必要があることも知っておかなくてはいけません。

こちらでは労災が認定される基準と各種補償について簡単に紹介します。

労災は認定されて初めて補償される

労災とは労働災害のことですが、労災認定と関わるのは労働者災害補償保険法です。労働者災害補償保険法によると、労災認定を受けられるケースに仕事中の保険事故だけでなく通勤中に起こったものも含まれることがわかります。

しかし、労災というからには労働との明確な関わりを持っていなければいけません。もし、業務時間中の怪我だったとしても全く必要のないことが原因なら労災は認められないのです。

ブラック企業の場合は労働者に圧力をかけて労災申請をさせない、労災であったという証拠を隠そうとすることがあります。ひどい例では産業医と結託して労災隠し+休職や退職に追い込むこともあるようですから、自分で労災の証拠を集めておくことが大事です。

怪我や疾病があった時は軽い状態でも必ず労災指定病院へ行くようにしてください。

業務災害における労災認定基準

まず労災として認定されるのが業務災害です。業務災害とは読んで字のごとく業務によって生じた怪我や病気、障害、死亡事故です。

ここでいう業務とは使用者の指揮命令にあることを意味するため出張中の事故や、強制参加のレクリエーション中の怪我なども労災になります。

業務災害として認められるためにはこの2つのいずれかに該当しなくてはいけません。

業務遂行性

業務遂行性とは業務あるいは業務に付随する行為をしていると認められる要素のことです基本的には指揮命令下にある状態という理解で構いません。そのため、先ほど説明したように飲み会や運動会、社員研修も強制であれば業務遂行性が認められます。

また、業務中にトイレへ行く場合などもそれに付随する行為として業務遂行性が認められます。

業務を遂行さえしていれば場所は問いません。出張や外回りでも労災は発生します。逆に言えば指揮命令下にない休憩中の事故は労災に問われないことが一般的です。その例外は会社やその施設に欠陥があった場合です。

業務起因性

業務起因性とは仕事が原因と認められる要素やその度合いのことです、業務をしていたことと事故が起きたことについて因果関係がなくてはいけません。

例えば工場のプレス機に指を挟まれた、重い資料を運んでいるときに転倒してしまった、建築現場で足場を踏み外してしまった時はまさしく業務に起因した事故と言えます。

労災は身体的なものだけでなく精神面に対する疾病についても認定されます。例えば激務の環境で過労や精神障害に陥った場合は業務災害として認められるでしょう。状態的にパワハラやセクハラが行われている場合もそれで精神を患ったなら労災認定の可能性が高いです。

一方でどれだけの大事故にあったとしても業務起因性がなければ労災が認められません。たとえば外回りの営業をしている時にパチンコ屋へ寄ってそこで怪我をしたなら労災になりません。

業務起因性は根拠が大切

いうまでもなく労災認定をしてもらうためには根拠が必要です。中には労災認定が迷われるケースもあるので会社や労働基準監督署の判断に納得いかないときは弁護士に相談して見ましょう。

例えば、外での作業が続いて熱中症や風邪になってしまったときです。本当に業務起因性がある場合もあれば元々調子が悪かったり体が弱かったりすることが原因かもしれません。

私たちの生活には様々なリスクがあり、いつでも健康とは限らないのが現状です。業務起因性を立証するためには他の原因では考えづらいことや、事業者がそのリスクを知っていたことなどが問われるようです。

通勤災害における労災認定基準

会社勤めの場合は仕事のために通勤しなくてはいけません。労災が業務による災害なのだとしたら通勤中に起こった事故についても労災認定がされるべきでしょう。

通勤災害は昭和48年の法改正によって認められた概念です。

通勤災害には通勤にかかるリスクと災害の相当因果関係が求められます。例えば通勤災害として交通事故が労災認定されるのは、常に交通事故のリスクがあることを意味します。

縁起でもない話ですが、天変地異に巻き込まれたり、通り魔に出くわしたりした場合は労災と認められません。そういったリスクは本来通勤に予期し得ないものだからです。

知って起きたい通勤災害の認定基準

通勤災害が認められる”通勤”については労働災害補償保険法第7条に説明されています。

就業に関し合理的な経路と方法を用いて移動したこと

通勤は出退勤という理解で構いませんが、一時帰宅や早退の場合も就業に関する移動と認められます。

もちろん、就業に関さない移動中の事故は認められません。例えば用もなく会社の方向に向かっていた場合や、労働組合などの会議で会社に長居してから退勤するときに怪我をしても労災は降りないでしょう。

