美容師の残業代請求|カット練習は残業?美容室のサービス残業問題

2020年6月19日14,059 view

美容師のカット練習はお店で通用する技術を身に着けるために欠かせませんし、カット練習を率先して行えば他のスタッフを追い抜けることがあるでしょう。しかし、お店を閉めたあと夜遅くまで続くカット練習は残業と言えないでしょうか?もし、残業時間として認められるなら高額の残業代請求ができるかもしれません。

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美容師のカット練習は残業代請求の対象になりえます

美容室で夜遅くまで行われるカット練習は残業代請求の対象となりえます。
理由はカット練習が労働時間になる可能性が高いからです。

美容師の労働時間を美容室の営業時間と一緒だと考えている人は多くいますが、よくよく考えれば美容師は開店前から色々な準備をしていますし閉店後だって後片付けがあります。つまり、お店を閉めたからと言って労働が終わるわけではいけません。

問題はカット練習が労働時間と認められるかどうかです。

労働時間とは指揮命令下にある時間のこと

お客さんの髪を切っている時間や接客時間、お店の運営のために準備をする時間は言うまでもなく労働です。(もし準備時間を労働に含めていなければその分も残業となります)

一方でカット練習を労働と呼ぶことについては違和感があると思います。確かにカット練習は仕事をしていると言い難いし、カットの技術が足りないから行うものですね。美容室としても技術のない状態で雇っているわけですからむしろ場所と設備を貸してあげているくらいの感覚かもしれません。

しかし、技術がなくても人から教わっていても「指揮命令下」にあるならそれは労働です。具体的にカット練習を命令されていたことやカット練習が仕事の一環に含まれていたことなどが根拠になります。

よくよく考えてみれば、美容師以外の仕事では「何もできない状態で仕事をせずに給与をもらえる」ことが当たり前です。それは研修と呼ばれています。研修は技術やマナーを学んでいるだけなのにお金をもらえています。美容室の管理下で行うカット練習も同じです。

事実上の強制も労働になります

つまり、美容室の指揮命令のもとで行われていたカット練習は残業代請求の対象となります。逆に自発的に居残ってカット練習をしていた場合は残業と認められません。

しかし「命令されていないけどカット練習をしなければいけない事情があった」なら話が変わります。例えば「新人はカット練習をするのが当然」という常識が通っていたことや「カット練習をしなければ担当をさせない、給与を上げない」といった不利益がある場合です。これは事実上の強制ですね。正しくは黙示の残業命令と言います。

指揮命令下にあるカット練習とは何か

指揮命令によって行われるカット練習として認められやすいのは、必要最低限の技術を身に着けるためのカット練習です。必要最低限の技術がないことには美容師として働けないからです。

逆に残業代請求の対象になりづらいのが十分ある技術をより高めるためのカット練習です。特に美容室が必要以上の練習をしなくて良いと言ったのに居残った場合は自発的なカット練習と判断されます。

仕事を持ち帰っても残業

美容室に残れば残業ということで家でのカット練習を義務付ける場合もあります。これも事実上の労働と認められるなら残業代請求の対象となります。

美容師のサービス残業が起こりやすい状況

美容師のサービス残業が起こりやすい理由はカット練習への認識だけではありません。他にもこのような理由で美容室は美容師の残業代請求を認めようとしません。

こちらで紹介する要素は残業代請求において徹底的に見極めるポイントです。

各種手当で残業代を相殺しようとする

美容師の残業代が不十分な理由として各種手当による相殺があります。これは残業代を他の手当ての中に含めていることにして結果的に給与を安く済ませる手口です。例えば役職手当や業績手当、技術手当、あるいはボーナスで残業代を賄うケースが見られます。

しかし、残業代は労働時間に応じて支払われるお金ですから事前に「残業代は〇〇円」と決めることが不可能です。

残業代と各種手当が相殺されると契約書に書かれている場合でさえ全額の残業代請求ができる可能性があります。

店長=管理監督者と勘違いしないでください

店長クラスになると管理監督者だから残業代を支払えないと言われる事があります。ところが労働基準法における管理監督者とは以下のことが条件と考えられています。(判例より)

  • 会社の経営にかかわっている
  • 社員より明らかに高収入である
  • 労働時間を管理されない

雇われ店長の場合は会社の経営にかかわっていないことや他のスタッフと大して給与が変わらないことなどから管理監督者と言えません。このような問題は飲食店やコンビニでも起きています。管理職と管理監督者は全く違う立場の人間です。

面借り契約なのに仕事を管理されている

面借り契約は、美容室が美容師にスペースを1台以上貸す契約で美容師の扱いはあくまで個人事業主となります。つまり残業代を請求できません。

ただし、労働基準法上の雇用にあたるかどうかは形式でなく実態を見て決めます。面借り契約でもこのように指揮命令と呼べるものがあれば残業代も労働者と同じく請求できます。

  • 労働時間が決まっていた
  • 働く日を決める事由が無かった
  • 美容室の責任者に細かい業務命令を受けていた

面借り契約って本当にお得なの?

