不当解雇の証拠になるのはどんなもの?
日本の解雇基準はかなり厳しく、よほどの事情がなければ解雇されません。しかし、労働者が不当解雇を証明できなければ解雇の撤回は難しいです。こちらでは不当解雇を撤回させるために使える証拠について説明します。会社を辞めようと考えている場合でも和解金請求につながるため、ぜひ覚えておきたいです。
不当解雇を証明するために集めるべき証拠は?
不当解雇を証明するために集めるべき証拠は、大きく分けて解雇理由が不当であることを示す証拠と解雇理由が正当化される事実がないことを示す証拠です。
前者の証拠は解雇理由証明書、就業規則や雇用契約書など、後者の証拠はタイムカードや人事評価書などがあります。また、解雇を言い渡したことそのものを証明するためにメールや録音記録も確保しておきたいです。
解雇をされたらその日から社員でなくなる
労働者は解雇をされた日から社員でなくなります。本当は解雇から30日前に予告しないといけないのですが30日分の解雇予告手当を払えばすぐに解雇できてしまいます。非常に効力が強く労働者の生活を一変させますから、不当解雇は断固拒否してください。
解雇は口頭で言い渡せば有効なので会社が「解雇していないのに勝手に出社しなくなった」「解雇に同意し、合意退職という形になった」と白を切る場合もあります。だから、解雇された事実を証明できる証拠が重要です。
絶対に退職届を出さない
解雇が不当だと判断されれば、解雇は撤回され継続して社員だったことになります。これは労働者にとって有利ですが、不当解雇で争っている間に退職届を出してしまうと自ら社員である資格を放棄したことになります。
その場の勢いで退職届をたたきつけると、不当解雇を撤回したところで復職も未払い賃金請求もできなくなりますから注意してください。
退職勧奨についても合意をしたら退職となります。
解雇理由証明書を会社に請求する
不当解雇を証明するための証拠として最優先で確保したいものは解雇理由証明書です。解雇理由証明書には会社がその労働者を解雇した理由が書かれています。兎にも角にも解雇理由証明書がなければ解雇の正当性を争えません。
解雇理由証明書が発行されれば解雇の事実を言い逃れできません。これも解雇理由証明書の発行の重要性につながります。
解雇理由証明書は会社に請求すれば発行してもらえます。解雇理由証明書の発行は労働基準法第22条によって定められているからです。解雇予告された日から請求可能です。
解雇理由証明書の請求は請求した事実が残るよう内容証明郵便を使って書面で行います。
解雇理由証明書の発行を断られたら
解雇理由証明書の発行を断られた時は粘り強く請求しましょう。解雇理由証明書の請求は残業代と同じく2年間の消滅時効があるからです。もしどうしても発行してくれない場合は弁護士を立てて請求することや労働基準監督署に指導してもらうことが考えられますが、解雇の事実をはぐらかされる恐れがあります。解雇理由証明書は解雇以外の理由で退職した人には発行しなくて良くなるためです。
やはり、解雇したという事実を示せる録音記録やメール記録が欠かせません。ICレコーダーはポケットに忍ばせられる大きさのものを選びましょう。
ベストは、解雇されたその日に解雇通知書を書いてもらうことです。
解雇理由証明書の発行を拒否した場合の罰則
解雇理由証明書の発行を拒否した場合、会社は30万円以下の罰金を負います。逆に言えばそれだけです。
解雇理由証明書の内容が曖昧な場合
解雇理由証明書の理由が曖昧で、解雇の経緯が分からない場合もあります。このような解雇理由証明書は法律の要件を満たしていないため再発行の請求が可能です。どんな証拠であっても積極的に書面に残せば後で困りません。
不当解雇の証拠になる、その他のもの
不当解雇の証拠になるものは意外と多いです。解雇は厳しく規制されているので、仕事ができない、勤務実態が良くなかったという労働者が不利になりそうな証拠が見つかっても強気で不当解雇撤回を目指してください。
就業規則
就業規則は具体的に「〇〇をした場合解雇にする」と書かれています。就業規則をもとに争うのは懲戒解雇です。懲戒解雇とは風紀を乱す行為、会社への損害、犯罪、度重なる遅刻や欠勤などを理由に懲罰的な解雇を行うものですが
何を懲罰とするかは就業規則によって決められます。一部は就業規則になくても解雇が認められますが基本的には就業規則が根拠となります。
例えば就業規則の内容が争いとなる解雇に副業を理由としたものがあります。副業禁止規定のない会社では副業を理由とした解雇は認められづらいです。
就業規則は未払い賃金の請求にも使える
解雇が撤回されればその間は会社が労働の拒否をしたとみなされ基本給の6割の賃金をもらえます。賃金の根拠として就業規則と雇用契約書が使えます。
勤怠記録
勤怠記録は遅刻や欠席を理由とした不当解雇に対抗するための証拠になります。会社が主張する遅刻や欠勤をした事実がないこと、仮にその事実があったとしても解雇が認められるほどに悪くないことを証明します。
