残業の証拠がない場合でも、残業代請求は可能?
残業代請求は法で認められた労働者の権利です。残業代未払いに気付いたらすぐに行動を起こしましょう。残業代請求をするうえでは残業をした事実が分かる証拠が必要なのですが、「タイムカードを見せてくれない」「退職したので会社に入れない」といった問題がよくあります。
証拠がないときでも残業代は請求できるのでしょうか?
- 残業代を請求することができるのはどんな人?
- 1日8時間以上、週40時間以上働いている人
- 次の項目に当てはまる人は、すぐに弁護士に相談
- サービス残業・休日出勤が多い
- 年俸制・歩合制だから、残業代がない
- 管理職だから残業代が出ない
- 前職で残業していたが、残業代が出なかった
この記事で分かること
残業代の証拠が手元になくても可能
残業代請求は証拠がないときでも可能です。証拠を集めなかったからと諦めないでください。証拠がないなら企業に証拠を出してもらいましょう。基本的には弁護士や社会保険労務士を通して残業の証拠となる書類を見せてもらうよう請求すればOKです。(これを開示請求といいます)
ただ、残業代の支払いは企業にとって都合が悪いため持っていない、何らかの事情で見せられないとあの手この手で開示を拒否することもあります。
企業が証拠を隠し通そうとする場合は証拠保全手続きが効果的です。
手元にない証拠は証拠保全手続で守れる
証拠保全手続とは、文字通り証拠を確保するための手続きです。こちらは弁護士や社会保険労務士ではなく裁判所が動きます。証拠保全手続は裁判所からの書面通知、あるいは裁判官や裁判所書記官が直接出向いての要求という形で行われます。
裁判所が動くため労働者自らが開示請求を行うより強い影響力を持ち、ほとんどの場合は証拠保全手続によって「証拠がない」という問題をクリアできます。まれに証拠保全手続をもってしても開示を拒否する企業がありますが、裁判にもつれ込むと使用者側が不利になりやすいです。
証拠保全手続の具体的な流れ
証拠保全手続を行うためには、証拠保全申立書を地方裁判所に提出します。証拠保全申立書のひな形はネット上を参照できます。ひな形を用意している裁判所もあります。証拠保全手続は弁護士が代理となって行うことも可能です。
証拠保全手続が認められるためには証拠保全の必要性をしっかりと裁判所に説明しなければいけません。(これを疎明といいます。)申し立て手数料は1件ごと2000円で収入印紙の形で提出します。
証拠保全申立が認められれば証拠保全の実施が行われます。証拠保全の上であなた自身やカメラマンが同行する場合もあります。
証拠保全手続によって得られた証拠は裁判を起こす場合も示談交渉をする場合も使えます。
証拠保全手続をするなら弁護士の協力が大切
証拠保全手続は裁判所に対して行うため弁護士を雇う必要がありません。しかし、どの証拠を押さえるかは本人が決めるため、本当に必要な証拠、有力となる証拠を押さえ損ねてしまうと残業代請求で不利になります。
本人が軽視していても法的に有力な証拠は弁護士が熟知しています。可能な限り残業代を取り戻すためにも弁護士のサポートを受けましょう。
残業代請求で証拠が必要な理由
残業代請求は証拠がなくても可能ですが、なぜ残業代請求で証拠が必要なのでしょうか?それは請求をする人には証明責任(立証責任)が伴うからです。
もし、何の証拠もなしに訴えることができてしまえば企業から不当にお金を奪おうとする人や、逆恨みで裁判を起こす人まで出てきます。権利を主張するためにはその証拠を絶対におさえてください。
立証責任について詳しく解説
法的な争いになった場合、お互いの言い分だけで決着がつくことはありません。両方の主張が食い違った時に事実を証明するのが証拠です。証拠の証明責任を被告に持たせてしまうと、虚偽の訴えが増えてしまうため原告であるあなたが証拠を集めなければいけません。(虚偽の訴えの典型といえば“当たり屋”ですね)
自分が不利益を受けたのにどうして…と思われますが法的な争いが健全に行われるためにはしょうがないことと心得てください。
残業代請求をするうえで証拠になるのは勤怠記録
証拠がないときは証拠保全手続を用いることができますが、そもそも「何が証拠となるのか」を知らなくてはいけません。残業代請求の証拠とはすなわち「残業の事実」ですから、勤怠記録が最も有力な証拠となります。
勤怠記録は在職中に押さえておきたい
勤怠記録の代表例はタイムカードやタイムシート、業務日報です。会社に出入りできる在職中に消滅時効が働かない過去2年間までの勤怠記録を押さえておきましょう。
勤怠記録をパソコン上のデータで保存している場合は勤怠データの印刷やスクリーンショットの撮影といった方法で証拠を押さえられます。スマホやカメラを持ち込んで証拠を残さず撮影することも有効です。
給与明細も必要です
勤怠記録が証明するのは「残業があった」ことで、それがサービス残業であったことや時間外手当がしはられていないことを証明するためには実際に支払われた給与の明細が必要です。残業代は時間に応じて上乗せされていきますから固定給で支払うことも基本給の一部として計算することも許されていません。
勤怠記録の他には何を集めればいい?
証拠がないときは証拠保全手続が有効ですが、そもそも勤怠記録を保管していない場合も考えられます。特に小規模の会社であれば起こりえます。
勤怠記録がないからといって「証拠がない」と諦めずこのような証拠を探しましょう。
雇用契約書
雇用契約書は基本給や決められた労働時間を証明するための書類です。例えば残業が発覚しても「もともとその時間で働く契約だった」と言われてしまうときや「残業代は契約書で別に定めている」とごまかされてしまうときに対抗できます。
就業規則
就業規則は残業代の他にも定められていたのに支払われなかった手当の支払いが書かれています。場合によってはそもそもの賃金計算方法まで違うことさえあります。就業規則は労働者に周知する義務があるので要求すれば見せてもらえます。
メール履歴
会社からメールを送るには、会社にいる必要があります。つまり、勤怠記録がなくてもメールの送信・開封歴がある=働いていたことになります。タイムカードを強制的に切らされていた場合におすすめです。
上司からの指示メールが特に役立ちます。SNSの送受信歴が活きることもありますから、可能な限り残しておきましょう。
メールは文面の印刷または転送で証拠を押さえられます。
パソコンのログイン履歴
メールを終業時に送らなければ、残業代が減ってしまうのか…というわけでもありません。パソコンにはログイン、ログアウト履歴が残りますからそちらも残業時間を推定するための証拠になりえます。
建物の入退室記録
建物にセキュリティ上の観点から入退室記録がされる場合があります。これも証拠になるかもしれません。他には防犯カメラの映像も証拠として使えます。ただし、これらは「会社にいたことの記録」でしかありません。
判例上、勝手に居残っていた場合は残業にカウントされません。
同僚や家族の証言も証拠になります
残業を知っていた人の証言も証拠として役立ちます。帰宅時間を証言してくれる家族、社内での様子を証言してくれる同僚、実際に残業をしている時にコミュニケーションをとった取引先の人などの協力を求めましょう。
残業代の証拠がないからとあきらめず弁護士に相談しよう
法律の関わる争いには厳しい立証責任があるため、証拠がないことはそれだけであなたの立場を不利にします。だからこそ、証拠として使えるものは最大限活用し、手元にない証拠は証拠保全手続で手に入れましょう。弁護士に相談することで自分が考えているよりも多くの情報を証拠として活かせます。
また、請求できるお金は残業代だけとは限りません。実務に精通した弁護士ならあなたの立場を保全するための手を尽くしてくれますよ。
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