退職勧奨とは~会社からの「肩たたき」

2021年7月2日33,526 view

退職勧奨

退職勧奨(肩たたき)をされたら辞めなくてはいけないのか。いいえ、そのようなことはありません。労働者は会社に雇われるための強い権利を持っていてたとえ解雇された場合もその多くが不当解雇として訴えることができます。退職勧奨がエスカレートして「強要」や「脅迫」と言える状態に発展した時はすぐに信頼できる弁護士と対策しましょう。

退職勧奨(肩たたき)自体は合法です

労働者は雇用関係が守られるために強い規制で守られています。しかし、あくまで労使関係は契約ですから使用者が労働者に退職を持ちかけることは合法です。

退職勧奨、いわゆる肩たたきに同意する形で退職した場合は自己都合退職となります。

一度退職するとその意思を撤回できないので注意してください。たとえ解雇されてしまった場合でも不当解雇で争う余地がありますから「転職先が決まっている場合」以外は多少居心地が悪くても会社に残ったほうが地位は安定します。※

※心身の安全が脅かされる場合は退職せずに会社へ行くのをやめ、弁護士に相談してください。

自己都合退職は失業手当(失業給付)で損をする

自己都合退職の場合は仕事がなくなるだけでなく失業手当でも損をします。自己都合退職の場合は会社都合退職に比べ失業保険の支給開始日が遅く支給額も安いです。具体的にはこのような違いがあります。

自己都合退職 会社都合退職
支給されるまでの日数(離職票を出してから) 7日+3か月の給付制限 7日(給付制限なし)
支給される期間 0~150日(被保険者期間による) 90~330日(年齢と被保険者期間で判断)
国民健康保険料 軽減されない 最大で2年間の軽減

このように、自己都合退職より会社都合退職の方が何かと有利です。退職を強要されたことやパワハラ・セクハラに耐えられなかった場合も証拠があれば会社都合退職にできます。

退職勧奨(肩たたき)は合法的に労働者をやめさせる手段

退職勧奨が問題となる背景にはわが国の解雇規制が厳しいことがあります。能力が低い、会社にとってふさわしくない、社員から好かれていない、人件費をカットしたい…会社が労働者を辞めさせたい理由は色々ありますが、基本的に「解雇以外の手段がない」と認められなければ不当解雇となります。

そのため会社は「自分から辞めてもらうように仕向ける」退職勧奨を行うのです。

いくら退職勧奨を行われたとしてもこちらが退職の意思表示をしない限り会社に残って賃金を受け取り続けることができます。

退職勧奨はこのように行われる

退職勧奨自体を大きく分ければ退職したくなるような誘惑、退職を要求する言動、退職せざるを得ない状況に追い込む行為になるでしょう。退職勧奨は合法ですが時にはエスカレートして違法になることがあります。慌てずに対処してください。

退職を持ちかけられる

退職勧奨でオーソドックスなのが退職を持ちかけられることです。会社に頼まれて退職する分、高い退職金をもらえる場合も多いです。早期退職者を募集することも広い意味での退職勧奨と言えるかもしれません。

ただ、肩たたきをされただけでは違法だといえません。退職の意思がない、条件が良くないと思ったら拒否しましょう。

退職は転職先が決まってから

自己都合退職のあとは失業保険をもらえますがあくまで有期限です。すぐに再就職先が見つかると限らないのでできれば転職先を見つけてから退職するのが望ましいです。

退職しないことに嫌味を言われる

何かと理由をつけて会社に在籍していることを責められます。これも退職勧奨として良く行われる方法です。精神的に参ってしまって退職しないよう注意してください。どうしても会社に行きたくない場合も退職せずに会社を休み、弁護士に相談してください。

あまりにひどければ犯罪や慰謝料請求に発展します

言葉の暴力は人の心を傷つけるため、ひどい時は慰謝料請求や強要罪に発展します。人によっては退職勧奨の名のもとに数時間の暴言を吐かれ続けることもあるようです。

退職したくなるようにハラスメントを行う

急に仕事量が増えたり社員の態度が攻撃的になったりすることも退職に仕向けるための手口です。セクハラが増えることよりはパワハラが増えることの方が多いです。社内いじめに遭った時も退職させようとしていることを疑ってください。

