リストラによる整理解雇について知っておくべきこと
経営難による人員削減、「整理解雇」。整理解雇を告げられたら受け入れるしかないと思っている人もいますが、本来整理解雇は簡単には行えるものではありません。不当な場合は解雇の撤回請求等ができます。しかし労働者側の深い理解が無いと行動に出ることはできません。そこで今回は、整理解雇について解説します。
整理解雇(リストラ)は簡単にはできない
整理解雇(リストラ)とは企業の経営難や部門の縮小、及び閉鎖等により人員を解雇することで、近年不当に行われるケースが非常に増えていて問題となっています。まずは整理解雇とは何か、具体的に解説していきます。
整理解雇(リストラ)とは
リストラとは本来「restructuring(再構築)」の意味で使われ、企業再編や吸収合併等、経営革新の一手法を指す言葉でしたが、次第に人員削減を示すようになり、今では整理解雇のみを表すワードとして広く認知されるようになりました。
使用者側の事情による解雇
勤務先を退職する場合でもその理由は様々あります。労働者の意志による普通解雇や就業規則に違反したことによる解雇、定年退職といったものでは労働者側に原因がありますが、整理解雇は使用者側の事情に起因するものである点が最も大きな違いの一つです。
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整理解雇には厳しい制限が課される
終身雇用制や年功序列型賃金を前提としてきた日本において、職を奪われることは生活の基盤を失うことを意味します。しかも整理解雇は、就業規則や服務規程に違反したことで解雇される場合や悪質な行ためがあって解雇される場合と異なり、あくまでも使用者側の都合での解雇です。それゆえ、使用者が整理解雇を実施するためには厳しい要件を満たさなくてはならないことになっています。
そもそも解雇は簡単にはできない
解雇とは使用者側が一方的に労働契約を解除する行ためです。労働者が自分から辞める退職は自由にできますが、解雇という行ためはそもそも簡単にはできない決まりになっています。
解雇権濫用の法理の存在
労働契約法は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする(16条)」とのルールを定めています。これが「解雇権濫用の法理」と呼ばれる考え方です。
判例によって作られた具体的な基準が存在する
この条文は平成15年、判例等の影響により労働基準法第18条の2に追加されたものが平成20年に労働契約法に移ったもので、規定された解雇ルールは抽象的ですが、これまでの多くの判例によって具体的な基準が形作られています。整理解雇の要件を次章で詳しく見ていきましょう。
整理解雇が認められる要件とは
労働者にとって整理解雇が行われることは自分の責任の及ばないところで労働契約を打ち切られ、労働による収入が途絶えることです。いくら不況の中で企業の存続を図るためであっても、そう簡単に整理解雇を認めるわけにはいきません。そこで整理解雇が有効となるためには、一定の要件を満たす必要があるのです。
整理解雇の有効性の判断基準は?
単に、余剰人員の削減という理由で整理解雇を行うと、もし争うことになった場合、解雇権濫用で無効になります。
一般的に整理解雇が認められるためには「人員整理の必要性」「解雇回復努力義務の履行」「人選の合理性」「労働者への説明・協議」の4要件が必要です。ここではそれぞれを判例と共に詳しく解説していきます。
人員整理の必要性
最も重要な“第一要件”となるのが、「人員整理の必要性」です。これは会社の経営状態が整理解雇をしなければならない程に悪化しているか否か、即ち経営不振の程度の判断ですが、例えば企業が倒産寸前に追い込まれていて、人員整理をしなければ企業閉鎖以外にない場合(最高裁判決昭和29年1月21日、東京高裁判決昭和44年3月10日)以外は認めないとするものが多くなっています。
解雇回復努力義務の履行
会社には社員の解雇を防ぐ義務があります。判例では、整理解雇をする前に残業代の廃止や経費削減、役員報酬の削減、配置転換、新規採用の中止、賃金引下げ、希望退職者の募集等、解雇を防ぐための努力が行われなければならないとしています。ただし、会社が再生する上で必要な投資や人材の確保まで制限されるわけではありません。
人選の合理性
整理解雇対象者を決定する際は、その人選が合理的かつ公平であることが求められます。どのような人を選べば合理的なのかは企業によって異なりますが、一般的に解雇対象となる労働者の順序については、パートタイマー(アルバイト)、嘱託社員、期間工、常用的契約社員、正社員の順(最高裁判決昭和61年12月日)に、また人事評価については高い者より低い者を優先的に解雇しなければならない等、労働者の雇用形態や企業再建に向けての寄与の期待度合、及び解雇の事実が労働者の生活に及ぼす影響等を加味した上で会社が決定することになります。