通勤災害が労災認定されるからとわざわざ事故に遭いやすい経路や方法を用いることは許されません。経路を変える理由として認められるケースは厚生労働省令で決まっています。例えば日用品の購入や介護などが挙げられます。

通勤と認められる移動

通勤と認められる移動はこの3つです。これ以外に業務で必要な移動をしているとき労災事故に遭ったら、業務災害として扱われます。

  • 住居と就業場所との往復
  • 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
  • 住居と就業場所の往復に先行し、又は後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)

住居と就業場所との往復については特に説明は不要でしょう。

就業場所と他の就業場所への移動とは外回りで直帰する場合や派遣労働者が勤務先と派遣会社を移動する場合などが該当します。

最後の要素については介護のために通勤前に実家に立ち寄るケースなどが該当します。通勤の一部と言えるような反復性が求められます。

労災認定で受け取れる補償は個別に申請が必要

被った怪我や病気が労災だと認定されれば補償金をもらえます。ただし、労災の保険給付にはいくつか種類があるので該当するものを申請しましょう。

労災の申請先は労働基準監督署です。

労災認定で受け取れる補償はこちら

労災認定によって受け取れる補償はこちらです。

療養給付

労災事故によって必要な治療費を受け取ることができます。療養給付は治療費を全て負担しますから、労働者の払う治療費はゼロになります。

ただし、療養給付を受けられるのは治療に効果がある場合です。全快しなくてもこれ以上良くならないと判断された場合は療養給付が打ち切りになります。

傷病年金

もし、きわめて重い怪我や疾病をした場合は傷病等級に沿った傷病年金が給付されます。事故から1年6ヶ月が経っても治療が続く場合ということからもその重さが伺えます。

傷病年金は申請なしで給付されます。

休業補償給付

労働者の損失は療養日だけではありません。働けなくなったことによって給与が減ってしまうからです。そこで労災保険は休業した日数に応じて保険給付を認めています。休業が3日間であれば企業負担となることから、労災保険で賄われるのは4日目以降です。

休業補償給付は本来の給与の8割と決められています。

障害補償給付

療養給付は症状が固定すれば給付が打ち切られますが、それでも後遺症が残ってしまう場合は障害補償給付を受け取ることができます。後遺障害等級に沿って障害年金や障害一時金、障害特別市給金を受け取ることができます。

軽い事故だと思っても後々後遺症が明らかになるケースはよくあります。些細な事故でもきちんと労災指定病院に行き、診断書をもらってください。

介護補償給付

後遺障害によって介護が必要な場合は介護補償給付を受け取れるかもしれません。ただ、介護補償給付を受け取れるのは現に介護を受けていて、かつ親族や民間の介護サービスを利用している場合です。施設入所している場合は十分なサービスを受けているとみなされ介護補償給付の対象になりません。

遺族補償給付

労災事故によって労働者が死亡した場合、遺族補償給付が遺族に支給されます。遺族年金、遺族一時金、遺族特別年金の3種類があります。老齢年金や企業年金とは別の保険ですから併せて受け取ることが可能です。

葬祭料も労災保険でまかなえますが、遺族補償給付と別の用紙で申請する必要があります。

二次健康診断等給付

労働者が健康診断で問題ありとされた場合は二次健康診断を受けるべきですが、この二次健康診断のお金は労災保険から給付されます。

労災認定は業務との関係性が鍵となる。立証に困ったら弁護士へ相談を

労災はあくまでも仕事による怪我や病気が対象となります。もし、仕事中であっても業務との因果関係がない、業務を逸脱した行為だったとされてしまえば労災認定がされず、補償が受け取れません。

労災保険で受け取れる給付はかなり高額なので労災が降りるか降りないかでは雲泥の差があります。企業が非協力的な場合や労働基準監督署の決定に不満がある場合は弁護士へ相談しましょう。

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