追い出し部屋も典型的なパワハラです。わざと閑職や意味のない仕事をさせる部署に配属させ勤労意欲をそぎます。そして、音を上げた社員から辞めていくのを待ちます。追い出し部屋の問題はニュースになることもありますね。追い出し部屋を使って退職に追い込むことは違法です。

以下ふたつは、稀ですが危険性があります。

精神病をねつ造して解雇する

信じたくないことですが、企業が産業医と結託して問題社員を精神病扱いにして解雇に追い込みます。実際にこのような手口で会社を辞めさせたのはオリンパスで大きなニュースになりました。もちろん、オリンパスが敗訴しました。

産業医にうつ病をはじめとする精神疾患に認定されたときは、他の精神科で診断を受け直すことが必要かもしれません。「病気だから退職した方が良いよ」という言葉を疑わなくてはいけないのは悲しい話ですね。

組織的に社員を追い詰める

こちらも本当にあるのかどうかわかりませんが、集団ストーカー(ガスライティング)によって社員の精神を壊す行為も退職に追い込む手段として知られています。

退職勧奨の証拠は残しておきましょう

退職勧奨は直ちに違法と言えませんが、違法な行為に発展する可能性は十分にあります。かりに退職勧奨が違法でなかったとしても自己都合退職を会社都合退職に変えることは可能です。

退職勧奨の証拠は文書や音声記録

退職勧奨をされたという事実は不当解雇や残業代請求のように確たる証拠に残しづらいです。そのため、退職勧奨をしたことを文書に残させることや口頭での退職勧奨を記録しておくことが大切です。

パワハラやセクハラについても記録を残すことで訴えを通しやすくなります。

音声記録は自分で録音すること

音声記録は自分で録音することが求められます。第三者に録音させるとプライバシーの侵害という理由で証拠の採用がなくなるかもしれません。ボイスレコーダーはできるだけ小さく、長時間使えるものを選びましょう。胸ポケットに忍ばせられるサイズのものが少なくありません。

裁判の際にいちいち聞き直すのは面倒であるため、録音記録と共に文字を書き起こしたものを沿えて書き起こした文書を作っておくと良いです。ただし、事件に関係ある部分だけを抜き出した反訳書は証拠の捏造が疑われるため面倒でも全文を書き起こしてください。

退職勧奨に対して労働者ができること

退職勧奨に対して労働者ができることは多くありません。もし、できることがあるとしたらそれは退職勧奨を理由としない違法行為への対応と同じです。

退職勧奨は絶対に合意しないこと

くり返しますが退職勧奨に応じて退職した時点で雇用契約が終わります。退職した会社に戻るためには使用者と再契約が必要なので基本的には戻れないでしょう。

一見良さそうな交換条件を示された場合もいったん考えてから決断してください。ただ、退職勧奨を無視し続けると会社が強硬手段に打って出てくることが考えられます。できれば退職勧奨された時点で転職先を探すことが望ましいです。

意図的に不当解雇させて慰謝料を勝ち取る労働者もいる

褒められた話ではありませんが、退職勧奨を無視→使用者が頭にきて解雇→不当解雇を訴えて慰謝料や和解金を勝ち取るというケースも少なからず起きています。推奨はしませんが「解雇規制の厳しさ」を物語っています。

嫌がらせをやめさせる

退職させるために行われる嫌がらせ、不可解な配置転換で悩んでいるならそれをやめさせましょう。労働基準法違反が考えられるため、法的な措置と慰謝料の請求が可能です。精神的に追い詰められた場合は病院へ通った費用も合わせて請求できます。

未払い賃金の請求も忘れずに

会社を去ることを考えているなら未払いの賃金をしっかり回収してください。賃金の支払いは法律で強制できます。特にサービス残業の名の下で支払われなかった残業代や計算から漏れていた割増手当はしっかり計算してください。

退職勧奨(肩たたき)に耐えられないなら弁護士に相談を

退職勧奨をされた段階で弁護士にできることは少ないです。しかし、肩たたきのレベルを超えた嫌がらせをされているなら違法行為としてそれをやめさせることができます。弁護士は会社との交渉から訴訟まですべての代理が可能な唯一の職業です。

退職勧奨をされた段階でも「これから何をされるのか」「転職すべきか否か」「未払い賃金は残っていないか」を確認するうえで弁護士への相談が有益です。

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