手続きの妥当性
経営者が労働者や労働組合に対し、整理解雇実施の理由等について十分に説明をしたかが問われます。企業は整理解雇に踏み切る場合一方的に行うのではなく、労働者とキチンと話し合いをしてから行わなければならないのです。これは非常に重要な要件で、他の3要件が満たされていても、話し合いの場が設けられていなかったり、労働者の納得を得るステップを経ていない整理解雇は無効になることがあります。
整理解雇に関して知っておきたいこと
では、整理解雇が執行された、あるいはされそうになったとき、私達はどの様な行動を取れるのでしょうか。ここでは対処方法等、整理解雇に関して知っておくべき事柄を紹介します。
整理解雇に応じる義務はない
リストラを言い渡されたからと言って必ずしも応じる必要はありません。応じたくない場合は弁護士等専門家や労働組合に相談し、こじれる様なら法的手段を講じましょう。
整理解雇が不当と感じたら専門機関に相談
前述の整理解雇の有効性の判断基準と照らし合わせて、不当性が疑われたら弁護士や労働組合に相談し、解雇の撤回や不法行ためにおける賠償金等の請求手続きをすることができます。
それでも解決しなければ訴訟や労働審判へ
それでも依然として会社側が応じない場合、訴訟、若しくは労働審判に移りましょう。労働審判とは解雇や給料未払等の労働トラブルを解決するために、2004年6月に導入されたものです。裁判よりもスピーディな解決が期待でき、裁判外紛争解決手続き(ADR)の一種で近年注目されています。
整理解雇にどう立ち向かうか
整理解雇を行うには30日前までに整理解雇通知を出さなければならない決まりになっていますが、整理解雇に立ち向かうにはその通知が来る前の段階から先んじて行動を起こしておくことが大切と言えます。
早め早めに団体で行動しよう
整理解雇に先立って、希望退職者の募集が行われるのが通常です。そのため希望退職者募集が始まった段階で、整理解雇が実施されることを想定して行動するべきと言えます。また人員削減がある程度の規模で行われる場合、それは個々の労働者の問題ではなく会社の労働者全体の問題です。従って社内に労働組合がある場合は労働組合として対応することが大切ですし、労働組合がない場合にも集団で行動することが重要です。個々の労働者が声を挙げたところで会社に押し切られるのは目に見えていますが、多くの労働者の反発とあらば会社側としてもそれを無視することはできなくなり、それなりの対応をせざるを得なくなります。
“先取り”して動く
労働組合として対処する場合には団体交渉で経営資料を入手し、経営状態の分析を行いましょう。この際、煩雑な部分が出てくることが予想されますが公認会計士や税理士等、専門家の協力を得るとスムーズに進みます。また、新規採用の有無や残業代の実態の把握、不必要な経費はないか等を把握しておくことも必要です。このような情報を収集することは、整理解雇実施前の交渉に有用であることに加え、整理解雇がされた場合に、その有効性を否定し、法的手段を講じる上でも重要な意味を持ちます。これらの情報を駆使することで、整理解雇の4要件を満たしていないことを立証できる場合があります。
整理解雇の退職金
「整理解雇が確定した場合、退職金は出るのか」ここは多くの人が気になるポイントでしょう。最後に整理解雇での退職金はどうなっているのか解説します。
退職金は支給される
経営難で解雇されたのだからお金は貰えないのでは、と感じる人もいるでしょう。しかし整理解雇の場合、懲戒解雇や就業規則違反による解雇と異なり、全面的に会社側の都合となります。また、退職することになった労働者はその後しばらくの間は収入が途絶えることになる上、再就職先を見つけるにも何かと費用が掛かります。従って整理解雇の場合、退職金は支給されることになります。
退職金の額は、役職や学歴、会社規模等によっても上下するものの、基本的には勤続年数に応じて支給されることが多いようです。
今や他人事ではない整理解雇に立ち向かうために
整理解雇は決して他人ごとではありません。しかし、法的知識を身に着けて社員で束になってかかれば整理解雇を未然に防げるケースもあります。早め早めの行動で身を守りましょう。場合によっては不当解雇として訴えることがでけるケースもあるので、整理解雇に納得がいかないときは、労働問題に強い弁護士に相談するとよいでしょう。
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