多少の遅刻や無断欠勤では解雇に相当しないのでこちらが不利になりそうな証拠も積極的に活用してください、どうしても気になる場合は弁護士に相談してください。
勤怠記録がない場合はメールを証拠にします。メールは出社・退社時間の手掛かりになるし遅刻や欠勤理由の根拠になることもあります。
人事評価書や業務日報
人事評価書や業務日報は成績不振を理由とした不当解雇に対抗できる証拠となります。著しく成績不振ではなかったことや解雇理由証明書の内容と矛盾があることを示せればよいです。人事評価は書面でなくメールでも証拠になります。
成績不振での普通解雇は著しく成績が悪く、しかも改善指導の成果が見られないことや命令に従わないことが条件となります。したがって平均より劣るくらいでは普通解雇の理由として不十分です。
仕事を回されずに解雇された場合も不当解雇を訴えられます。
始末書も証拠となる
始末書は労働者にとって不利な証拠ではありません。始末書は労働者の実態と解雇の相当性を判断する道具にすぎず、始末書の枚数が少ない・程度が軽いなら有利な証拠になります。
業績を示す資料
業績を示す資料は本人の資質と関係なさそうですが、整理解雇の場合は重大な証拠となります。整理解雇とは人員整理のために行う解雇で、いわゆるリストラです。
整理解雇が認められるためには整理解雇をしなければ経営が立ち行かないこと、整理解雇以外に会社を守る努力をしたことが条件になります。
もし、会社の業績が良ければ整理解雇は必要ありませんし人員を減らさなければいけない職場で採用活動などもってのほかです。
被解雇者選定の合理性
整理解雇は解雇する人を正当な理由で選ばなければいけません。この点では人事評価書や勤怠記録などが証拠となります。
手続きの合理性
整理解雇は労働者との協議と労働者への説明が義務付けられています。そのため、整理解雇を主張する会社に対しては協議と説明がなかったことを示す証拠が有力です。
会社でのやり取り
書面での証拠が無い、公式の書類が無いという場合はあなたと会社とでされたやり取りが証拠になります。会社でどのような素行だったか、どのように評価されていたか、どんな理由で解雇しようとしていたか…このようなポイントを抑えます。
もし、録音記録を使うときはプライバシー権を侵害しないよう当事者同士のやり取りを本人が録音すること、和解交渉や裁判で参照できるよう反訳書を作っておくことを忘れないでください。
反訳書とは録音した内容を書面に起こし、要点をまとめたものです。反訳書がないと証拠の判別に時間がかかってしまいます。しかし、反訳書のみを提出すると音声の改ざんが疑われるので音声データと一緒に出してください。
不当解雇の証拠集めは早めに準備を
不当解雇の証拠集めは早目から準備をしましょう。解雇されるとその瞬間から給与がストップしますから死活問題です。とはいえ、解雇は突然されるものですからゆっくり証拠集めはできません。
即日解雇をされた時は、その日のうちに解雇理由証明書を確保しましょう。解雇予告をされた時は解雇されるまでに解雇理由証明書とその理由を否定するための証拠を確保してください。
解雇を予測するポイントがあるとすれば「退職勧奨」です。退職勧奨はやめさせたい社員に退職と引き換えに何らかのメリットを与えることで、拒否し続ければ解雇に踏み切ることがあります。
特に脅迫と思しき内容や態度である場合は音声記録を撮っておきます。違法な退職勧奨に応じた場合は退職の意思表示が無効になります。
証拠がそろわない時は証拠保全手続きを
証拠を確保できない場合や証拠を嗅ぎまわっていると気づかれて会社に隠されてしまう場合は、裁判所に証拠保全申立をします。すると裁判官が会社に出向いて証拠保全手続きをしてくれます。会社は必要な証拠を出さなければいけません。
ただし、証拠保全手続で確保できるのは申し立てた人が指定した証拠だけです。こちらのミスで本当に必要な証拠を見逃してしまい、会社に処分されるケースが無いよう気を付けてください。
証拠の妥当性は弁護士の判断が役立ちます
不当解雇の証拠選びに迷った時は弁護士の判断が役立ちます。証拠保全手続きを一回で終わらせたいときや、証拠が十分に集まらずに困っているときは大いに活用してください。
不当解雇に納得できないなら弁護士に相談を
不当解雇されてしまったら1日でも早く解雇を撤回してもらわなければいけません。証拠の確保をしようにも何をすればよいのかわからない、解雇されたという事実が重すぎて落ち着いて考えられないという場合はすぐに弁護士へ相談してください。弁護士に相談すれば今日からできることを丁寧に教えてくれます。会社との交渉や裁判の出廷を代理してくれるので精神的なダメージも抑えられます。
冒頭でも書きましたが、解雇が認められるためにはよほどの理由が必要です。こちらは、普通の会社員として順調な業績の会社に勤めていたことを証明できれば十分ですから基本的に労働者が有利と。
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