余談ですが面借り契約は他の業界に比べて場所代が高い傾向にあります。もし、面借り契約そのものについてのトラブルがあった場合にも弁護士に頼ることがおすすめです。

美容師が残業代請求するために必要なこと

カット練習としてたくさんの残業をしてきた美容師はそれだけたくさんの残業代を取り戻すことができます。お金を請求するのは若干の後ろめたさがあるでしょう。でも残業代は本来もらえていたはずのお金です。しっかり請求してください。

労働時間を計算しなおす

美容師の場合は普通の会社員と違ってどこからが始業時間でどこが終業時間となるのかが分かりづらいです。カット練習を残業に含めるのは当然ですが美容室に着いてからの準備時間も労働時間に加えてください。制服に着替えることが必須の場合は着替えにかかった時間も含みます。

そして、カット練習を行わなかった日でも閉店後の片づけや後始末の時間を労働時間に含めます。美容室の命令で行っていることは原則として労働時間になります。

カット練習の時間を入れなくてもかなりの労働時間になっていることもあります。

カット練習時間の計算方法

カット練習時間はカット練習の片づけが終わってお店を出られる状態になるまでを計算してください。そこまでは必要な業務だからです。

カット練習の始まりについては他の業務と一つながりなら特に考えなくてOKです。カット練習と通常業務の間に明らかな「休憩」があった場合は休憩の終わった時間から計算します。

残業代を計算する

残業代の計算は残業時間に月給を1時間あたりに換算したものを掛け合わせます。1月の労働時間は雇用契約書を見ながら計算してください。

正しい残業代を計算するときは割増賃金もしっかり計算します。1日8時間以上働いているときは時間外手当という25%の割り増しが付きます。22時から朝5時までに働いているときは深夜・早朝手当という割り増しが付きます。1週間毎日働いたという時は7日目にあたる日に休日手当という割り増しが付きます。

特に、閉店時間の遅い美容師であればカット練習の残業代にまるまる深夜割増が付くことがあります。

残業代を請求できるのは2年分

残業代は2年経ってしまった分を請求できなくなります。これを消滅時効と呼びます。
つまり残業代を請求できるのは2年前に支払われた給料までとなります。早め早めの行動を心がけてください。

残業代を請求する

残業代を計算できたら、請求書を内容証明郵便で送ります。内容証明郵便は送った事実が郵便局に記録されるため、美容室がしらを切ることができず、消滅時効を止める効果もあります。

請求書を送った後の美容室の返答によって選択肢が変わります。もし、お金を振り込んでくれたらそれで終了です。話し合いでの解決を望むなら和解交渉をします。まったく取り合ってくれないようなら労働審判手続や訴訟となります。

基本的には話し合いで終わる

多くの残業代請求は内容証明郵便を送ってから話し合いをして解決することが多いです。調停の手続きである労働審判手続きを利用する場合でも労働審判が出される前にお互いが合意して終わることが大半です。

ごくまれに訴訟に発展することがありますが、判決まで和解交渉が続くのでやはり話し合いでの解決が基本となります。

裁判での決着がつかないということは法の知識だけでなく交渉力が問われます。労働問題に慣れている弁護士を選びましょう。見るべきポイントは実績と専門性です。

労働基準監督署はお勧めできない

残業代請求の方法として労働基準監督署に申し立てることもできます。ただ、労働基準監督署は美容室に何かを強制できるわけではありません。あくまで指導にとどまります。

実行力を考えるなら直接交渉をした方が、よほど可能性があります。

美容師が美容室に残業代請求するときは弁護士のサポートが欠かせません

いくら美容師という仕事に誇りを持っていても労働者としての権利を忘れてはいけません。残業代はあなたの頑張りによるお金なのだと理解しましょう。美容師の場合は労働時間が曖昧なため他のお仕事に比べて残業代の計算が難しいケースが少なくありません。遅くまで働いた給与を正しく受け取りたいなら実務に詳しい弁護士のサポートを受けましょう。

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